セキダ博士のちょっぴり変わった日常(5)
我々一行は繁華街に繰り出した。ゴリ太はいつもの変装姿でいざ信長が暴れ出したときの鎮静役として連れていくことにした。小野少年は研究所で留守番させようとしたが、またもや三木先生ネタで脅迫されそうであったので仕方なく行動をともにした。
信長は街に繰り出してから終始感嘆の声をあげていた。道路を走る自動車やバイク、ビルに取り付けられた大スクリーンのテレビジョン、それに忙しなく歩く若者たちのファッション。
「これが太平の世が行きつく先なのか」
信長は数多のショーウィンドウに目移りしながら興奮していた。
「はい、日本は戦をすることはありません。経済的な戦とかはありますが」
私は周りの奇異な目を気にしながら答えた。
信長が品定めするようにショーウィンドウ内に並ぶ電子機器を見ながら、ふむふむと頷く。
「それは誠に良いことだ。自由に商いをさせることは技の進歩につながる。より良いものが出回れば民の暮らしも豊かになるだろう」
信長が顎に手を当てて言った。その発言には彼自身の奥底の信念が垣間見えたような気がした。仮に信長が現代に実在したならば、大きく経済界に寄与する功績を残すのだろう。
私も信長について考えを巡らせてふむふむと感心していると、信長のもとに二人の女子高校生が物怖じせずに近づいてきた。
「ねえお兄さん、活かしたヘアセンスしているね。一緒に写真撮ってよ」女子の一人がスマホカメラを自撮りモードにして言ってきた。
「写真?」信長はスマホを物珍しく見た。
「ああ簡単に言えば自分の姿が瞬時に絵となるわけです」私は分かるように説明した。
「面白い。良かろう」
信長はジャケットを整えて堂々としたポーズを取った。
何気なく見ていた私の肩をゴリ太がトントンと叩いた。
「関田博士、それはまずいんじゃ…」
ゴリ太は心配そうな目で私を見る。
私は瞬時に思考した。仮に信長が写真を撮られたとしよう。女子高生は写真をSNSにアップする。そしてグローバルに拡散されて瞬く間に信長の顔が知れ渡る。信長のそっくりさんがいるとスクープになって一緒にいた我々のもとに取材が入る。もしかすれば我々の研究内容がリークしてタイムマシンやら喋るゴリラが露呈するかもしれないし、そうなれば我々はあらゆる組織に追われて捕まるものなら一生缶詰状態でやりたくもない発明をさせられる羽目になる。となると三木先生とは一生会えなくなる。
私の思考回路内で「織田信長の写真を撮られたならば三木先生と会えなくなる」の論理式が成り立ち、私はすぐさま阻止することにした。
「お姉さん、悪いけど彼はアイドルなんだ。写真撮影はNGとさせてもらうよ」私は適当な理由をでっちあげてカメラを遮った。
女子高生たちは口をぽかんと空けたが、私が言ったことを咀嚼して思わず吹き出した。
「受けるんだけど。武士アイドルとか結成してるの」女子高生は腹を抱えて笑った。
「正確にはこの人は織田信長でやんすね」
小野少年は自慢げに言った。
「のぶなが! 言われてみると激似だわ!」
女子高生は大きな声で言った。
「いや、本当に織田信長でやんすよ」
小野少年は懲りずに言う。
「こらっ小野少年!」
私は小野少年の頭を軽く叩いた。
「いかにも! ワシは織田信長じゃ!」
信長は宣戦するように響き渡る声で叫んだ。
周りの人々がどよめき始める。
「あれって信長じゃね…?」
「現代風信長?」
「いや程度の低いコスプレでしょ」
「なんかうさんくさい」
「ただのおっさんじゃん」
そう言った有象無象の声が投げかけられた。
「信長さんこちらへ!」
私は信長の腕を引っ張って街中から出た。
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