第22話 カフェの存亡を賭けた闘い

アルベールはカフェを閉店した後、メンバーを全員を集め、緊急会議を開いた。


カフェの売り上げを回復させるための作戦を練るためだ。


「今回の魔女伝説騒ぎで、カフェの売り上げが激減してしまった。このままではうちは持たない。みんなのアイディアが欲しい」とアルベールが呼びかけると、メンバーたちはそれぞれの提案をした。


エマだけでなく、メンバー全員にとって、プチ・ぺシェは生命線そのものだった。


「高齢者や子育て中の母親に向けて、カフェのメニューを宅配するサービスなんてどうかな?僕が馬車で配達するよ」とまず、ロランが口火を切った。


ロランも最年少ながら、カフェの一員としてすっかり馴染んでおり、今では積極的にカフェを支える姿勢を見せていた。


「家族連れをターゲットにした特別メニューを考えてみるのはどう?」とニコレッタが、母親らしい視点で提案した。


「ここは思い切って貴族の方々に協力してもらって、目を引く存在になってもらうのが一番効果的よ」とソフィアも大胆な提案をした。ルカやシャルロットたち貴族の力を借りて、貴族と同じ振る舞いをしたがるミーハーな客を狙った発言だった。


「エマ、つまりプチ・ペシェと魔女伝説とは一切関係がないことを、メディアを通じてきちんと説明することが大切だと思います。まだ誤解している人がいるでしょうから」と、レオらしく冷静な対応の必要性を説いた。


「エマに新しいスイーツメニューをいくつか考案してもらって、カフェでアフタヌーンティーを開催するのはどう?新しいものに敏感な若者たちが集まるかもしれないわ」とソフィアがさらに提案した。


皆の考えを聞いたエマは、「 どれもやってみる価値がありそうね。とにかく全部やってみようか?」とアルベールに話しかけると、「ああ、もうこうなったらやるしかないな」と強くうなづいた。


エマはすぐにメンバーに指示を出した。


「じゃあ、ロラン、宅配サービスの準備と宣伝をお願いね。レオ、サポートに入ってあげて。」


「うん、分かったよ」とロランが元気よく答え、レオも「分かりました」とうなずいた。


「ニコレッタ、子供向け特別メニューをいくつか考えてちょうだい。」


「もちろん、任せて」とやる気満々のニコレッタ。


「アルベールは、声明文の作成とメディアの対応をお願い。」


「了解!」とアルベールも意欲的だった。


「ソフィア、カフェのインテリアをイメージチェンジしたいから、考えてみてくれる?」


「オーケー」といつもの明るい笑顔でソフィアが答えた。


「貴族の方々への協力依頼と新しいスイーツメニューの考案は、私が進めるわね」とエマが締めくくった。


メンバーたちは、カフェの生き残りを賭けて、それぞれの任務に取りかかった。


カフェ経営は、元の世界にいたころから抱いていたエマの積年の夢の結晶であり、簡単に潰されるわけにはいかなかった。エマの中に静かな闘志が湧きあがっていた。


早速、エマはダーリントン伯爵邸を訪れ、ノアに協力を求めることにした。


魔女伝説に関する噂話の影響で、ノアとルカの関係がぎくしゃくしているのではないかと心配し、まずはノアにだけ会うことにしたのだ。


「ノア様、本日はお時間を取っていただき、ありがとうございます。」


「問題ないよ。そんなことよりエマ、一連の事件の容疑者にされた上に、カフェの売り上げが激減してるんだって」とノアは心配そうに尋ねた。


「そうなんです。そこでノア様にご協力をお願いできないかと思いまして。」


「もちろん、僕にできることなら何でもするよ。」


「今度、カフェで新メニューのアフタヌーンティーを開く予定なんです。是非参加してもらいたいんです。できれば貴族の知人や友人の方々にも、声を掛けていただければ有り難いです。」


「分かった。任せてくれ。で、ルカにはもう声かけたの?」


「いいえ。魔女伝説の噂話の件で、ノア様とルカ様の関係が心配で。。。」


「それなら心配いらないよ。ルカとはその件についてもう話をしたんだ。過去は過去、今は今だということで二人とも割り切って受け止めているから。」


「そうでしたか。それなら安心しました」とエマはほっと胸をなでおろした。


「ルカが君のことをすごく心配してたよ。君と出会って、ルカはなんだか変わった気がするんだ」とノアが複雑な表情をしながら言った。


「何だか自分でもよく分からないんですけど、ルカ様を見ていると、どうしても放っておけない気持ちになるんです」とエマは、心の内を語り始めた。


「時々、生意気で傲慢な態度を見せたかと思えば、ふとたまらなく弱弱しく哀しそうな表情をされる。そのギャップがどうしても気になって、目が離せなくて。。。」


それを聞いたノアは、しんみりとした様子で言った。


「君たちお互いに同じように感じているんだね。ルカもエマのことを同じように言ってた。危なっかしくて放っておけないって。どう接したらいいのか分からなくなるって。」


ルカが自分をそんな風に思っていることを知ったエマは、胸がドキリと高鳴った。恥ずしさが込み上げきて、顔が熱くなるのを感じたが、同時に心の中にじんわりと広がる嬉しさを抑えきれなかった。ルカに対する恋心が、自分の中で静かに芽生え始めていることをエマは自覚せずにはいられなかった。


しかし、その時、ノアの顔に浮かんだ暗い影をエマは見逃さなかった。ノアがルカに向ける視線には、どこか特別な感情が込められているように感じられたのだった。


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