第21話 魔女伝説の真実
立て続けに起こる怪奇な惨殺事件に、街全体が不安に包まれていた。特にターゲットが上流階級の人物に集中していることから、彼らの恐怖は極限に達していた。
犯人が未だ捕まらず、事件解決の兆しすら見えない異常事態に、人々の不安は日に日に募っていった。やがて、この一連の事件は、かつて魔女狩りで犠牲になった修道女の復讐ではないかという噂が広まり始めた。もともとこの地域では、古くから魔女伝説が語り継がれており、その恐怖が再び街を覆い始めていたのだった。
中世の時代、この領地は、アッシュフォード伯爵家とダーリントン伯爵家が治めていた。両家は長年にわたりライバル関係にあり、争いが絶えなかった。
ある日、アッシュフォード伯爵家の長男が突然亡くなるという事件が起きた。後継者を失ったアッシュフォード家の当主は、怒りと悲しみのあまり正気を失い、原因不明の病とされていた長男の死を魔女の呪いによるものだ、と結論付けた。
当時、不順な天候により農作物が不作で、家畜が次々と死んでいったため、領地は深刻な食糧不足に陥っていた。飢饉や伝染病が広がり、人々は絶望的な日々を送っていた。
そんな中、不運や困難の責任を誰かに押し付けようとする心理が高まり、魔女狩りが始まったのだ。
無実の人々が次々と魔女として告発され、拷問、処刑されるという悲劇が生みだされた。
領地全体が疑心暗鬼に包まれ、誰もが次は自分が魔女として告発されるのではないか、と怯える日々が続いたのだった。
アッシュフォード伯爵によって魔女のレッテルを貼られた修道女ゾフィーは、まさに魔女狩りの犠牲者だった。
有能で慈悲深い修道女として誰からも慕われていたゾフィーは、伯爵による一方的な告発で形ばかりの裁判にかけられ、火刑に処された。人々は、伯爵に逆らう術などなく、ただ見守るしかなかった。
「神はすべてを見ておられます。誰が過ちを犯し、誰に罪があるのかを。神が私の死に復讐してくださるでしょう」とゾフィーは最期に呪いの言葉を残したと伝えられている。
その一方、アッシュフォード伯爵家の長男の死は魔女の呪いではなく、敵対するダーリントン伯爵が雇ったアサシンによって毒殺されたという噂も囁かれていた。
しかし、真実はもみ消され、ゾフィーの無念は魔女の復讐の呪いとして語り継がれ、エマの人生に暗い影を落とすことになった。
魔女の復讐の呪いは、本当に魔女によるものだったのか、それとも人間の権力欲や虚栄心が生み出した負の産物だったのか。
もはや真実を知る者は誰もおらず、噂だけがいつまでも人々の心を惑わせていた。
新聞や雑誌などさまざまなメディアによって魔女伝説の話題が取り上げられると、瞬く間に噂話として世間に広まっていった。
「噂好きは人間の性だ。魔女伝説のような昔の話題は、尾ひれがついてどんどん広がるものだ。真偽なんて関係ない。刺激的な話題が人々を惹きつけ、無責任に拡散されていくんだ」と、クリスはその伝播力の恐ろしさを嘆いた。
さらにゾフィーが当時、修道女として働いていた修道院も取材され、そこの孤児院で育った子供たちのリストが公表された。
そこにはエマの名前もあり、現在プチ・ペシェを経営していることまで明らかにされた。
エマと一緒に育った他の孤児たちもまた、彼女と同様に、自分勝手な人たちの好奇の目にさらされ、プライバシーを侵害されていた。
「エマたちの慈善活動を良く思わない連中が、その情報を利用して、エマを魔女の復讐の呪いにかかった人物、つまり一連の事件の容疑者に仕立てあげようとしているんだ」と、クリスはエマに厳しい現実を告げた。
その策略が功を奏し、プチ・ペシェは評判を落とし、たびたび嫌がらせを受けるようになった。
街の人々はカフェを避けるようになり、客足は途絶え、売り上げは激減してしまった。
そんな中、ヴィクターたち刑事がカフェを訪れ、エマに事情聴取をし、家宅捜索を行った。
しかし、事件とエマを結びつける証拠は何も見つからず、すぐに容疑者リストから外されたのだった。
無事に解放されたエマだったが、プチ・ぺシェは存続の危機に瀕していた。
「風評被害ほど恐ろしいものはないわ。早急に手を打たなければ。。。」
一刻も早く汚名を返上し、カフェの売り上げを回復させるための対策を講じなければならなかった。
エマは、胸の奥に重くのしかかる不安を感じながら、何としてもカフェを守りぬく決意を固めたのだった。
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