第18話 漆黒の闇に包まれた邸宅
この日、カフェメンバーたちは、ルカとシャルロットの招待でアッシュフォード伯爵邸を訪問した。ノアや彼の友人たちも一緒に、皆でアフタヌーンティーを楽しむことになっていた。
ノアの貴族の友人たちは、エマたちが主催するチャリティーイベントの強力な支援者でもあった。
シャルロットの案内で、応接間に向かう途中、大きな窓から邸宅の裏手が見えた。そこには、切り立った崖とうっそうと茂る深い森が広がっており、自然の威厳に圧倒された。
「子供の頃、あの森でルカとよく遊んだんだ」とノアが懐かしそうに語り始めると、ルカも
「川で遊んだり、洞穴に秘密基地を作ったり、楽しかったな」と思い出をたどった。
「崖は危ないから近づくなと言われていたけど、怖いもの見たさによく近づいたよな。度胸試しに下をのぞいたりしてさ」とルカはいつになく楽しそうだった。
女の子の恰好をさせられて育っても、やっぱり男の子なんだな、とエマはほほえましく思った。
通された応接間は、陽の光が柔らかく差し込み、エレガントに飾られたアフタヌーンティーが目を引く、華やかな雰囲気だった。
ピアノの美しい旋律が響く中、純白のリネンが敷かれたテーブルには、色とりどりのスイーツやセイボリーが盛り付けられていた。
また、洗練された装飾の施されたティーポットからは、紅茶のほのかな香りが漂い、アットホームで温かみのある空間が広がっていた。
バラの庭園を一望できるバルコニーに出ると、色鮮やかなバラが咲き乱れ、甘い香りが風に乗って辺り一帯を包んでいた。
「わあ、素敵!まるでおとぎ話の世界みたい。」
エマは夢のような光景に感激し、しばらく時間を忘れてその景色に見入っていた。
日常の喧騒を忘れさせる贅沢な時間が、そこには流れていたのだ。
皆が談笑している中、ルカがエマをこっそり自室に案内した。
「渡したいものがあるんだ」と言って、ルカは包装紙に包まれた小さな箱をエマに手渡した。
「これは何ですか?」とエマが不思議そうに尋ねると、ルカは「いつか服を脱がされた日のお礼だ。遅くなったけど」とからかうように言った。
気まずそうな表情を浮かべたエマに、「とにかく開けて見て。きっと気に入るから」と自信満々に言うルカ。箱を開けると、そこにはキャンドル型のネックレスが入っていた。
「わあ、きれい。。。」とエマが目を輝かせていると、「どう?気に入った?」とルカがにこやかに尋ねた。
「はい、とても気に入りました。私、キャンドルが大好きなんです。儚さが特に。。。」とエマは少し考え込んだ後、「でもこんな高価なもの、本当にいただいていいんですか?お気持ちだけで十分なのですが」とためらいながら言った。
「エマ、お前のために選んだんだ。受け取ってほしい」と真剣な顔で言うルカの気持ちを感じ取り、「では遠慮なくいただきます。素敵なプレゼントをありがとうございます。大切にします」とエマはうれしそうに受け取った。
初めてのルカからのプレゼントに心躍らせたエマは、その場ですぐにネックレスを身に付けた。
「どうですか?似合いますか?」と聞かれたルカは、少女のように無邪気にはしゃぐエマに、少したじろぎながらも「ああ、とても似合ってるよ」と笑顔で答えた。
二人が応接間に戻ると、ノアが近づいてきて「エマ、そのネックレス、とても似合うね」とほめてくれた。
「当たり前だろ、俺が選んだんだから」とルカがぶっきらぼうに言う様子が、エマには少年のように可愛く映った。
そんなルカを見つめるノアの表情には、どこか物寂し気な影が差していた。
しばらくするとアッシュフォード伯爵とルカの兄のリチャードが挨拶のために部屋に入ってきた。
「皆様、はじめまして。アッシュフォード伯爵家当主のエドワードと申します。これは息子のリチャードです。ルカとシャルロットがいつもお世話になっております。本日はゆっくりと優雅なひとときをお楽しみください。」
伯爵が笑顔で挨拶を終えると、二人は早々に部屋を後にした。
エマは、伯爵が思っていたよりも穏やかな人物であることに正直驚いたが、伯爵が纏う不穏な雰囲気も感じ取っていた。
シャルロットとルカのもてなしを受けて、皆が楽しい時間を過ごし、邸宅を後にする頃には、空には星が瞬いていた。
昼間見た深い森と崖は、すでに漆黒の闇に包まれ、エマはふとその暗闇がいつか自分を飲みこんでしまうのではないか、という不安を覚えたのだった。
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