第14話 休息日に見つけた哀しみ

その日は久しぶりのカフェの休業日だった。


連日のカフェ業務や休業日を返上しての慈善活動に加え、深夜のアジールの活動で疲労困憊しているメンバーたちには、休息が必要だった。


久しぶりの休日なのだから、自室でそれぞれ好きなことをしてゆっくり休めばよいのだが、ここがカフェメンバーたちのおかしなところだった。


「ねえ、みんな、街に出かけない?」とムードメーカーのソフィアの一声に、皆一様に賛成し、街へ繰り出すのがいつものパターンだった。


自室でゆっくり過ごすつもりだったエマだが、自分一人が閉じこもっているわけにもいかず、結局皆と一緒に出掛けることにした。


「最高のチームね」とエマがアルベールに向かって言うと、


「ああ。でも俺は自宅でゆっくりさせてもらうよ。あ、後。。。ランチ代はカフェの経費で落としていいからな」とアルベールはさらっと一言付け加えると、自宅へと戻っていった。


お金に細かい倹約家のアルベールが、そんなことを言うのは珍しいことだった。エマは驚きつつも、その配慮に心が温かくなった。


ショッピングともなると、ソフィアのエネルギーが爆発した。


「わあ、このピアスかわいいー!あ、このヘアアクセサリーもいいな!このネックレス、あの服に絶対、合うわ!」と大はしゃぎのソフィア。


おしゃれをしたい年頃ということもあって、洋服屋から雑貨屋まで次々と巡り、ウインドウショッピングを満喫していた。


「これ、かわいい!でもちょっと高いかな。。。うーん、でも欲しいな。。。」と悩む姿も楽しげだった。


いつも明るくポジティブなソフィアに、エマは何度も救われてきた。明るい笑顔でいられることの強さと優しさを、エマはソフィアから学んだのだった。


「私は、子供のころから推理小説が大好きで、特に有名な探偵マルコム・フィンチの大ファンなんです。」本のこととなるとレオの口数は格段に増えた。


レオは、本屋に立ち寄り、たくさんの本を手に取って熱心にページをめくっていた。


「いつか小説家になることが僕の夢なんです」と文学に対する情熱を持つレオは、大柄で威圧感のある見た目とはうらはらに、いつも穏やかな口調で話した。


カフェでもめ事などの問題が起こると、エマが真っ先に相談する相手はレオだった。彼の存在は、エマに大きな安心感を与えていた。


ニコレッタは、普段は母親に預けている娘とは週に一度しか会えない環境にいた。エマが、娘もカフェで一緒に住んだらどうか、と提案したこともあったが、


「カフェ業務の邪魔になるから。今のままで大丈夫よ。気を使ってくれてありがとう、エマ」と遠慮したのだった。


ニコレッタは、口にこそ出さないが、アジールの活動によって娘との日常生活に支障が出ることを懸念しているのだろうと理解し、エマは申し訳ない気持ちになっていた。


元の世界では息子がいたエマには、娘と一緒に暮らしたいニコレッタの気持ちが、痛いほど理解できたのだった。


息子が身に着けていた服や靴と似たものを見つけると、エマは元の世界に残してきた息子との記憶がよみがえり、切なくなるのことがあった。


離れて久しく、もう二度と会うこともないが、どんな青年になっただろうか、楽しい生活を送っているのだろうか、とあれこれ考えながら、罪悪感と感傷に浸ることも度々あった。


「早かれ遅かれ子供はいつかは親元を離れていくもの。子供の成長はうれしいけど、ちょっと寂しいものね」と優しく語るニコレッタ。


息子への罪悪感を抱えるエマの気持ちを察したかのように、さりげなく慰めてくれるのはいつもニコレッタだった。


カフェメンバーたちは、決して特別な人間ではなかった。おしゃれが大好きな普通の女の子であり、本が大好きな普通の文学青年であり、娘を思う普通の母親だった。


お昼になると、地元のレストランに皆集合し、サンドイッチやミートパイなどを注文し、テーブルを囲んで和やかなランチタイムを過ごした。


しかし、エマはふと隣のテーブルに座っている二人の女性が気になった。彼女たちの瞳の奥に哀しみの色が見えたからだった。


エマの脳裏には、彼女たちが抱えている深い哀しみの理由が浮かび上がってきた。


彼女たちは、希望を胸に農村から都市へやってきたが、待っていたのは娼婦としての辛い生活だった。病気になれば即座に解雇される恐怖に怯え、わずかな収入にしがみつくしかない日々。


その過酷な生活の中、売春宿のオーナーたちは、娼婦たちをまるで道具のように扱い、搾り取れるだけ搾り取り、使い物にならなくなると無情に切り捨てるのだった。


都会での新たな人生を夢見てやってきた彼女たちを、私利私欲のために踏みにじる者たちをエマはどうしても許せなかった。


次の獲物は売春宿のオーナーだ。


エマは、彼女たちの哀しみに沈んだうつろな目を見つめながら、心の中で次の攻撃対象を定めたのだった。


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