第11話 チャリティーショップで生まれる新たな価値

この日、チャリティーショップイベントが、地元の小さな教会で行われた。その教会は、カトリーヌがかつてシスターとして働いていた場所だった。


このチャリティーショップは、毎年恒例の行事となっていた。エマたちが提案したこのイベントは、貴族や富裕層の人たちが使用せずにしまい込んでいる品々を、地元の人々に安価で販売し、その売上金を孤児院や貧困学校に寄付することを目的としていた。


ノアの呼びかけもあり、心ある貴族たちから多くの品々が寄付された。食器、調理器具、書籍、インテリア用品、靴や帽子、文房具、衣類、アクセサリーまで、その品ぞろえは実に多彩だった。


「要するに、その品物が不要とされている所から、必要だとされている所に移動させるだけの話なのよね」とニコレッタが言うと、エマも「そう。それだけでその品物に新しい価値が生まれるのよね」と賛同した。


さらにエマはノアに向かって、少し言いにくそうに言った。


「世間では、貴族の売名行為だという人たちもいますけど、やらない善よりやる偽善、ということで問題ないと思うんですが。。。」


ノアが笑いながら「もうそういう批判には慣れたよ。僕は、自分が正しいと思うことをやるだけさ」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


ノアが、エマたちが主催する慈善活動に積極的に協力するようになったのは、このチャリティーショップがきっかけだった。


「貴族として様々な特権を持って生まれたからには、それに伴う義務と責任を果たしたい」とエマたちに熱く語った日のことは懐かしい思い出だ。


ノアの物腰柔らかで社交的な性格も手伝い、彼は、エマたちの慈善活動に欠かせない協力者となった。エマたちが、これまで問題なく慈善活動を続けてこられたのも、ノアのサポートのおかげだとエマは感謝の気持ちでいっぱいだった。


ノアが貴族の義務について真剣に考えるようになったのは、社会制度の構築や教育の普及、文化の発展など、社会的影響力を持った先人の貴族たちの功績を知ったからだった。


「ノア様のような志高い協力者を得られて、私たちは本当に心強く思っています」と言うと、「これからもそれぞれの立場でできることをやっていこう」とノアは同志としての握手をエマと交わした。


快晴の空の下、チャリティーショップはお宝を探しにきた多くの来場者でにぎわっていた。残念ながら、ルカとシャルロットは別の予定があり、今回は参加できなかった。


エマとノアは雑談をしながら、会場を一緒に見て回った。上品でおしゃれなアクセサリーも数多く出品されており、中でもキャンドルをデザインしたネックレスにエマの目はくぎ付けになった。


ロウソクの部分が純金でできており、炎の部分にはルビーがはめ込まれている魅力的なものだった。


「このネックレス、小さくてシンプルだけど、とても素敵です。私、キャンドルが好きなんです。精一杯、光を放ちながらも、瞬く間に消えてしまう、その儚さにとても魅かれるのです」とエマは、感激した様子で言った。


結局、ネックレスは高価で手が届かなかったが、「素敵なネックレスを見て、感動できただけで十分です」とエマは満足そうだった。


元々物欲があまりなかったエマだが、異世界に来てからは現世への執着がさらに薄れ、物へのこだわりがなくなっていたのだ。


そんなエマの様子を見たノアが、「エマらしいけど。。。時にはささやかな贅沢も必要だよ」と言うと、エマは微かに笑みを浮かべた。


その笑みには、物に縛られない自由な生活を願うエマの人生観が滲んでいた。エマにとって、贅沢はもはや心を満たすものではなく、むしろ本当に大切なものから目を逸らすような、空虚な行為に過ぎなかったのだった。


イベントには、食べ物の屋台も出ており、ノアとエマは、紅茶とスコーンを購入し、近くのベンチに腰掛けた。焼きたてのスコーンは、外は香ばしく、中はほくほくしていて、二人とも大満足だった。


「子供の頃、よく夏祭りの屋台に連れて行ってもらったことを思い出します」とエマが懐かしそうに言うと、


「俺は、子供の頃、両親が厳しくて、こういう場所には連れて行ってもらえなかった」とノアが少し寂しそうに言った。


そして、その寂しさを打ち消すかのようにノアが微笑みながら続けた。


「でもいつもルカがそばにいてくれたから、寂しいって思ったことなんてなかった。」


それを聞いたエマは、誰も知らないルカとノアの深い絆とともに、貴族の悲哀を垣間見たような気がした。


大盛況だったイベントも終盤に差し掛かり、カフェメンバーたちが再び集まってきた。


本好きのレオは、「お宝本がたくさんあって選ぶのに苦労しましたが、大収穫でした」と満足げに報告した。


「かわいいリボンのヘアアクセサリー、見つけたの。どう?」とが嬉しそうに見せるソフィアに、レオはどう返答したらいいのか、戸惑っていた。


料理好きのニコレッタは、「このお鍋、分厚くてすごいクオリティだわ。美味しい煮込み料理ができそう」とうれしそうに話していた。


アルベールは最初、買ったものをこっそり隠していたが、皆にせがまれてしぶしぶ取り出した。それは、上品な眼鏡ケース入れだった。普段はお金に厳しく、買い物に無頓着なアルベールが、珍しく自分のために買い物をしたことをエマは微笑ましく思ったのだった。


ノアと教会関係者にお礼を言うと、エマたちはカフェへ戻った。


その日の夕食は、ニコレッタが購入した圧鍋で作った野菜たっぷりのスープだった。


カフェメンバーと一緒に料理を囲んで、他愛のない会話をする平穏な空間が、とても心地よく感じるエマだった。


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