Chapter2 そして、少女は裁定者となる
Chapter 2-1
こんなことになるなら、最初から諦めた方がよかった。
ずっと諦めなかったから、こんな結末しか生まれなかった。
――ああ、せめて最後に望むなら。
私は、私でなくなりたい。
※ ※ ※
寝覚めは最悪だった。
汗だくで、荒い呼吸を繰り返す。
原因は今見た夢にあるのだろう。しかし思い出そうとすればするほど、夢の内容は霧がかかって見えなくなっていく。
ほどなくして全く思い出せなくなった夢のことはもうどうしようもなく、私は使用人を呼んでシャワーと着替えを用意させた。
朝食の席では、父の自慢話に耳を傾けつつ、別のことを考えていた。最近の父はやたらと話が長くなり、口数も増えてきた。私とともに聞いている母の笑顔が、明らかに愛想笑いになりつつある。
さて、考えているのは今日からの生徒会のことだ。既に現メンバーでの活動は半年近く行われているが、新年度になり先輩方が本当にいなくなった今、やはり雰囲気はガラリと変わることだろう。
我が白凰学院は中高大一貫の学園法人である。特に中等部と高等部の結びつきは強く、生徒会に至っては形こそ中等部と高等部にそれぞれ存在するものの、活動は一緒に行われている。
高等部の生徒会には、中等部の生徒会を包括する役割を持つ、という側面があるのだ。高等部には中等部の面倒を見る役割もある、と言った方が分かりいいだろうか。
つまり何が言いたいのかと言えば、学院がエスカレーター式であるのと同様に、生徒会人事もエスカレーター式であるということだ。
登校の時間になると、使用人の車に乗る。窓の外を流れる景色は昨日までと何も変わらない。
車の外に出れば、そこには桜が舞い散り、新年度を祝う空気が広がっているのかもしれない。しかしそれは、私には関係のないものだった。
今までも、そしてこれからも、ずっと。
この動く箱の中にいる限り、私の世界はきっと変わらない。
学院に到着し、私はまず生徒会室を目指した。生徒会には、在校生の代表として編入生を歓迎する役目がある。新年度早々、休む暇もない訳だ。
「ごきげんよう、みなさん。改めて今年度もよろしくお願いいたします」
かなり早い時間だったが、私が生徒会室に来てほどなくして、メンバー全員が集まった。
高等部生徒会長からの挨拶が手短に終わり、全員が作業に入る。
私の今日の最大の役割は、在校生代表として祝辞を述べる、生徒会長の補佐だ。それも高等部と中等部の両方の面倒を見なければならないから、忙しさはそれ相応である。
そうして、始業のベル直前まで、作業は進められた。
ところで、言い忘れていたが。
私、幸宮祈里は、今日から高校一年生になる。
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