Chapter 1-17

「うわぁ、凄い人」

「昨日は遅めの時間だったものね」


 お昼休みになり、私と純花すみかは連れ立って学食へやって来ていた。昨日は人がまばらだったのでかなり広く感じたけれど、流石に今日は利用する生徒たちでごった返していてちょっと狭い印象を受ける。

 席の数はかなり多いけど、それでも中等部と高等部の生徒が入り混じる場所なので、空いている席を見つけるのは至難の業だ。入学したばかりの一年生にはかなり無理ゲーかも。


「あ、幸宮ゆきみや様ー、立瀬たつせ様ー」

本間ほんまさん?」


 窓際の四人掛けの席に、一人でぽつんと座っていたのはゆるふわ眼鏡こと本間さんだった。

 私たちは大きく手を振っている彼女の許へ向かった。


「お一人なんですの?」

「はいー。なのでご一緒させて頂けないかとー」

「むしろこちらからお願いする所だわ。そうでしょ、祈里いのり

「え? う、うん……」


 正直、純花が乗り気じゃなければ遠慮したかった。なんとなく苦手なんだよね、この子。

 ともあれ、申し出を断る理由はないので、私は純花と共に本間さんの正面に座る。


「えへへー、幸宮様と立瀬様と一緒にお昼が食べられるなんて、思ってなかったですー」

「そうかしら。祈里はともかく、私なんてそんな大した事ないわよ」

「何言ってるんですかー。立瀬純花様のお名前を知らない人なんて、この学校には殆どいませんよー」

「……そうなの?」


 いや、そりゃそうだよ。自覚なかったんかい。

 至極真面目な顔でこちらに問いかけて来た純花に対して、深く頷いた。あなたも相当なお嬢様ですよ。……私に言われたくないって?


「私はごく普通の家の生まれなのでー、憧れちゃいますよー」

「そんな大したもんじゃないわよ。息苦しくて、嫌んなっちゃうわ」

「同感」


 手をひらひらと振ってみせる純花に、私は苦笑しながら頷く。

 心のつかえが取れたお陰か、かなり私の知ってる純花らしくなってきたように思う。


「あれれ、そうなんですかー? ……なんか聞いた話と違うなー」


 一瞬、本間さんの表情が真剣になり、何かを呟いた。

 どうかしたのかと訊ねようとすると、その前に元通りの笑顔に戻り、


「ところで、お二人は委員会はどうするんですかー?」


 今日の午後はロングホームルームで、これから約半年の間所属する委員会を決める。

 特に入りたい委員会がある訳でもないので、黙っていたら多分、何もやらずに済みそう。「幸宮様に委員会活動をさせるなんて恐れ多い……!」とか言われて。

 そういうのはちょっとどころじゃなく心苦しいので、何かやってみようと思う。誰も立候補しない奴とか。絶対止められるだろうけど頑張ってみる。


 にしても、誰も立候補しなさそうなのと言えば……。


「学級委員、とか」

「え」


 呟いた途端、二人とも目を丸くしてこちらを見た。いや、なんすかその反応。こっちが「え」なんすけど。


「祈里が学級委員……。似合うけれど、恐怖政治みたいになりそうね」

「あはは、目に浮かびますねー」

「よねー。ふふっ」


 純花と本間さんは顔を見合わせて笑う。よーし、俄然やる気出てきた。見てろよー、私が学級委員になったらとことんこき使ってやる。むきー!


 と、私は悪役令嬢っぽく、心の中でハンカチを咥えるのであった。

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