Chapter 1-15
お兄様に引きずられて、私は中庭近くの階段の踊り場まで連れ込まれた。
昇降口から遠い為か、人気はない。まあ、そもそももうすぐ予鈴鳴るし。
「今回のベルマークは
「え? ああ、
「ま、たまたまな」
お兄様の言葉に、一瞬遅れて得心がいった私は頷く。続いて覗き見をしていたお兄様をジト目で見やるが、お兄様はサラリと受け流してしまう。くそう。
ともかく。確かに今回、純花の相談をベルマーク部として考えてみれば、ほぼ解決できたように思える。そして解決したのなら、聖護君のお手柄という事になるだろう。
……そう考えるとちょっぴり悔しいかも。最初に相談を受けたのは私なのに、結局私は友達の悩みを解決できなかったのだから。
「まあでも、
「そう言って頂けると助かりますわ」
……あれか。私がしょぼくれた顔をしているのは、手柄を聖護君に取られたから悔しがってると思われて、慰めてくれているのだろうか。だとしたら、勘違いだけれどこの人にも結構いいとこ――。
「いやー、祈里には才能あると思ってんだよ。求心力っつーの? 人を引き寄せる力もそうだし、人の懐に入り込む力もあるよな。と言う訳でそんな才能溢れる祈里君には俺のとこに来る依頼を分けてあげよう」
……ないわー。ひくわー。
「あれ? 嬉しくない?」
全然。
私は亡霊みたいな目付きでお兄様を見つめながら頷く。
「怖い。流石にその目は怖い」
と、お兄様は珍しく焦った様子で両手を挙げて私を宥めてくる。
これはちょっと面白いかも。あんまりやり過ぎても次から効果なくなりそうなので、私は表情を元に戻す。
「でしたら、あまりそういう軽口は言わない方が身の為でしてよ」
「お前、自分の目付きが怖いの分かっててやってるだろ」
「あら、お兄様に言われたくはありませんわ」
「こいつ……!」
なんか初めてお兄様を手玉に取ってる気がする。なにこれ、楽しい!
今まで散々煮え湯を飲まされてきた相手――と言ってもそれは今の私がではなく、昨日までの幸宮祈里が、なんだけど――に対して上手であるという事実に有頂天になりそう。
が、そんな私に歯止めを掛けたのは、階段の上から降って来た女生徒の声だった。
「こら、バカ園! もうすぐ予鈴が鳴るよ!」
「誰がバカ園か誰が――」
上を見上げたお兄様が目を見開いて固まる。高等部のブレザーを着た女生徒が、階段の上の方にいた。多分、この位置ならお兄様からなら見えてるでしょう。
「どうしたの……って、いやぁっ! 見るな、あっち向けバカ園!」
女生徒はそれに気付いたのか、スカートの裾を押さえつけて顔を真っ赤にしながらお兄様を睨み付ける。
「なんだよ、お前がそんなとこに立ってっからだろ?」
「言い訳すんなー!!」
憤慨する女生徒の様子を傍から見つつ、私は思う。
ここって、由緒正しきお坊ちゃま&お嬢様学校だよね?
女生徒はそれ以上見られないようにする為か、こちらの方まで降りて来る。
「って言うか、あんたは何朝っぱらから中学生に手ぇ出してんのさ!」
「違ぇよ。従妹だよ従妹。今年から入ってくるって言っただろ」
「いつも不肖の従兄がお世話になっております。私、
「え、幸宮って……!」
私が名乗ると、女生徒は驚いた顔で固まる。
「……あんた、本当に幸宮グループの御曹司だったの……!?」
「お前、未だに信じてなかったんだな……。まあ、別にどうでもいいや。ほら、不肖の従妹が名乗ったんだから、お前もちゃんと名乗ってやれよ。先輩だろ?」
「あ、ああ、そうだったね。あたしは
「菅原様ですね。よろしくお願い致します」
私は菅原様に恭しく頭を下げる。
「あんた、本当にこんなできた子の従兄な訳?」
「あのなぁ、言いたい事言やぁいいってもんじゃねぇからな?」
二人が言い合う中、予鈴が鳴る。
「おっと、もうこんな時間かよ。んじゃあ祈里、また部活でな」
「またね、祈里ちゃん。……まさか、この子ベルマーク部に入れたの?」
「別に強制とかじゃねぇからな」
言い合いながら教室に戻って行く二人を見送り、私は踵を返した。
「……」
仲、いいんだなぁ。
なんか、ちょっと胸が痛かった。
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