Chapter 1-12
私、
慕ってくれている、というのは分かるのだけれど、実際ちょっと重い。確かに、『恋君』でも
そんな拓篤君に、下手したら本気になっちゃいそうなのがちょっぴり怖い。それにどうせ主人公が登場したら彼の興味はそちらに移るんだろうな、と思うと虚しくなってくる。悩みを書いて来いって言われても、これは流石に書けないよね……。
「ごきげんよう、みなさま」
「ご、ごきげんよう、幸宮様」
そんな事を考えながら登校して、私は既に教室にいたクラスメイトたちに挨拶しながら自席へ向かう。
いやぁ、昨日があんな感じだったので予想通りだけど、よく言えば一目置かれてる、悪く言えば距離を取られてるね、これは。ここは天下の
昨日も思ったけど、我ながらやたらドライだよなぁこういう所。自分の中に生じた感情を、自分のものではないかのように客観的に見れるのは、前世の私と幸宮祈里の人格がまだ完全に一つにはなりきっていないという事なのかもしれない。って、何厨二くさい事言ってるんだ私は。リアル中二まであと一年あるっつーの。
ともかく、現状はそんな子たちが、家から求められているものと当事者である自分の感情の狭間で身動きが取れずに、遠巻きに私の様子を窺っているという状態である。
そういう人たちに私からどうこうしようという気は起きない。興味がないし、私がやりたい普通の学校生活にいい影響があるとは思えないからだ。
「幸宮様ー、幸宮様ー」
「はい、なんでしょう」
とは言え、声を掛ける勇気のある人を無下に突っぱねるのはお高く留まり過ぎだろう。にこやかに受け答えして印象をよくしておかないと。……まあ、この人はなんかそういうんじゃなさそうだけど。私は話し掛けて来た女の子に対してニコッとえくぼを作って応えた。
さり気なく昨日、バスルームで自分の姿を鏡で確認した時だ。どこからどう見ても紛う事なき幸宮祈里その人が鏡に映っていたのだけれど、やはりこの少女、抜き身の刀なんて評されるだけあって我ながら怖い。特に真顔になると、それだけで誰か気に入らない奴でもいるのかってくらいキツい表情になる。
実はこの容姿、幸宮祈里にとっては自慢であると同時にコンプレックスでもあったようだ。横目で見ただけで怯えられるくらい怖いし、何よりお兄様に似ているのだ。従兄妹だというのに実の兄妹のように似ている私とお兄様は、特に目元がよく似ていた。苦手ではあるが別に嫌いではないお兄様に似ている、という事実に対する微妙な感情は、結局あまり嬉しくない方向へ傾いていた。
まあ、幸宮祈里は開き直って傍若無人なテンプレ悪役令嬢になってしまっていたようだけれど。そんなつもりがない私は、努めて人当たりのよさそうな笑顔に徹する。
「幸宮様ー、ベルマーク部に入部されたっていうのは本当なんですか?」
「ええ。私の従兄が部長を務めていらっしゃいましたので、ご挨拶も兼ねて見学させて頂き、そのまま入部致しましたわ」
「へえー、そうだったんですねー」
すると女の子はメモ帳とペンを取り出し、何かを書き込む。この子は
そんなのんびりした印象の子だけれど、メモとペンを持つと妙なアグレッシブさを感じる。
にしても情報が出回るの早いな。見学の時も、学食でも結構目立ってたし、その影響もあるのかもね。
「それがどうかしたんですの?」
「いえー。ただちょっと、あの幸宮様が不思議な部活に入ったってみんなが注目してますからー。色々とお話を伺いたいんですけど、いいですかー?」
「はい、構いませんけれど」
「ではではー。ベルマーク部って、どんな部活なんですかー?」
「ベルマーク、というものをご存知ですか? それを集めて寄付する活動をしている部活です。部員以外の方からも寄付を承っていますし、何かお悩みの方がいらっしゃれば、ベルマークと引き換えにご相談も引き受けていますわ」
成程ー、と本間さんはメモに書き込みながら、次の質問を投げ掛けてくる。メモを取る手つきは異常に早い。ニコニコしながら超スピードでメモる姿はちょっと怖いかも。
「楓翔院様と
「ええ。みんなで見学に行きましたから」
「じゃあー、最後の質問なんですけど、部長の
「………………………………………………………………はい?」
ダレガホンメイナンデスカ?
今そう訊かれた?
なんだか凄くわくわくした様子で答えを待っているようだけれど、これが聞きたかったのか!
そして意識した瞬間、拓篤君の顔を思い出すの止めろー! 違う、まだそんなんじゃないんだよこれは小っちゃい頃の幸宮祈里の名残なんだよー!
「ごきげんよう、祈里」
「あら、
内心で慌てふためいている私の許へ、丁度登校してきた純花が挨拶をしてくれた。お願い助けて純花様。私は心の中で純花に助けを乞う。
そんな純花は本間さんとも挨拶を交わし、
「祈里、少し話があるんだけどいいかしら?」
そう問うてきた。正直、願ったり叶ったりである。
私は頷き、本間さんへ失礼しますと頭を下げると、純花と共に教室を出た。
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