Chapter 1-6

 白凰はくおう学院では中高通して活動できる部活が多く存在する。もちろん、形式上は中等部と高等部では全く別の部活ではあるのだが、活動場所が同じ部活が殆どである為、多くの生徒は中等部で入部した部活で六年間活動している。


 だからこうして見学にやってきた私たちは、ある意味六年間の自分の学校生活を決めようとしているとも言えるのだが。


幸宮ゆきみや様、ぜひ我らがバスケ部に!」

「いーえ! 幸宮様のような高貴なお方にはテニスがお似合いなんですっ!」

「それならバドミントンの方がより高貴でしてよ!」

「あの……卓球部……」

「なーにを言っていやがりますか運動部ども! 幸宮様にお似合いなのは我らが茶道部と決まって」

「書道部はいつでもお主の挑戦を待っておる」

「手芸にご興味は……ない、ですよねー」


 と言った具合に、私は運動部文化部関係なく集まった先輩方に囲まれて身動きが取れなくなっていた。幸宮祈里いのりという名前の持つ求心力って凄い。最初に見学に行った部活で名前を言ったら、あれよあれよと勧誘の先輩方が現れて、こんな状態になってしまった。

 同様に拓篤たくま君も大勢の男の先輩に囲まれている。楓翔院ふうしょういんだもんね。そうだよね。

 そんな私たちを外で見ている純花すみか結城ゆうき君にも声は掛けられていて、地味に途切れない。誰か助けて。

 ちなみにここは弓道場である。純花のお祖父様の話からも分かるように、拓篤君は情緒溢れるものが大好きなので、彼の希望でまずここへ来たのだ。


 そう言えば純花のお祖父様がお亡くなりになられている事は、どうやらまだ公表されていないみたいである。個展が開かれた時にはまだご存命だったみたいだけれど。だから拓篤君は普通に個展の感想を言っていたのだ。

 口止めされているのかそれともただ言いたくないだけなのか、純花は何も言わなかった。それが少し寂しかったけれど、友達としてもっと仲良くなればいつか打ち明けてくれる事もあるかもしれない。


 ともかく。今はこの勧誘ラッシュから抜け出さないと。

 ほら、弓道場を占領されてる弓道部の先輩方の視線が痛いし!


「みなさま、お声を掛けて頂きありがとうございます。折角ではありますが、部活はゆっくり考えてから決めたいと思っていますので、どうか本日はお引き取り下さいまし」


 私の言葉に、勧誘の先輩方は渋々と言った様子で帰って行った。って言うか凄ぇな幸宮祈里。声出しただけでみんな静まり返ったぞ。


「すまないな、祈里」

「いえ。それより、弓道部の皆様にも謝罪しなければいけませんわね」


 私たちはお騒がせして済みませんでしたと頭を下げて、弓道場を後にした。


「これじゃあ、どこに入っても苦労しそうね」

「あはは……。これからどうしよう?」


 ため息交じりの純花に、結城君が苦笑する。


「ふむ……。また別の部活を見に行ってああなるのは避けたいしな。仕方ない、今日の所は引き上げるとするか」


 そうするしかないかな。私たちは拓篤君の言葉に従い、帰路に就こうとする。

 だがそこに、


「あれ? 祈里じゃん。おーい、こっちこっちー!」


 と、やたら明るい男子の声が校舎の窓から聞こえてきたのだった。

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