Chapter 1-5
「
「
きた。
彼、結城聖護は
「こちらは私のお友達、
「よろしく」
お友達、を若干強調しつつ、結城君の自己紹介に続いて純花を紹介する。
これまでの幸宮祈里は、その高飛車な性格が災いしてか友達と呼べる人間が全くいなかった。なので、純花と友達になれたのは私にとって二重で美味しい。こんな言い方をすると「私は食べ物じゃないわよ」なんて怒られそうだけど。
「楓翔院拓篤だ。ホームルームの時から気になっていたが、君はもしかして――」
「ええ、この間開いた祖父の個展、見に来ていたそうね」
「ああ、素晴らしかったよ。特に『霧』。あれを見た後の『人の創った虹』も素晴らしいが、やはり『霧』という作品があってこその素晴らしさだと思う」
おお、口調はお堅いけど熱く語るね拓篤君。
純花のお祖父様は世界的に有名な風景画家で、特に橋の掛かった雄大な景色を好んで描いている。拓篤君はそのファンで、『恋君』では主人公とのデートで美術館に行くシーンもあったっけ。
「お孫さんが同級生になるとは聞いていたが、同じクラスになれるとはな。よろしく頼む」
「こちらこそ。楓翔院のお坊ちゃまとお近付きになれて光栄だわ」
「ふっ、世辞は止めてくれ。君も絵を描くと聞いているが、やはり美術部に?」
「いえ……」
純花の表情が翳る。ああ、そうか。結城君との出会いが今なのだから当然か。
「私はもう、絵を描くつもりはないわ。それより、部活を見学に行くんでしょ? 早く行かないと終わっちゃうわよ」
ほら、と促して先に行こうとする純花に、私たち三人は顔を見合わせてからついていく。今の表情を見てか、拓篤君もそれ以上の追及をするのは止めたようだ。
立瀬純花は有名画家である祖父の血を引き継ぎ、幼い頃から多数の絵画コンクールで賞を総ナメにしてきた天才なのだ。けれど白凰への入学を前に祖父が亡くなった事で、絵への情熱を喪った彼女は一度筆を折る。
けど、その心に情熱を取り戻させた存在がいる。それが彼、結城聖護だ。ピアノと絵。ものは違えど立場の似通っている彼女を結城君が支えてくれた事で、純花は再び絵を描くようになると同時に、結城君を異性として意識するようになった。
というのが『恋君』の初期設定なんだけど。
あー、なるほどね。
なんだか純花がゲームよりも冷めてる気がしてたんだけど、こういう事か。
肝心の結城君を見やると、彼はどことなく複雑そうな表情で純花を見ていた。お、シンパシー感じてる?
「ん? 幸宮さん、どうかした?」
「いえ、なんでもありませんわ。さあ、どの部活から見学させて頂きましょうか」
私は心の中で結城君の肩を叩いた。私の友達をよろしく。
友達の未来の恋が成就する事を願いながら、私はみんなと一緒に部活の見学へ向かった。
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