第5話 「冬」
〇シーン1
・概要:主人公(リスナー)が図書準備室で一人勉強しているところからスタート。
そこにヒロインがやってくる。
※効果音:ノートにシャーペンで書きこむ音
※効果音:教科書をペラペラとめくる音
※演出指示:前2つの音を十数秒ほど連続再生(主人公が一人で勉強している感
※効果音:ドアを開ける音
※効果音:ドアを開ける音でシャーペンの音が停止(主人公が手を止めた感を出す
柏木 涼香「部屋に鍵、かけんのやね」
柏木 涼香「久々……っていうのは、ちょっと違うか。教室では、あれからも毎日会っとるもんね。ただ、ここで会うのは……久々だね」
柏木 涼香「ふっ、あははははっ。あんたって、本当に犬やん。犬そのもんやん。あれからずっとここにおったん? ずっと放課後はここにおって、あたしが来るのを待ってたんやろ? あのさぁ、忠犬ハチ公やないんやから、なんでそんなことするん? って言うか、ひとことでいいから、声かけりゃええやんか。『また犬と飼い主になろう』とか、どっかでこっそり言ってくれれば、それで……って、アレか。あんたはそれもできんのやなぁ。だってあんたは、犬くんやもん。犬と人間じゃ、会話はできんもんなぁ」
※演出指示:主人公「ワン」と答えて、その場に寝転がり、腹を見せた体で
柏木 涼香「服従のポーズで、『ワン』って……。あんた、本当にどうしようもないくらい犬やねぇ。誰か拾って飼い主にならんと、あんたは、きっと生きていけんのやろうなぁ」
柏木 涼香「ううん、違うね。あたしも……あんたがおらんと、生きていけんかもしれん。それにな、捨てちゃいけんのや。あたしは、大切なものを……今度は自分の手で捨てるところやった。そんなん、あたしは……嫌ちゃ。あたしはそこまでしょうもない人間になりたくないわ。やから……」
柏木 涼香「犬くん、こっちに来て。前みたいに、頭を撫でてやるわ」
柏木 涼香「ふぅ……犬くん、やっぱええねぇ。あんたを撫でてると、落ち着くわ。あんたは、あたしがおらんとダメなんやろうけど、あたしも……やっぱり、あんたがおらんとダメになったみたい」
柏木 涼香「あれから、元に戻ったやん? あんたのおらん生活を何か月もしたけど……。退屈で、つまんなくて、またムカついて……それでも我慢しようとしたけど、無理やったわ。このまま卒業して、離れ離れになって、そう思うと……じっとしてられんやった」
柏木 涼香「逆に、あんたとおった頃のことが、妙にキラキラして見えてなぁ。ははは、ロクなことしとらんのに。高3の男を犬扱いして、頭や腹を撫でて、ワンワン鳴かして、ボールを取りに走らせたり、足を舐めさせたり……他にもいろいろやったけど、マトモなことは何もしとらんのに、マトモなことしかしなかったこの数か月より、ずっと楽しくて、眩しく見えたんちゃ。それで……」
柏木 涼香「今からする話を聞いて、あんたは……怒ってもいいから」
柏木 涼香「あたし、あんたがこの部屋で、じっとあたしを待っとるのを知っとった。知ってて、無視した。あんたとまた会ったら、きっと元に戻るから。またこうやって、飼い主と犬になると思ったから。そしたら、きっとあたしは……もとに戻れん。ずっと昔に決めた生き方も変えんといけん。本当に、なんもかんも……」
柏木 涼香「でも、今はそれでいいと思うちょる。あんたが犬くんでいてくれるなら、あたしは、ずっと飼い主でおらんとね。そうやろ?」
※演出指示:主人公が「ワン」と答えた体で
※演出指示:ヒロインが主人公をくすぐり続けるイメージです
柏木 涼香「あはははっ♪ 『ワンワン』って、またすっごい嬉しそうに鳴くやん♪ この~! 犬くん! 本当に可愛いやつめ! ほら! コチョコチョ~! 笑い死ぬくらいくすぐっちゃるけん、いい声で鳴け~! 思い切り鳴け~! あっははははは!」
柏木 涼香「あ~! やっと勇気が出た! あたし……あたしね、あんたの飼い主として、責任取るわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます