第2話 「春」
〇シーン1
・概要:主人公(リスナー)が、ヒロインの涼香に誘われ、
2人きりになれる図書室の倉庫にやってくるシーンです。
飼い主と犬としての関係が始まるシーンです。
※効果音:遠くの方から野球をする音や、吹奏楽の演奏など、部活動の音が聞こえる
※演出指示:少し間をおいてから次の効果音へ
※効果音:扉を開ける音
柏木 涼香「お待たせしました、副委員長さん。あら? ちゃんとカーテンも閉めて、外から見えないようにしてくれている……ふふっ、偉いですね。さすがです」
※効果音:扉を閉める音(鍵もかけます)
柏木 涼香「さて、これでようやく2人きり。邪魔は入らない……んっ」
※演出指示:以下の「くぅぅ~~」は背伸びをするイメージです。
柏木 涼香「くぅぅ~~、今日もストレスたまったぁ。九州に住んどるのに、標準語ば使って喋らんといかんの、ストレスやわぁ」
柏木 涼香「ほら、犬くん! あんた、さっさここ来て」
※効果音:涼香が自分の膝をパンパンと叩く音
柏木 涼香「ひざ枕しちゃるけん、こっち来て、いつも通り、あたしに甘えてくんない? ほら、飼い主が言うちょるんやけん、早くする」
※演出指示:ここで主人公(リスナー)がひざ枕に座った体で
※演出指示:以下のセリフで涼香は主人公(リスナー)の頭を撫でています。
柏木 涼香「うんうん♪ それでいいんちゃ。いい子、いい子~。犬くん、あんたって、相変わらず毛並みも綺麗で可愛い子やね~。あんたの頭を撫でよったら、気分が落ち着いてくるわぁ。癒されるねぇ~。あはっ、あんたもそう思うやろ? 撫でられたら、落ち着かん?」
※演出指示:主人公(リスナー)が「はい」「うん」など人間の言葉を喋った体で
※効果音:ヒロインが主人公(リスナー)の額を叩く「ぺちん」という音
柏木 涼香「コラっ、何を普通に人の言葉で答えとんか」
柏木 涼香「なんべん言うたら分かるん? あんたはあたしの犬なんやから、人の言葉を使うなって言いよろうが。あんたの返事は全部『ワン』やろ。もういい加減に覚えろちゃ。それじゃ、もう一回、聞くけ、ちゃんと答え? あたしに撫でられて、落ち着くやろ?」
※演出指示:主人公(リスナー)が「ワン」と答えた体で
柏木 涼香「偉い偉い♪ ちゃんと犬の言葉で答えて、お利口さんやん♪ もっと褒めちゃるわ。偉い、偉い。あたしの質問に答えられて、偉いなぁ、あんたは」
柏木 涼香「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬっていうけどさぁ、あんたも……もう何だかんだで一年くらい、あたしに飼われとるんやけぇ、もう一年、このまま、こうやって……恩を忘れずに付き合ってもらうけんね。犬なこと、忘れなさんなよ」
柏木 涼香「……それにしても、一年、か……もうそんなになるんやねぇ。ふふっ、せっかくやし、記念や。久しぶりに、あたしのアレ、見せちゃるね」
※効果音:ブラウスのボタンを外す音
※演出指示:涼香がブラウスをめくって、お腹の傷を見せる
柏木 涼香「ほら、この傷……見て。わき腹から、ヘソまで、ガタガタの、この傷。あんたに初めて見られた時に比べたら、だいぶ薄くなってきたけど、まだ全然わかるやろ? たぶんやけど、一生消えんのやろうね、これ」
柏木 涼香「ちょうど一年前やったね……あたしが教室で貧血で倒れたとき、あんたが保健室まで運んでくれた。そんときにたまたま服がめくれて、できたてだった、この傷をあんたに見られた。それで……あんたは心配してくれたなぁ……ははっ、ははははは、あんたってさぁ、ホントに人が良すぎるわ。あのとき見なかったフリをすれば、犬にならんで済んだのに」
柏木 涼香「正解は、あたしが自分でつけた。あんときは、本気で死のうと思ったから。手首やら切るよりも、腹をガバっといっちゃろうと思ったんちゃ。もう耐えられんと思ったし、ムカついとったから、思い切り酷い死に方して、周りをビックリさせちゃろうと思ったんや。あたしのことを何とも思っとらん、あたしがただ言うことを聞くだけのサービス業の人か何かやと勘違いしとる両親に、思い知らせちゃろうと思ったのに……ふぅ……」
柏木 涼香「死に切れんやった。お腹にでっかい傷が出来ただけやった。おまけに両親はこの傷を見てから、『構って欲しいんか』ってキレるし、『絶対にその傷ば、他人に見られんな』って、あたしを叩くし、ロクなことにならんやった。こんなことも言われたよ。『お前は東京の、一流の大学に入って、いいところの人と結婚するんやから、経歴にも、体にも、もう一切、傷をつけるな』って。それで……次は顔をやったろと思ってさ。顔に傷を入れたら、あの両親でも諦めて、あたしを放っておいてくれると思ったから」
柏木 涼香「でも、いざやるとなると……悩んだね。そん時よ、あんたに傷のことがバレた。それで……思いついたんちゃ」
柏木 涼香「ムカつく。なんもかんもが。ずっと人の言うこと聞かされて、勉強して、好きなこともせんで、喋り方だって、こんなふうに方言で普通に喋るなって言われて、人前やったら標準語を使えって命令される。なんも思い通りにできんかった。生まれてから、一つも。本当に、一つもよ」
柏木 涼香「それでも両親には逆らえん。住むところも、食べるものも、両親に支えてもらっとるんやから。あたしの家は、田舎の小金持ちの家やから。それがどれだけ恵まれていることかも、もっと自由になりたいって、贅沢を言ったらいけんってことくらい、分かってる。でも……このまま従い続けよったらおかしくなる。顔を切るのは、本気でやる気やったし、その次は、本当に死ぬかもしれん」
柏木 涼香「せめて一つくらい、あたしの思い通りにできるもんが欲しくなった。それで、あんたを飼い犬にすることにした。『言うこときかんと、勝手に服を脱がされたって大騒ぎするから』って、あんたを脅して。こうして、犬になってもらった」
柏木 涼香「ふふっ、今になって思うと、なんでこんなこと、思いついたんやろうね? あたし、頭が変なんかもしれんね」
柏木 涼香「でも、今は幸せやから。調子もいいし、もう自分を傷つけようなんて思わん。それに……あんたも幸せそうな顔しとるし。あんたもどんどん撫でられるのも、犬扱いされるの、板についてきとるしね」
柏木 涼香「犬くん……あんたは、ホントに気持ち悪い。大の男が、高3にもなって、ここまで犬になれるもんなんやね。気持ち悪いけど、気持ち悪いアンタで遊ぶのは、好きやわ」
柏木 涼香「んっ、それじゃ、ちょっと遊んでやるわ。ほら、ボール遊び♪ 投げるから、とってきて? もちろん、口で運んできて。犬らしくね」
柏木 涼香「えいっ」
※効果音:スーパーボールが床を跳ねる音
※効果音:主人公(リスナー)がドタドタとボールを取り、戻って来る音
柏木 涼香「おーっ、よう取って来たね~♪ 偉い偉い。ご褒美に……ほら、お腹見せて、服従のポーズ♪」
※効果音:主人公(リスナー)が床の上で寝転がる音(ベルトなどが当たる音)
柏木 涼香「ご褒美に、お腹をさすってあげるけん、喜び♪ 嬉しいやろ?」
※効果音:主人公(リスナー)のお腹をシャツ越しにさする音
※演出指示:主人公(リスナー)が「ワン」と答えたテイで
柏木 涼香「そうそう♪ ワンワンって鳴き声も、上手くなってきてるやん。いい子、いい子。可愛くて、賢くて、あたしに尽くしてくれる、大事な犬くん。これからの一年間も、ずっと可愛がってやるけんね♪ あっはははは♪ ほら、もう一回~♪」
※効果音:スーパーボールが床を跳ねる音
※効果音:主人公(リスナー)がドタドタとボールを取り、戻って来る音
柏木 涼香「偉いね、もう一回~♪」
※効果音:スーパーボールが床を跳ねる音
※効果音:主人公(リスナー)がドタドタとボールを取り、戻って来る音
※演出指示:効果音フェードアウト&無音の状態を数秒(2~3秒)
※効果音:スーパーボールが床を跳ねる音
※効果音:チャイムが鳴る音
柏木 涼香「あっ、もう下校時間か。そんじゃ……今日はここまでやなぁ」
柏木 涼香「あんたも、もう犬はやめていいから。ほら、普通に立って。それで……普通に帰ろう。続きは明日の放課後で、よろしく頼むわ。これがお互い、最後の一年間やから。できるかぎり、悔いのないようにしたいけん。あれこれ試させてもらうから」
※効果音:扉を開ける音
※効果音:主人公(リスナー)と涼香が部屋を出る音
※効果音:扉の鍵を閉める音
柏木 涼香「よしっと……では、副委員長、お疲れ様です。明日もよろしくお願いしますね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます