Chapter 5-2

 女忍者の投擲したクナイを切り払う。刃が交錯する金属音とともに、切り落としたクナイが地面に落ちる。

 女忍者はその間にもコタローの脇を抜けんとして疾駆していた。狙いはアズサたちか。そうはさせないとコタローは体勢を低く落とし、牽制の足払いをかける。これに女忍者は急ブレーキをかけつつバックステップ。大きく距離を取る。


 コタローは舌打ちを禁じ得ない。賢明な判断だ。これを前方に回避して突破しようものなら、背後から斬りつけてやるつもりだった。

 弱い者から狙うが、決して背後を取らせようともしない。戦いにくい相手だ。


 しかし、負けてやるつもりはない。これくらいの敵の相手はいくらでもしてきた。違うのは、後ろに守るべき人たちがいることか。


 女忍者の姿が掻き消える。違う。目にもとまらぬ超スピードでの移動を開始したのだ。いいだろう。ならば、こちらも同じ速度帯で戦うまでだ。

 コタローも地面を蹴る。ジグザグに動き、こちらを翻弄しようとしていた女忍者は、コタローが自身と同じ速度で動き出したことに息を呑んだ。


 激突と同時に刃が交錯する。金属音が響き渡り、同時に発生した衝撃波が周囲に広がる。


「きゃあっ!!」

「ぬぅっ……!!」


 衝撃波は突風となってアズサたちに吹き付ける。


「どど、どうなってるの!?」

「わかりませんけど、どうにか援護を……!!」

「やめておけ……!! 俺たちにどうこうできるレベルではない!」


 アズサたちにはもう、コタローたちの動きは見えていないだろう。それほどの速度で動きながらも、コタローと女忍者は互いの動きを正確に捉えていた。


 そして互いが同じことを思う。


 ――こいつ、できる!


 女忍者がコタローの足元を狙ってクナイを三本連射すれば、コタローはこれをバク転で回避しつつストレージから刀を片っ端から出して乱射する。女忍者はそれを側転で避けながらコタローとの距離を詰めていく。

 コタローも最後に取り出した刀を手に、地を蹴り前に出る。再びの交錯。しかし違ったのは、女忍者はクナイを両手に構えていたこと。コタローは初撃を刀の柄で受けたことだ。


 女忍者はコタローの意図に気付き、もう一方のクナイを突き刺そうと振りかぶる。

 だがもう遅い。コタローの片手は柄に、もう片方の手は刀の刀身を支えていた。交錯の勢いすら利用し、刀の刀身を押し込む。狙ったのは女忍者の脇腹だ。鋭利な刃が黒い布を裂き、肉を断つ。


 これに堪らず女忍者は飛び退き、コタローとの距離を取る。声を上げなかったのはさすがだ。コタローは感心しながら、刀の切っ先を女忍者に向ける。


「まだやる?」

「くっ……! 今日のところは退かせてもらう」


 女忍者は取り出した筒を地面に投げつける。発煙筒だ。筒から発された煙に包まれ、女忍者の姿が消えた。彼女の気配はない。

 煙が収まったとき、コタローの思った通り女忍者の姿はそこにはなかった。


「……ふう」

「コタローくん!」


 コタローが刀をしまうと、アズサたちが駆け寄ってくる。


「大丈夫!?」

「あの人は!?」

「大丈夫大丈夫。あの人も逃げたよ」


 アズサとミウが必死な形相で詰め寄ってくるので、コタローは苦笑いしながら彼女らをなだめる。


「逃がしてよかったのか?」

「まあ……。逃げないならとことんまでやり合うしかなかったし」


 それすなわち、殺し合いである。アズサたちの前で自分が人を殺すところはさすがに見せられない。


「ま、なんにせよこれで終わりでしょ。今日は帰ろうよ。疲れたし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る