Chapter 4-2

「あ、アズサさん!?」

「柏崎さん! どうしてここに!?」


 しまったぁ、とアズサは自身の頭を押さえながら、姿を現す。


「ちょ、ちょっと様子を見にきただけだし! っていうかみうみう、なに変な勘違いしてんの!」


 顔を赤くして言うアズサに対し、ミウは存外冷静に返す。


「勘違いですか。ふーん、そうですか。じゃあおとといのアレは別になんでもなかったんですね?」

「アレ? な、なんのことかわかんないし!」

「ふーん、そうですかー。なるほどー。挑発的な視線だと思ったんですが、違うんですかー。へー」

「ななな、なんのことかなーって」


 ジト目でアズサを見やるミウと、あさっての方向を見つめながら首をかしげるアズサ。コタローには二人がなんの話をしているのかさっぱりわからない。


「ほ、ほら二人とももう行くよ! 予鈴鳴っちゃうし!」

「そうですね。でもその前に一ついいですか? 今日の放課後も二人は一緒に行動されますよね。私も付いて行っていいですか?」


 え。コタローはマズいと思った。だって今日はダンジョンに行く予定なのだ。そこにミウまで付いてくるとなると、色々と説明が面倒くさい。そこじゃないだろうという意見は聞いていない。


 しかしミウからは、断りづらい圧が放たれていた。


 予鈴が鳴る。


 ミウが答えを急かしてくるので、コタローは頷くしかなかった。


 そんなわけで、時は進んで放課後である。

 校門前に集まったコタローたちは、みっちょんにも訳を説明して四人でダンジョンに向かうことになった。


「ちょ、ちょっと遅くなると思うけど、大丈夫?」

「はい。家には連絡済みです。問題ありませんよ」


 準備万端、と言わんばかりのミウに、「そ、そう」とだけ返す。

 あと命の危険も。とは説明しきれないのが陰キャの悲しいところだった。


「これから行くところには、命の危険もある。それでもよろしいか?」

「え? い、命? どこに行くつもりなんですか?」

「……コタローくん、柏崎。どこまで説明したのだ?」


 みっちょんが言ってくれたが、彼は戸惑うミウの様子に、自身のこめかみを押さえながらコタローとアズサを見た。二人は苦笑いでごまかすしかなかった。


「笑っている場合か……。まったく、それなら円城寺嬢には俺から説明させていただこう」


 と、みっちょんは昨日マリーがしてくれたような説明をする。とはいえそれは、裏の世界が存在すること、そこに足を踏み入れれば、命を狙われる存在になってしまうことに留まった。


 昨日と同じだ。ここから先を聞くか聞かないかは、彼女自身の判断による。


「……聞かせてください。そんな危険な世界に、あなたたちだけ踏み込ませるわけにはいきません」

「本当にいいの?」


 コタローは再度問うた。彼女が選択するのなら、そこには一切異論はない。だが、彼女はまだ一度も裏の世界の片鱗に触れたことはないだろう。今なら、何事もなく表の世界に戻れる。

 だが、ミウは頷いた。


「……怖くない、と言えばうそになりますが、どれほどのものなのか、想像が付いていないのも事実です。でも……」


 ミウが見たのは、アズサだった。


「これ以上、置いていかれたくないので」

「……そっか。じゃ、行こっか」


 コタローの言葉に三人が頷く。


 コタローたちは、いよいよダンジョンに向けて出発した。

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