Chapter3 銀髪美人には気を付けろ

Chapter 3-1

「合ってる、んだよね? ここで」


 次の日の放課後、コタローはアズサとみっちょんとともに、とあるビルの前まで来ていた。

 アズサが戸惑うのも無理はない。というか、コタローも同じく戸惑っている。そこは人気のない街外れであり、かつどう見ても人がいるとは思えないレベルの廃ビルだったからだ。


「マリー氏とやらは、随分と物好きなようだな」


 ううむ、と唸るみっちょん。怪しさが爆発している。というか、そもそもなぜ三人でこんなところにいるのかと言えばだ。


 昨日のトレーニング終わり、カッターシャツの胸ポケットからポロリした名刺を見たアズサは、これ誰とコタローを問い詰めた。ごまかせるほどのコミュ力を持ち合わせていないコタローは、観念してダンジョンに入る前に出会った女性のことを話したのだ。


 なんの話ですかと訝しむミウをよそに、アズサは話を進めた。怪しい。っていうか、あたしも当事者だし、会わせてよ。やはりその件か。いつ出発する? 俺も同行しよう。みっちょん院。


 というわけで、三人で名刺に書かれた住所にやってきたのだが。


「やっぱ騙されてない?」

「……うーん、一応昨日電話はしてみたんだけど……。ここに来てくれって」


 帰宅後、念のため電話をしてみたコタローだったが、名刺の住所が私の事務所だから、そこに来てちょうだい、とのことだった。

 住所はこの廃ビルの三階になっている。どうするべきか。


「もっかい電話してみる?」

「……まあ、間違ってたらでいいかな。行ってみようよ」


 ということで、意を決してビルに入ってみることにしたコタローたちであった。け、決して電話が嫌いとかじゃないんだからね!


 ビルに入ってみると、中は意外と片付いていた。特別語ることもない階段を上がり、三階へ。すると踊り場には古めかしい、木でできたドアがあった。コンクリートの壁と対比して実に異質なそのドアを開けてみる。


「あら、いらっしゃい。お友達も一緒なのね」


 中は海外ドラマで見たことがあるような、アメリカのマンションの一室に似ていた。

 その奥、木造りの書斎机で仕事をしているのは、あのとき出会った銀髪の美女で間違いなかった。


「そっちが来客用のソファよ。どうぞ掛けて」


 銀髪の美女――マリーに促され、コタローたちは机の前のソファに腰掛ける。


「今日は来てくれてありがとう。ああ、まずはおもてなしのお茶を出さないとね」


 マリーはパチンと指を鳴らす。するとどうしたことか、奥のキッチンからティーポットとカップが浮き上がり、独りでにお茶を入れてコタローたちの元へと飛んできたではないか。


「え? な、なに? どゆこと!?」

「むぅ……! これは珍妙な……!!」

「ふふっ、驚いてくれたみたいで嬉しいわ。それじゃあ早速だけれど、おとといのことを聞いてもいいかしら。あの黒い靄のなかでなにがあったのかをね」


 コタローは頷き、おとといのダンジョン内であったことを伝えた。中は倉庫内につながっていたこと。そこでアズサが捕えられていたこと。みっちょんを叩きのめしたあと、謎の瘴気が湧き出て、これを撃退したこと。そしてことが終わると入口が消滅したこと。

 そして瘴気について、みっちょんが覚えている限りのことを伝える。


 無論、ダンジョンという単語は出していない。あくまで、あれがなんなのかわからない体で話をした。


「……そう。どうやらあれは、まだ発生して間もない状態だったようね。話を聞かせてくれてありがとう。その瘴気については、これからも警戒なさい。あいつらは人の心の闇を狙ってくる。肉体の強さにも執着しているようだけれど」


 マリーは続ける。


「さて、あとは用があるのはMr.コタローだけよ。お友達はここにいてもいいけれど、ここから先の話を聞いたら、元には戻れなくなるわ。さあ、どうする?」

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