Chapter 2-2

 筋肉。それは動物の持つ組織の一つである。伸縮によって力を発生させる、代表的な運動器官だ。

 鍛え抜かれた筋肉は非常にたくましく、力強く、時には威圧的ですらあり、総じて魅力的であると言えよう。

 スポーツなどにおける筋肉の躍動。ボディビルなどにおける魅せる筋肉。静と動の違いはあれど、そこに見いだされてきたのは「美」だ。


 そう。彼らはそこに「美」を見いだした。そこに言葉は必要ない。ボクサーが拳で語るように。ランナーが走りで語るように。彼らは筋肉で語り合うのだ。


「いーち! にーい!」


 まずは小手調べの腹筋!!


「九十九! 百!!」


 そして地獄のスクワット!!


「五百!!」


 最後!! 怒涛の腕立て伏せ!!


「す・ば・らしいぞ!! 影ノ内孤太郎くん!! 俺のメニューとスピードについてこられるとは!! なんと鍛え抜かれた筋肉だ!!」

「コタローでいいよ」

「しかも涼しげな表情が崩れないとは!! なんたる!! 完敗だ、コタローくん……!!」


 ともに汗を流し、がっしりと握手を交わす。コタローとみっちょんがトレーニングの場所としてやってきたのは、学内のトレーニングルームである。運動部のために整備されたここには、最新鋭の機材が取り揃えられている。

 もっとも、二人はまだそれらを使用してはいないのだが。


「すごいな二人とも!!」

「俺たちも一緒にいいか!?」

「もちろん!! ともに筋肉で語り合おう!!」


 それを見ていた周囲の運動部員たちが、こぞって共同トレーニングを申し出てくる。みな、校内でもトップクラスの筋肉自慢たちであった。

 二人はそれを承諾し、ともにベンチプレスやランニングマシンに挑んでいく。


「なにしてんだか……」

「すごい……」


 その様子をはたから見ていたのは、アズサとミウである。アズサは溜め息を吐き、ミウは口元を押さえて惚けている。


「え、みうみうああいうのがいいの?」

「ち、違います! 私はただ、影ノ内君の筋肉がすごいなと思っただけで……」

「え? なんて?」

「な、なんでもありません!!」

「……二人とも、どうしたの?」


 そこに、トレーニングを終えたコタローが歩み寄ってくる。汗を拭きながらやってくるその姿に、アズサはちょっとキュンとして、ミウは「はうっ!」とのけぞって倒れた。


「い、委員長さん!?」

「みうみう! みうみう!! ……よかった、気絶してるだけっぽい」


 なにがよかったのだろうか。


「っていうか、なんでアズサさんと委員長さんがここに?」

「あたしはだって、コタローくんが心配で……。みうみうはよくわかんないけど、「またあなたは影ノ内君を連れ回して!」って言って付いてきたの」

「私だって影ノ内君が心配で来たんです!」

「あ、起きた」


 無事に目を覚ましたミウが、ガミガミとアズサに言い始めたので、コタローは着替えを始める。

 カッターシャツを手に取ると、胸ポケットからなにか紙切れが飛び出し、それはアズサたちの方へと飛んでいく。


「あ」

「なにこれ、名刺……ってコタローくん、マリーって誰!?」


 完全に忘れていたのと、言い逃れできなさそうな雰囲気を感じて、コタローの背に冷や汗が流れるのだった。

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