Chapter 1-5

 靄状の入口をくぐり抜けると、そこはコンテナが積まれた空間だった。


「これは……」


 単純に考えて、倉庫の内部だろう。どうやらこのダンジョンが出現してからそう時間は経っていないようだ。発生したばかりのダンジョンが、こうして元の建造物の形を保っていることはままある。


「来たな」

「コタローくん! 来ちゃダメ!!」


 その声は、倉庫の奥から聞こえた。そちらを見やると、暗がりの中から声の主が姿を現す。


「……やあ。昨日ぶりだねみっちょん」

「待っていたぞ、影ノ内孤太郎! それとみっちょんではない!」


 現れたのはみっちょんこと立田光義だった。彼のそばには、手足を縛られた状態のアズサの姿もあった。

 彼らがなぜこのダンジョンの中に、といった疑問はあるが、それよりも問い詰めなければならないことがある。


「それで、こんなことしてどういうつもり?」


 メッセージの送り主は彼、立田だった。アズサのスマホを使ってコタローにメッセージを送ってきたのだ。

 内容は、アズサの身柄を預かったこと、無事に返してほしければ一人で地図の場所まで来いということだった。


 問題は、彼がなぜこのような暴挙に及んだのかだ。


「知れたこと! 影ノ内孤太郎、貴様に決闘を申し込む!!」

「……は?」


 思わずすっとんきょうな声が出てしまった。


「ちょ、ちょっと何言ってるのみっちょん!」

「柏崎梓を賭けて、俺と決闘しろ影ノ内孤太郎!!」


 アズサの声を無視して話を進めようとする立田。コタローは溜め息を吐きそうになるのをこらえる。


「はいはいわかりましたやろっか……なんて――」


 ――スキル【瞬動】!


「――言うかあああああ!!」

「ぐおああああああああ!!」


 コタロー渾身のアッパーが、立田の割れたアゴに炸裂した。これにより立田の身体は宙を舞い、コンテナの上に落下する。

 コンテナが大きな音を立てて崩れ、立田の身体はその中に呑み込まれてしまう。


「……あ」


 やってしまった。あまりにくだらなすぎて手が出てしまった。見やると、アズサも口を開けて呆けている。そりゃそうだ。


「……す」

「す?」

「すごいよコタローくん!! みっちょん吹っ飛んでった! 吹っ飛んでったよ!」


 あっるぇー? なぜか興奮されてしまった。そんなに面白かったかなと思いつつ、興奮冷めやらぬという様子のアズサの手足を解放してやる。


「ごめん、大丈夫だった?」

「なんでコタローくんが謝るの! ホント強いんだね、コタローくんって!」

「い、いやぁ……そんな……。ってそれより、早くここから出よう」

「あ、うん! そだね」


 コタローはアズサの手を取り、立ち上がらせる。ダンジョンの処理が残っているが、それよりアズサを逃がすのが先だ。


「待テ……! 逃ガサン……!!」


 だがそこに、聞き覚えのない声がかかる。振り返れば、コンテナに埋もれた立田の身体から、煙のような黒い瘴気が浮かび上がるのが見えた。


「なに、あれ……!?」

「柏崎さん、下がって」


 コタローはアズサを庇うように前に出る。


「貴様ノソノ強サ……気ニ入ッタゾ……!!」


 瘴気は大きく広がり、コタロー目掛けて飛びかかってくる。


「『ストレージ』」


 コタローが呟くと、彼の手元にウインドウが開く。表示されたリストから刀を選択すると、ウインドウが消えて一本の刀が現れる。


「ソノ身体、イタダク……!!」

「やれるもんなら……」


 コタローは刀を手に、構えた。


 ――スキル【真空斬り】!


「やってみろ!」


 横薙ぎに振るった刀身から、三日月のような形をした衝撃波が放たれ、瘴気を切り裂く。真っ二つに切り裂かれた瘴気は、その断面から消滅していく。


「バ、バカナ……!! ソノ強サ、一体ドコデ……!?」

「お前の知らない未来で、だよ」


 コタローの手から刀が消える。それとほぼ同時に、瘴気も完全に消滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る