Chapter 1-2

 放課後になり、コタローはアズサに連れられて学校を出た。

 学校からちょっと離れたところに、アズサがよく行く喫茶店があるという。そこなら、ここの生徒を見たことがないので、ゆっくり話ができるとのことだ。


 ん? 放課後に? 女子と二人で? 喫茶店?? それってもしかしなくても、でっ、でっ、デートってやつでは???


 いや、それはマズい。何がマズいかってそんなん、陰キャ童貞ぼっちにはハードルが高すぎる。ど、童貞ちゃうわ! あ、いや、違わんくない。すんません。


「あ、あの……柏崎さん。やっぱり屋上でいいんじゃないかな……?」

「えー? でも放課後だと誰か来るかもしんないじゃん。いいから行くよ!」


 そんなことをやっている内に、校門を抜ける。そうなってはもう、喫茶店を目指すだけになってしまうが。


「柏崎」


 校門の前に、一人の男子生徒が待ち構えていた。アズサとは知り合いのようで、彼女は目をぱちくりさせながら口を開く。


「どったの、みっちょん」

「……誰?」

「俺は立田光義たつた みつよし。そこな柏崎梓と添い遂げる男だ!」


 うわ、濃いの来たー。

 キレイに刈り揃えた角刈り、割れたアゴが特徴的な筋肉質の大男は、仁王立ちでコタローたちの前に立ちはだかってきた。


 なんと言うべきか、時代錯誤というか。みっちょん、今もう令和ぞ?


「っていうか、通して、よ! みっちょん!」

「そう、は、いかん! というかみっちょんではないっ!」


 立田の横を通り抜けようとするアズサだったが、立田はそんなアズサを通せんぼするように動くので、前に進めない。


「それよりもだ! 柏崎! お前、俺よりもその男を選ぶというのか!?」

「へ?」


 急に矛先がこちらに向いたので、コタローは思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


「え、選ぶってちょっと、みっちょん! そういうんじゃないし! コタ――こ、こいつはただの……」

「ただの?」

「……べ、別になんでもないし!!」

「ならば俺と来い、柏崎! お茶でも飲み交わしながら、二人の将来について語り合おう!」

「や、やだ! そんなんしたくないしー!」


「あ、あの……」


 見ていられなくなったコタローは、恐る恐る声をかける。


「柏崎さんも嫌がってますし、その辺りで……」

「なにぃ?」


 立田はコタローを睨みつける。おお、怖い怖い。


「出しゃばるなよ貴様! 仕方ない、痛い目に遭いたくなければさっさと消え――」


 立田がコタローの腕を掴む。


 が、その腕はビクともしなかった。


「――あぁ?」

「むぅぅぅぅぅぅっ!?」


 コタローが睨み返すと、立田はたじろいで思い切り後ずさる。


「くっ……!! きょ、今日のところは見逃してやる! だ、だか覚えていろ! 柏崎は絶対、俺のものにしてみせる!」


 そしてそれだけを言い残し、立田は踵を返して走り去ってしまった。


「なんだったの、アレ」

「……さぁ?」


 嵐が去り、二人はその場で立ち尽くす。


 やがて立ち直ったアズサが、目を輝かせてコタローに向き直る。


「でもすごいじゃん、コタローくん! みっちょんってこの学校でも怖い奴で有名なんだよ!? それを一睨みでビビらせちゃうなんてさー!」

「い、いやぁ……。それほどでも……」

「謙遜しないでよー! よーし、今日は気分いいから飲み物奢ったげる! その代わり、あたしが満足するまで付き合ってよね?」

「……は、はい」


 やっべ、鼻血出そう。

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