Chapter1 オタクに優しいギャルはいるかわからないけど、ギャルに優しいオタクはいる
Chapter 1-1
じゃあ、いじめられているかと言えばそうでもない。確かにそういう輩によく声をかけられるが、睨み返したら逃げていくのでいじめらしいいじめは受けたことがない。
だから今日も、教室の片隅でイヤホンを付けて読書にふけっている。朝のホームルーム前、決して長くはないが彼にとっては至福の時間である。お気に入りの曲を聴きながらの読書。っぱいいわー。イメソンって大事よ、うん。
と、そんな彼の手元に影が差す。来たか。とコタローは本を閉じてイヤホンを外す。
「……ど、どしたの。柏崎さん」
「ちょっと顔貸して」
コタローの前に現れたのは、
仏頂面で天井の方を指差す彼女に従い、コタローは席を立った。
彼女に連れられ、向かったのは屋上だ。彼ら以外には誰もいない屋上で、アズサは「よし」とこちらを振り返る。
「……コタローくん、ねぇねぇ見た見たー!? 昨日の『はくがく』!」
「う、うん! もちろん!」
「よかったよねー! っぱあたしは
「そ、そうだね! 祈里様は気高くて美しくて悪役令嬢って感じなんだけど実は涙もろくて抜けてるとこもあるっていうのがかわいくて――」
などと、二人は昨日放送のアニメ『私立白凰学院物語』――略して『はくがく』の話題で盛り上がっていた。
そう、何を隠そうこの黒ギャルことアズサは、実はアニメやマンガ・ゲームが大好きな隠れオタクなのだ。
偶然それを知った(知ってしまった)コタローは、こうして隠れてこそこそとオタトークを繰り広げる、秘密の関係になったのである。
アズサはオタク趣味がバレたくない。コタローは陰キャぼっちという自分のキャラを守りたい。というお互いの利害が一致した結果がこれだ。それはばっちりハマり、周囲からは黒ギャルに目を付けられた陰キャぼっちにしか見えていない。
「柏崎さん!」
とそこへ、二人の隠れオタトークを邪魔する声がした。見やれば、屋上のドアの前には一人の女生徒がいた。
サラサラのストレートヘア、楕円形の眼鏡。ぴっちりとした制服に包まれたなだらかな胸部が特徴的な彼女は、
「また影ノ内君を連れまわして! もうホームルームが始まりますよ!」
「いいじゃーん、予鈴が鳴るまでだしさ! それよりみうみうも『はくがく』の話しようよー!」
「わ、私は見ていないって言ってるじゃないですか!」
「うっそだー!
「あ、あ、あれは妹ので……!!」
「ま、まあまあ、二人とも……」
見ていられなくなり、コタローは二人をなだめようとする。
どうすればいいかわからなかったが、そうだ、と話題を変えることにする。
「委員長さん、妹さんいるんだね。い、いくつなの?」
「ふぇっ? あ、えと。中三です」
「あ、じゃあ俺の弟と妹と同い年だね。双子なんだ。二卵性だからそんなに似てないけど……」
「へー! 二人ともきょうだいいるんだねー! いいなぁ、あたし一人っ子だからなぁ」
などと会話している内に、予鈴が鳴る。
「ほら、行きますよ二人とも」
「あーん、今日あんまり『はくがく』の話できなかったー! ね、コタローくん放課後もいい?」
「ほ、放課後も?」
戸惑うコタローに、アズサは上目遣いで迫ってくる。
「……ダメ?」
「駄目じゃないでーす!!」
コタローは顔を真っ赤にしながら、全力で丸のポーズをするのだった。
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