戻らない君と
穂積蓮
第1話 戻らない君と
「・・・。起きて~。起きてよ!早く~!
今日は、ショッピングモールに連れて行くって言ったでしょ!
起きてよ~!早く起きないと私、泣くからね!」
揺ら・す・な・・誰だ・・。かな・・・?。
「ショッピングモール~行く予定でしょう~!起きて~ぇ!」
あぁ・・・約束した・・・覚えている。・・起きる・・だけど、少し待ってくれ。
「もう!よそ行き用ジャージ買ってあげないよ。」
しぶしぶ起き出す俺を横目で見ながら、不機嫌を装ったフクレッ面。無駄だよ香奈。ほ~ら、もう笑みが~こぼれている。
『解っているんだよ。』な~んて目で見つめること、数秒。
隠したはずの、超~ご機嫌モードがバレたと悟った香奈は、大きく首を左右に振り、不機嫌仮面を脱ぎ捨て、輝くような笑顔に染まる。
「その~!汚い~ィ!元よそ行き用ジャージ!早く脱いで、着替えてよね!」
ちょっと待ってくれ。頭がボーとするんだ。眠気と幸福感に邪魔され思考が・・・。幸福・・・?。香奈・・・お前は俺を・・・。そう思った瞬間、笑顔に染まる香奈を残し、壊れたDVDのように世界が静止する。香奈が動かない・・・まぁ、それでもいい。好きなだけ香奈を見ていられるなら、それでいい。
世界が止まろうが、お前の笑顔は変わらない。素敵な笑顔だよ。だから、お前が好きなんだよ俺は・・・。
ああ~!言ってなっかた!香奈に一度も・・・。言わなかった。
この幻想世界を俺に送ったのが、誰かはわからない。だが、香奈に逢わせてくれた事を感謝する。願わくば、止まったままの姿でもいい。香奈を見ていたい永遠に。
彰彦「・・・きれいだな香奈。」
ガー、ガガ。ノイズが走り、香奈が歪み消えて行く・・・届かなかったか。
また、伝わらなかったようだ。隠していた心を丸出しにならなかった事に、安心したようでもあり、残念だ。とも思う。
要するに俺、伝えたい言葉があったらしい。届かない、らしいけどな。
僅かな逡巡を乗り越え前を向くと、遠くに光?。いいや、何か解らないが確実にこの先に何かある。それが何か見極めようと目を凝らした瞬間、吸い込まれ意識が消える。
香奈「ほら見て!あそこ!桜がいっぱい咲いているでしょ!此処が私の母校。
学校の敷地内だけど、桜の名所で、この季節だけは一般開放しているから
誰でも入れるのよ!高卒の彰彦さんでもね。」
彰彦「ムカつく(^_^メ)」
香奈「へへ!言ってやった~!たまには良いでしょ。
いつも、私が負けてるんだから
学歴くらいは、威張らせてよ。」
彰彦「たまにはって!それは致命的だろ。」
やっと勝ったと、無邪気な笑顔をみせる香奈。そんな彼女に奇跡の瞬間がやって来た。暖かな光に包まれた春風に桜が舞い、笑顔を彩り輝くように幸せ色に染まっていく香奈。
香奈「今、私に見惚れていたでしょ!
いつも、『ソンな訳あるか!』なんて、誤魔化すんだから
今日こそは、正直に言いなさいよ!
言葉に出さないと、伝わらない事もあるのよ。」
何度目だ?そんな事を香奈が言ったのは・・・。そうだな。
認める・伝わらない・事・・・あるよな!
『愛してる。』そんな簡単な言葉さえ、伝えていなかった。ガガ。ガーガガ。ノイズ?なぜ世界が歪む?おかしいだろ!そんな訳あるかよ・・・。もう少し待ってくれ!消え・る・な!伝えたい言葉があるんだ!消えないでくれ!お願いだ・・・。歪み消えようとする世界に、思いを伝える時間をくれと懇願するが・・・無駄だった。優しさに包まれた光は色褪せ、過去を記憶することは贖罪だと言わんばかりに、時を止めた。静止した世界。それは音もなく、色褪せ腐敗し、見捨てられた世界。それでも、希望は残っていた。
セピア色の世界を再び、命溢れる世界に染めようと微笑んでいる香奈が、この世界にはいる。石像のように固まり動こうとしない我が手を力一杯伸ばし、氷のように固まった大気をかき分ける。
もう少し・・・あと少しで、触れる事ができるのに何故だ!僅かに届かない我が手を呪いながら、アスファルトに囚われ、離れようとしない脚を必死に動かそうともがき、やっとの思いで動いた瞬間、魔力に屈し、ひび割れた水晶のように世界は、ひび割れ、砕け散る。
彰彦「愛している香奈!」
砕け散りながら、遠ざかる世界に叫ぶが、届かない。あの頃・・・当たり前の事は言葉に出さなくても、伝わると思っていた。照れ臭かったのかも知れない。言い出せなかった言葉は、お前を失ったあの日から永遠に・・・届く事は無いと知っているつもりだ。だから、今まで言わなかった。『愛している。』と。
ガガ・・ガーガガ。
「彰彦さん!起きて~。起きてよ!早く~!
今日は、ショッピングモールに連れて行くって言ったでしょ!」
誰だよ。・・・揺ら・す・な・・香奈?・なぜいる。
======= ========
《ヤメロ!お前の勝ちだ。彰彦の心を弄ぶのは・・やめてくれ。
何度も失った幸せを見せるのは、やめてくれ。
・・・理解した。私の負けだ。だから、だから・・・
ヤメロと・言って・・いる。ヤ・メ・ロ・・・》
本作品はティアーズ・オブ・モンスター 9.2話からのスピンオフです。
戻らない君と 穂積蓮 @hozumiren
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