第26話「尋問開始」

ヤマトは見知らぬ病室で目が覚める。静かな病室には、心電図の無機質な音だけが鳴り響く。

起き上がろうとすると、体が拘束されていて動けない。腕には点滴が刺されていた。

イバラの毒で意識を失ったことを思い出したヤマトは、ここが守護警察の施設であることを理解する。

あたりを見渡すと天井の隅に監視カメラが、壁際にはマジックミラーと思わしき鏡が。

ヤマトは自分の置かれている状況を理解し、無駄な抵抗をすることは得策ではないと判断した。

しばらくすると扉が開かれ、心理カウンセラーである砂浜ゆきが尋問をしにやってきた。

以前ゆきと会話をしたことのあるヤマトは、少し身構える。

(…! 砂浜ゆき… 下手な嘘は逆効果か…)

そんなヤマトはお構いなしに、ゆきは淡々と質問をする。

「あなたに聞きたいことがいくつかあるから質問させてもらうわ いいわね?」

「ああ…」

マジックミラー越しにヤマトを見るソウスイとハナビは、顔が強張っていた。

「まず、最初に事実を確認させてもらうわ。将軍と星読リュウセイ、それと灯火ホムラは死亡したってことで問題ないかしら?」

「ああ…」

別室にいる士官たちがざわめきだす。

「死因を教えて?」

「全員鬼に襲われて、殺された…」

「ならなぜあなただけ生きているの?」

「瀕死の俺を、別の鬼が助けてくれたんだ… ほかのやつらも助けようとしたけど、俺以外はすでに死んでいたって…」

スイレンの顔がさらにこわばる。

「それで?傷が治ってからは何をしていたの?」

「助けてくれた鬼を殺そうとした… でも… できなかった…」

ヤマトが、複雑そうな表情でそう呟いた。

それを聞いたゆきも少し複雑な表情をした。

しばらくの沈黙の後、しびれを切らしたソウスイが乱暴に扉を開けてヤマトに銃を向ける。

「将軍!?」

予想外の事態に、さすがのゆきも驚いて声を張る。

「待って!まだ尋問は終わっt…」

「落ち着け… 殺しはしない…」

意外にもソウスイは至極冷静だった。

「お前の返答次第だがな…」

罪悪感に駆られて気が沈んでいたヤマトに、一気に緊張が走る。

ハナビはこのやり取りを止めずに静観していた。

「答えろ藤原ヤマト…」

「お前は一体、何者だ…?」

ヤマトは間髪入れず答える。

「人間です…」

それを聞いたソウスイは、銃でヤマトを殴る。鈍い音が病室に響いた。

ヤマトの顔に血が滴る。

「ならなぜ鬼を殺さなかった…? なぜ俺たちの邪魔をした…?」

「それは…」

ヤマトは、少し迷ったように言葉に詰まる。しかし、嘘を言っても事態が悪化するだけだと思い、本音を伝える。

「大切な人を、護りたかったからです。」

ソウスイが再びヤマトを銃で殴る。

「将軍…!そろそろその辺で…」

「黙れ」

ゆきが仲裁に入るが、ソウスイはゆきをにらんで尋問を続ける。

「お前にいったい何があったかは知らんが、俺たちは生きるために戦う。それを邪魔する者は、たとえ人間であっても容赦はしない。鬼の世界から俺たちが凱旋するまで、ここで頭を冷やしておくんだな…」

ソウスイの捨て台詞に、ヤマトが敏感に反応する。

「待て!凱旋って何のことだよ!!西日本を取り戻すんじゃなかったのかよ!?」

「クックックッ…!いい機会だから教えてやろう…! 父上が死に、俺が守護警察将軍となった今、全ての指揮権は俺にある…!我々は、この問題を根本から解決すべく、鬼の世界に全面戦争をしかけることにしたのだ…!お前の命の恩人の鬼とやらも、残酷に殺してやろう…!」

ヤマトの何も知らない反応をみて、ソウスイは邪悪に笑う。

「テメェ!!! ジャンヌに一歩でも触れてみろ…!!俺がお前をぶっ殺してやる…!!」

ヤマトが激昂するのを見て、ソウスイはさらに愉快になる。

「そうかそうか、それは楽しみだよ… それじゃあまた会おう… 裏切り者のヤマトくん?」

そしてソウスイは颯爽と退室した。


ゆきが退室前に、最後にヤマトに話しかける。

「あなた… なんでそんなに鬼の肩を持つの?あなた今までにさんざん鬼を殺してきたじゃない」

「大の鬼嫌いのあなたが、たったの数か月でこの変わりよう。本当に、いったい何があったの?」

「いろいろだよ…!んなことどうでもいいから拘束を解いてくれ!!」

感情的になったヤマトが激しく抵抗するも、高速具のせいで虚しく終わった。

「駄目ね… 話にならないわ」

しびれを切らしたゆきもまた、退室していった。

このまますべてが終わるかと思われたその時、爆師ハナビが病室にやってきた。

ずっと静観していた爆師ハナビが、ついに口を開く。


続く

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