第17話「揺れ動く感情の狭間で part2」

ヤマトの快気祝いに鬼の町を紹介するといったジャンヌは、ヤマトと共に下山する。

鬼の見た目は人間とさほど変わらないため、フードを被り顔を隠せば誰も気にしない。

町に着いた2人は、とある場所へ向かう。

「ここがジャンヌの住んでる町か…」

思っていたより文明的で、綺麗な街並みに感動するヤマト。

「そうだよ!すっごい綺麗でしょ」

そしてそれを誇らしげにするジャンヌ。

町は鬼でにぎわっていた。

石畳や鳥居など、町中に神社を彷彿とさせるような建造物があるこの町で、ジャンヌはヤマトにサプライズがあると言う。

「実はね、ヤマト。私、ヤマトにサプライズがあるの!」

「サプライズ?」町を見て回るだけだと思っていたヤマトは、意外な顔をする。

「そうだよ、着いてきて!」

そうやってジャンヌに手を引かれ、されるがままに着いたのは古びた雑貨屋だった。

老いた鬼が経営するその店の奥に、ジャンヌが言う「サプライズ」はあった。

「これって…」

「そうだよ、付け角!快気祝いに買ってあげるから、好きなのを選んでね」

(こんなのがあるのか… これで鬼に擬態すれば…)

無意識のうちに笑みがこぼれるヤマト。

店の棚にはたくさんの形の角があった。

この「付け角」は何らかの理由により角を損傷した鬼や、角の形が気に入らない鬼が、新たに付ける角で、人間でいうところの「ヅラ」である。

「めっちゃ種類あるな…」

(正直何でもいいんだけど… 一番安いこれにするか)

「じゃあ、これで」

そう言ってヤマトが手に取ったのは古びた三本角だった。

「これでいいの?全然遠慮しなくていいんだよ?お金はいっぱいあるし、ヤマトが好きなのを選んでね?」

ジャンヌの微妙な反応が気になったヤマトは、質問をする。

「俺はこれでいいんだけど… もしかして、三本角って人気ないのか?」

「まあ… あんまり…」

言葉に詰まるジャンヌ

しかし、ヤマトは角さえ手に入れば問題ないので気にしない。

「そっか、まあ、俺はこれが好きだからいいよこれで」

「わかった。じゃあお会計するね」

そういって年老いた鬼の店長にお金を払うジャンヌ。

その光景は人間の社会と何ら変わりはなかった。

(クソッ…! なんでためらってんだよ…!情でも移ったのか…?)

鬼を殺すと決めたはずのヤマトだったが、鬼の日常を目にすると胸が締め付けられるような気持ちになった。

「お待たせ」

そんなヤマトの気持ちは露知らず、ジャンヌが無邪気にヤマトに声をかける。

「これ、さっそくつけてみてよ!」

ジャンヌがそう言ってさっき買った付け角を取り出す。

「ど、どうやってつけるんだ?これ」

見たこともない施工がされている付け角をみて戸惑うヤマトにジャンヌがこう言う。

「角に巻いてある札をはがして、頭にくっつけるの。そうしたら、自動的にくっつくから」

「まじで…?」

半信半疑で札をめくり、頭に角をくっつけると、スッと角がくっついた。

(まじかこれ…!)

「ほらね!言ったでしょ! わぁ… すっごく似合ってるよ!」

ジャンヌに見た目を誉められたヤマトは、店のガラスに映る自分を見て、少しほほ笑む。

(案外… 悪くねぇな…)

「じゃあ、行こっか!もうフードはいらないね!」

「ああ」

そして二人は、町を見て回る。

鬼の町には子供もいて、ヤマトは自分の昔の姿と重ね合わせる。

揺れ動く感情とどう向き合えばいいのかわからなくて葛藤するヤマトだったが、自分が人間であるということだけを強く意識して何とか気持ちをごまかした。

(駄目だ…!完全にここの空気に慣れちまってる…! 正直このままでいいんじゃないかって気すらしてやがる…!でも… 俺がここで諦めたら… あいつらの命を無駄にしないためにも、心を鬼にして全員殺すべきなんじゃないのか…?俺は、藤原ヤマト、『人間』だ!こいつらは俺の敵で、罪をあがなわなくちゃいけないんだ!)

「ねぇヤマト… さっきから様子が変だけど大丈夫?」

どこか様子のおかしいヤマトに、ジャンヌが声をかける。

「ああ… 大丈夫だ…」

ヤマトは明らかに豹変していた。何度も揺れ動く感情の狭間で、ヤマトは一人、覚悟を決めたのだ。

そんなヤマトの様子を見て悲しそうな顔をするジャンヌ。何かを察知したようにも見えた。


その日の夜、ついにヤマトは行動に出る。

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