第15話「また逢えたね」
目が覚めると傍には鬼の少女が。銀色の髪をした少女の目は薄紅色で、肌は雪のように白く、巫女装束のようなものを身にまとっていた。ヤマトは目が覚めると、自身が置かれた状況の理解に時間がかかった。
(な… なんだよこれどうなってんだよ…! 毒矢で死んだんじゃなかったのかよ… てゆうかあいつらは…?こいつ誰だよ…!鬼…!?)
目が覚めたが混乱して言葉が出ないヤマトに、鬼の少女が声を震わせながら声をかける。
「…!よかった…!ずっと眠ってたんだよ…?」
(…? こいつ… 何で泣いてんだ…? てゆうか俺ずっと眠ってたのか…?)
その様子に混乱しながらも、徐々にこの現実を受け入れていくヤマト。そして、自分と同じように仲間が一命を取り留めた可能性に期待して食い気味で鬼の少女に質問する。
(…! あいつらは…!)
「あいつらは…!あいつらはどうなんだよ…!」
しかし、傷は深く、少し動くだけで全身に激痛が走る。
「あァア…!!」
「大丈夫!? まだ動いちゃだめだよ… 傷口が開くから安静にしてて…」
激痛に悶えるヤマトに鬼の少女が優しく声をかける。そしてヤマトの質問に申し訳なさそうに答える。
「それと… 申し訳ないけど… あなたの仲間はすでに… 息を引き取っていたの…」
「…」
それを聞いたヤマトは涙ぐむ。一度本気で生きていると思った分、残酷な真実がヤマトの心を串刺しにする。
ヤマトが涙をこらえているのを見た鬼の少女は、少しでも慰めになればと思い、どうしようもならなかったことではあるがヤマトに謝罪する。
「…ごめんなさい」
しかし、それはヤマトにとって逆効果だった。両親も初恋の人も仲間も鬼に殺されたヤマトにとって、鬼の謝罪は憎しみの火に油を注ぐだけだった。
しばらく沈黙が続いた後、鬼の少女が家に戻って夕飯を持ってくるとヤマトに伝える。それを聞いたヤマトは何かが吹っ切れる。
「…ごめんなさい、私、あなたの夕飯を取るために一度家に戻るからそこで待っててね…」
(は? 夕飯…? 家…? 待てよ あいつらは何を言ってるんだ…? お前たちにも家族や帰る家があるってのか…? 俺達から全てを奪っておいて…? お前らはのうのうと人生を謳歌してんのかよ…! さんざん俺たちの仲間を殺しておいて…!気まぐれで人間を助けるって…? マジで気持ちわりぃなテメェら…!
ダメだ… こいつらは生きてちゃダメだ… 俺が裁かないと…)
そしてヤマトは決心する
(『皆殺し』だ…!)
家から夕飯を持ってきた鬼の少女。人間の世界の食べ物と見た目に差はないが、鬼嫌いのヤマトはそれを拒絶する。
「おそくなってごめんね… 夕飯… 口に合うといいけど…」
「…わりぃ 今腹減ってないんだ…」
「わかった… ここに置いておくから食べたくなったらいつでも言ってね?」
「…ああ」
ヤマトは口ではそういうが、心の中で憎しみの炎を燃やす。
(テメェらの作った薄汚ねぇ料理なんて食えるわけねぇだろ…! 早いとこ傷治して、村でも襲うか…)
ヤマトの殻に閉じこもった態度を見た鬼の少女は、緊張を解いて距離を縮めるために、自己紹介をする。
「…あの、私の名前… まだ言ってなかったよね…? 私の名前は… 『ジャンヌ』」
「あなたの名前は…?」
ジャンヌと言う名前を聞いたヤマトは、ほんの一瞬だったが、どこか懐かしく、どこか寂しい気持ちがして、憎しみの炎が弱まった。
(この気持ちはなんだ…?今コイツ… ジャンヌっていったのか…!? こんなヤツ… こんなヤツ知らねーはずなのに… なんでこんなに心がざわめくんだ…!?)
「だ、大丈夫…?」
瞳孔が開いて固まったヤマトを心配するジャンヌ。
「あ、ああ… わりぃ… 大丈夫だ… 俺はヤマト… 藤原ヤマトだ…」
ヤマトが名乗りを上げた瞬間、あたりの木々がざわめきだし、ヤマトの心臓の音が大きくなる。
「ヤマト…? それがあなたの名前…?」
「ああ…」
ジャンヌにもヤマトの緊張が伝わったのだろうか、すこし様子がおかしい。
「急にごめんなさい… なんだか… とっても懐かしい気がして…」
「ああ… そうだな…」
なぜか泣き出すジャンヌ。それを見たヤマトの心は、完全にぐちゃぐちゃになっていた。
自分から全てを奪った鬼が目の前にいて、殺したいと思うほど憎んでいたにもかかわらず、今までに抱いたことのない感情のせいで心を乱され、自身の記憶の根底が覆るほどの懐かしさを感じたヤマトは、この奇妙な現実を理解できずにいた。
(なんだよこれ… もうわけわかんねーよ… 頭クラクラするし… もう… なんでもいいや…)
(──今はただ… 眠りたい…)
「ごめん… 今日は疲れたからもう寝るわ… 飯は明日食うよ…}
そう言って横になるヤマト。
長い一日が、幕を閉じた。
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