第14話「蘇る君との思い出」

扉を開けると、そこは鬼の世界だった。

鬼の世界はあたり一面に紅葉が広がっていて、とても幻想的な世界だった。とても殺戮者が住んでいるとは思えないその美しい光景に、誰もが息をのんだ。紅葉の眩しい山道に、暖かい風が吹く。

「す… すごい…」リュウセイは絶景に心打たれて言葉に詰まっていた。

「ああ…」ホムラも木を見上げてそういう。

「見とれている場合ではないぞ… 先へと進まねば…」

ゲンスイはそういうが、完全に目線は美しい景色に向いていた。

(あれ…?なんでだろう…?始めた来たはずなのに… どうして… どうしてこんなにも懐かしいんだ…?)

ヤマトも景色に見入っていたが、ほかの隊員とは少し様子が違った。まるで、さっきまでずっとここに居たかのような気がしたヤマトは、目が潤っていた。

一行は幻想的な景色に見とれながらも、歩みを進める。ここがどこで、どこへとすすめばいいのかもわからない一行だったが、あたりを見渡すため、とりあえず山頂を目指すことに。

「ハァ…ハァ… 結構しんどいですね… これ…」

他の隊員に比べ体力があまりないリュウセイは、木の枝を杖にしながらなんとか上を目指す。

「おいおい… 大丈夫か…? 荷物持つぞ俺」

「いえ… 結構です… 迷惑をかけるわけにはいきませんから…」

ホムラが気を使ってそういうが、リュウセイが断る。

「そうか… あんま無理すんなよ… しんどくなったらいつでも俺かヤマトに言えよ…?」

(なんで俺が…)

まだこの2人に心を開いていないヤマトは、少し嫌な顔をする。


なんとか山頂に着いた一行は、あたりを見渡す。

「…まいったな」

「なんもねーな…」

そう呟くゲンスイとホムラ

そんな時、何かを見つけたヤマトが指をさす。

「なあ… あれ…」

「ああ!すごいですヤマトさん! 村ですよ! 鬼の村ですよ!」

リュウセイが興奮気味にそう言った。

「でかしたぞ藤原ヤマト!」

「お手柄だな!」

二人に褒められて少し赤面するヤマトをホムラがイジる。

「お前、耳赤くなってんじゃん! 意外とかわいいとこあんだな!」

「…うるせぇ!」

「ハハハ!」

村を見つけたこともあってか、少しだけいつもの調子を取り戻したヤマトだった。


下山して、村を目指す一行、すこしずつだが、仲間の意識も芽生えてきたその時だった。一瞬の出来事だったが、一向に緊張が走る。

リュウセイが弓で狙撃されたのだ。矢に毒が塗ってあったのだろう。別れの言葉も癒えぬまま、苦しそうに息を引き取るリュウセイ。

3人は身を寄せて次の奇襲に備える。

「お前ら!わかっているな!?」

「はい!」

「ああ!」

今度はヤマトに矢が飛んできたが、刀で間一髪のところで切り落とす。

「クソッ…!卑怯者どもが!正々堂々!正面から来やがれ!」

ヤマトが声を荒げるが、虚しくこだまする。

「落ち着け!集中しろ…!」

ホムラがヤマトを諭すが、ホムラの声も恐怖で震えていた。

「来るぞ…!!」

ゲンスイがいち早く迫りくる脅威を察知して大声で警告する。

顔こそ覆われているものの、明らかに人間ではない「何か」がヤマト達に襲い掛かる。

今までの鬼とは違い、小柄で、服を着ていて、翼のようなものを身に着けている「何か」は、一瞬でゲンスイの腕を切り落とした。

「グォォォ…!」

うなるゲンスイ。

(まずいまずいまずい…! こいつ… マジで強い…!)

一瞬でパニックになるヤマト。ホムラがゲンスイの前に立ち、ヌンチャクで応戦するが、あっという間に増援が来た。

「クソッ…! ヤマト… 俺が全力でこいつらを食い止めるから…!お前だけでも逃げろ…! 扉のあったところまで逃げて、ソウスイさんに報告するんだ…!」

なんとかヤマトだけでも逃がそうとするホムラを見て、ヤマトは頭痛がする。

(クソッ…!こんなときに…!まただ…!)

何かを感じたヤマトは、ホムラの提案に反対する

「だめだ…!俺たちは仲間だろ…! 生きるときも…!死ぬときも一緒だろ!」

「…馬鹿野郎! こんなときに何言ってんだ!?」

「こんな時だからだろ! 一緒に、勝って帰るんだよ…!」

「ああ!クソォ!わかったよ! もうしらねーぞ!!」

「ここが天王山か…!」

覚悟を決めた一行に、鬼たちが襲いかかる。

翼の生えた鬼が空を駆け回り、爪でゲンスイを切り裂く。一撃離脱の攻撃に苦戦するが、隙を見て会心の一撃を入れ込んだゲンスイ。

「フンッッッ!!!」

「グォォォ!!!」

ホムラとヤマトは、翼のない複数の鬼を纏めて相手にする。

ヤマトは刀で、ホムラはヌンチャクと中国拳法で鬼と交戦する。徐々に鬼の軍勢を消耗させていく一行。

(いける…!)

ヤマトが勝利を確信したその時、背後からもう一人の鬼がゲンスイの心臓を槍で貫く。

「将軍!!」

ヤマトが振り返ろうとすると、あたりが歪んでで見える。

ぼやける視界の中、太ももに刺さった弓の輪郭を見てヤマトは察する。

(あ… だめだこれ… 毒だ…)


意識がもうろうとする中、誰かの呼び声のようなものが聞こえる。

(まただ… 誰なんだ…? ギンか…? それとも… なのはちゃん…? 申し訳ないけど… 合わせる顔がねぇよ… 俺、何にもできなかった… まだ… 死にたくない…!)

藁にもすがる思いで生を渇望するヤマト。


混濁する意識の中、目が覚めると、傍には鬼の少女が。


続く

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