第12話「明日世界が終わるなら」
ヤマトは守護警察将軍、戦国ゲンスイと共に鬼の扉を目指す。
時刻は5時。あたりはまだ薄暗い。
ヤマト達は軍用車で京橋にある基地を発つ。
「お前たち、準備はできているな?」
ゲンスイがヤマト達に問いかける。
「はい!」3人は元気よく答える。
ヤマトを含めた3人とも、それぞれ複雑な思いでこの調査に志願していた。
金髪の青年、藤原ヤマトは鬼に復讐するためという半ば自暴自棄な状態で、赤い短髪の青年「灯火ホムラ」は自身を犠牲にしてでも人類の未来を取り戻すという正義感で、黒髪の眼鏡をかけた青年「星読リュウセイ」は鬼に対する異常なまでの好奇心が原動力でこの作戦に参加していた。
そんな彼らをまとめるゲンスイもまた、自身の力がどこまで通用するのかという闘争心が原動力と言っても過言ではない曲者だった。
曲者ぞろいの特殊部隊は、軍用車で扉のある鶴橋へと向かう。
リュウセイが運転していると、ホムラがヤマトに話しかける。
「なぁ、こんなときにいうことじゃねぇかもしれねぇけどさ、鶴橋まで少し時間があるし、自己紹介でもしねぇか?」
「そうですね」
「では私から」
そう言って運転席からリュウセイが自己紹介を始めた。
「私の名前は星読リュウセイ。伏見区の出身です。趣味は空を見ることと読書、兵科は衛生科です。戦闘は苦手ですが… 医療のことは何でもお任せください!」
「ああ、よろしくな!」
ホムラが元気にそう答える。
「俺は藤原ヤマト。京都の山科区で育った。両親は俺が6歳の時に鬼に殺されてる。よろしく… 」
ヤマトの最悪の自己紹介のせいで空気が重くなるが、ホムラが自己紹介をして空気を和ませる。
「…よ、よろしくな!ヤマト! 俺は灯火ホムラ!俺は、伏見区の出身だ!俺の両親も鬼に殺された…!俺の目標は、鬼に奪われた領土を取り戻して、また戦争前みたいにみんなで笑える暮らしを取り戻すことだ!よろしく!」
「ああ… よろしく…」
けだるげそうにヤマトが生返事をする。
(うぜぇ…!なにがみんなで笑える暮らしだよ…! 無理に決まってんだろ…!? 鬼だけ殺しときゃいいんだよ俺たちは…!)
ホムラのその発言が、まるで昔の自分を見ているようで理不尽にも苛立ちを覚えたヤマトだったが、しばらくすると苛立ちを覚えた自分に嫌悪する。
(あれ… 俺、あいつに嫉妬してたのか…? 昔の自分を見てるみたいで、イライラしてたのか…?)
(クソッ…! ダセぇ…!)
「どうした藤原ヤマト。浮かない顔だな」
そんなヤマトをバックミラー越しに見て、振り向かずに話しかけるゲンスイ。
「…! い、いえ!なんでもありません!」
「まあそうかたくなるな… 時に藤原ヤマト、お前は明日世界が終わるなら、いったい何をする?」
ゲンスイが、反射的にそう答えるヤマトの緊張を解こうと質問をする。
「明日世界が終わるなら…」
思考を張り巡らせるヤマト 脳内にはギンの姿が。そしてヤマトはこう答える。
「覚めない夢を… 見ていたいです」
「フハハハハ!面白いな!」
意外な答えに声を上げて笑うゲンスイ。
「いえ… 別にそんな…」
少し申し訳なさそうにするヤマトに、ホムラがフォローを入れる。
「いい夢見れるといいな」
「…ありがとう」
「ヤマトさんはロマンチストなんですね」
リュウセイが運転しながら会話に参加する。
「いや、ただの臆病者だよ」
ヤマトが卑屈にそう答える。
「だが、ここにいる」
ゲンスイが真剣にそう言った。
ゲンスイの言葉が、ヤマトの心を覆っていた雲を吹き飛ばした。さりげない一言だったが、その一言がヤマトにとって、何よりも染み渡った。ヤマトの頬を涙が伝う。
時刻は5時20分。朝日が昇る。
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