第11話「崩れ落ちていく世界」
作戦は成功した。しかし、それを「勝利」と呼ぶにはあまりにも代償が大きすぎた。
たくさんの兵士が傷つき、命を失った。戦いの後遺症で苦しむ兵士も少なくない。ヤマトもそのうちの一人だ。今回の作戦で仲間を2人も失った心の傷は、簡単に癒えるものではない。
月明かりが眩しい深夜の寮で、ヤマトは1人、談話室のソファに座って葛藤していた。
「なあ、なのはちゃん、ギン 一体俺はどうすればいいんだろう…?」
「俺が今死んだら、またお前らに逢えるのかな…?」
仲間を失った悲しみに明け暮れたヤマトは、放心状態になっていた。
「もう迷わないって、心にそう決めたってのに… ごめんハナビ… 俺、立ち直れそうにないや…」
「俺は兵士失格だな… 自分のことで精いっぱいで、誰も守れてない…」
ふと昔のことを思い出し、顔が曇るヤマト。
「俺の罪は… 弱かったことだ… なんだ… あの時と変わってねぇじゃん…! 俺は、弱い…!」
ヤマトは昔の自分と今の自分を重ねる。あの頃と同じ、誰も守れない弱い自分が憎くて、涙が零れ落ちる。
そんなヤマトの脳内に、ギンの最後の言葉がよぎる。
「言いたいことは山ほどあるが、最後にこれだけは言っておくぞ、ヤマト…! 生きろ。 お前は一人じゃない…!」
ギンの力強い言葉が、ヤマトの胸に響き渡った。自暴自棄になっていたヤマトは、ギンの言葉で渇が入った。
「ごめん…!ギン…!俺は、またお前に助けられた…!ありがとう…!」
「俺、お前らの分まで生きるよ…! 生きて、生きて償うよ…! 死ぬまで償うから…!だから…!俺の傍で、見守っててくれ…!」
全てを失ったヤマトは、藁にもすがる思いで、故人に語り掛ける。それが今のヤマトの不安定な心を支える唯一の方法だった。
数日後、ヤマトは集会で「扉」のことや、鬼の世界の調査をする志願兵を募っているという話を聞かされる。
「諸君!先の作戦、ご苦労だった!諸君らの勇気が、世界を傾けたのだ!私は君たちに、最大の感謝と、最大の敬意を表する!」
そう言って戦国ゲンスイは、兵士たちに敬礼をした。ゲンスイの姿に感動して涙を流すものもいたが、ヤマトは違った。
もう、悲しみも、怒りも、何もかもが不要だった。ただ、目の前の鬼を殺す。その純粋な殺意だけがヤマトを突き動かしていた。
「先の作戦では様々な戦果が得られた!その中でもひときわ輝いている戦果が、鬼の世界へと続くとされる「扉」が鶴橋にあると判明したことだ!」
ゲンスイの予想外の発言に、ヤマトの口角は少し上がった。
「その『扉』をくぐると、おそらく鬼の拠点があるのだろう!しかし!規模や文明のレベルなど、ほぼ全てがわからないといっても過言ではない!そこで!われわれは鬼の世界を調査する部隊を志願兵と言う形で募集することにした!」
「もちろん無理にとは言わない!君たちは先ほどの作戦で負った傷を癒す必要がある!しかし!それでも!傷を負ってでも!何もわからなくても!私と共に、世界の謎を明かし、鬼のいない世界を目指そうというものは、今日の18時に、私の部屋に来てくれ!」
「繰り返すがこれは義務ではない!無理をする必要もない!この作戦自体、博打のようなものだ!命の保証どころか、帰ってこられる保証すらない!よく考えて選ぶんだ!私はいつでも、勇気のあるものを歓迎する!」
そう言ってゲンスイは去っていった。
演説後、ヤマトは自室に戻ろうとするが、ミキオに止められる。
ミキオはヤマトが鬼の世界の調査に行こうとしていることを、杞憂したのだ。
「なあヤマト、お前、まさかとは思うけど、将軍と一緒に行こうとか思ってないよな…!?」
「だったらなんだよ」
ヤマトは反抗的に答える。
「お前、将軍の話聞いてたのかよ…!そんなに死にたいのか…!?」
「あんたこそよくのうのうと生きてられるよな。部下が2人も死んだってのに」
ヤマトが涼しい顔でそう言った。そんなヤマトに対して、ミキオが声を荒げる。
「平気なわけないだろ…! 俺がどんな思いでお前に忠告してると思ってんだ…! これ以上、誰も死んでほしくないからに決まってんだろ…!? お前、本当にどうかしちまったようだな…!」
「ああ、どうかしてるさ… こんな世界、気が狂わない方がおかしいだろ…」
嘆くようにそう言うヤマトをみたミキオは、感情を抑えて去り際にもう一度だけ念押しする。
「そうだな… 俺も、お前も、とっくに正気何て失ってるのかもしれない… だけど… それでも、俺は、お前に行かないでほしい。 もう、誰も失いたくないんだ。」
それを聞いたヤマトは、舌打ちをする。
「チッ…!」
(俺だって…!俺だってそうだよ…!だけど…!誰かがやらなくちゃいけないんだ…!命の危険を冒してでも、戦わなくちゃいけないんだ…!)
時刻は18時、ゲンスイの部屋に、ゲンスイとヤマトを含めた4人が集まった。
あまりにも少なすぎる人数だが、それでもヤマトたちは作戦を決行する。
鶴橋にある扉を目指して、一行は歩みだす。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます