第8話「皆殺しだ」

新大阪駅に突入した一行は、4班に分かれてそれぞれの階を制圧する。

ミキオ班は1階、ハナビ班は2階に割り当てられた。もちろん、この2班だけではなく、各階200人、新大阪駅の周辺の鬼に対応しているもの達も含めれば合計千人近い人数の隊員がこの作戦に参加している。


10:00 floor1


「お前ら!気を引き締めていけよ!」

守護警察曹長であり、戦国ゲンスイの息子でもある戦国ソウスイが声を張り上げる。

「おお!」

先陣を切るソウスイに続く一同。と、それとは別で行動する二人の男がいた。ギンとヤマトだ。

彼らはソウスイの指示で別行動をしている。理由は単縦で、彼らは一部隊に相当する実力を持っているからだ。

目的は鬼の陽動で、二人が鬼の気を引いた後、後ろからソウスイ達が攻撃を仕掛けると言う作戦だ。

そんな彼らの実力を踏まえての大胆な采配だった。


10:05 floor1 ヤマト・ギン視点


鬼の気配に気をつけながら急足で進んでいる二人に、最悪の知らせが走る。

「──こちら医療班…!現在…!鬼の攻撃を受けていてもちそうにない…! すでに何人か死んでいて、重症の患者も多い!バリケードが突破されれば全員殺される!大至急 救援を要請する!!」

二人の脳裏になのはの顔がよぎる。

なのはは衛生兵として野戦病院に駐在していたが、戦闘は得意ではなく、彼女が護身用に装備している拳銃も、鬼との戦闘ではほとんど役に立たない。第一、鬼が意図的に弱者を狙うといった事は今まで前例がなかったため、このような状態が想定されておらず、歩兵がすぐに対応できるような采配がされていなかったのだ。初めて鬼を観測した東京の陥落事件の時も、鬼はあくまで「無差別」に人々を殺していたため、こういった狙い撃ちのような形は初めてだった。

ギンとヤマトは今すぐにでも駆けつけたかったが、ここで作戦を乱すと大勢の命が無駄になると言うことを理解していた為、苦渋の決断を下そうとするが、体がそれを拒む。大切な仲間を守りたい。そこに大義はなく、ただのわがままのようなものだったが、彼らにはそれで十分だった。

「わりぃギン。俺、我慢できそうにねーわ」

弱者を狙う卑怯者の鬼に対して、ヤマトの声が怒りのあまり震える。

「安心しろヤマト、俺が全力で支援する」

ギンの口調はいつも通りだが、行動は違った。

「そっか、お前とは初めて意見が合ったな…」

ヤマトが少しだけ微笑む。

「ああ」

『「皆殺しだ!!」』

窓のガラスを破り、医療班のいる前線基地を目指す二人に、ソウスイから無線が入る。

「──お前ら… まさかとは思うが助けに行こうだなんて思ってねーよな…?」

言い返そうとするヤマトに、ギンが「待て」のハンドサインをする。

「すまない曹長… 俺たちの処罰は好きにしてくれて構わない 駅はアンタと他の隊員に任せた。」

いつものギンなら言いそうにない言葉を言っているのが、少し新鮮に感じたヤマトは、ポカンと口を開けていた。

しかしそんなことはお構いなしに、ソウスイは任務を放棄した二人に対して怒鳴り込む。

「ふざけんなテメェら!この作戦の重要さがわかってて言ってんのか?大体…!」

しかしギンは引かなかった。仲間のために、珍しく感情的になるギン。

「わかってるさ!頼む…!仲間なんだ…!」

少しの葛藤の後、ソウスイは二人を前線基地へ送り込んだ方が被害が少なくなると判断して、二人の行動を許可した。

「──クソッ!これで基地の鬼狩残したら許さねーからな…!」

「…すまない、恩に着る」


10:10 floor 1 戦国ソウスイ視点


「テメェら!諸事情で別で動いていた藤原ヤマトと冷凍ギンが、医療班のところにいる鬼の対処に当たることになっちまったから、俺たちだけでここのフロアの鬼狩り尽くすぞ!」

ソウスイが、二人の埋め合わせができるように隊員達の士気を上げる。

「ウォォォ!!」


10:15 野戦病院 ギン・ヤマト視点

無線で助けを求めていた男達は、全員鬼に殺されていた。

バリケードが突破された部屋は、血と散乱した物で溢れかえっていた。

「クソッ…!」

自分の無力さを目の当たりにして壁を刀の塚で殴るヤマト。鈍い音が、虚しく響いた。

「…まだ誰かいるかもしれない 急ぐぞ!」ギンは後悔で目が曇らないうちに、他の衛生兵がいないか探す姿勢に切り替える。

(クソッ…! なんかわかんねーけど、スゲェ嫌な予感がする…!なのはちゃん… 頼むから無事でいてくれよ…!)

そんなヤマトの予想は当たり、地面に倒れ込んでいるなのはを発見する。

「なのはちゃん!」

ヤマトが急いで駆け寄ったその時、ものすごい速さで鬼がヤマトに襲いかかった。なんとか反応できたおかげで重傷は免れたが、鬼が迷わずなのはに襲い掛かろうとすると、ギンが鬼に対して発砲して、なんとか鬼をなのはの元から引き離す。

その隙になのはを物陰へ運ぼうとするヤマトを見て、鬼が予想外の行動をとる。

「イ” マ” ダ!」

不気味な重低音だったが、二人の耳にははっきりと聞こえた。

鬼が人間の言葉を話したのだ。

(今コイツ… 何て…!)

(ありえない…!)

その奇妙な現象に戸惑っていると、気配を決して潜んでいた鬼が一斉にヤマトに襲いかかる。

そして喋る奇妙は鬼は、ギンの方へ

(クソッ…! コイツ、わざと銃を持った俺の方へ近づいてきたな!? やっぱり他の鬼とは違う! 橋の時とは比べ物にならないレベルに、コイツには「知性」がある!)

(仕方ない…! 銃は厳しそうだし、コイツを試すか…!)

ギンはヤマトと同じ、エアブレードの切先がついたメリケンサックを装着する。

「こいよ、ラウンド2だ…!」


続く

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