第7話「守護警察将軍・戦国ゲンスイ」(修正済み)
梅田の奪還に成功したヤマト達守護警察は、西日本奪還構想における最重要拠点「新大阪駅」の奪還に備える。
新大阪駅を奪還できれば西日本奪還のための足掛かりにすることができ、一気に活動の幅が広がるのだ。
守護警察が総動員で取り組むこの作戦は、残された人類における「転換点」ようなものだ。
最悪なことに、そんな作戦に遅刻してしまったミキオ班視点で物語は始まる。
梅田から伏見までの道中での出来事だった。
「ギン!てめぇ何涼しい顔してんだよ!元はといえばお前が迂回しろって言ったのがいけねぇんだろ!?」
「遅刻したのはお前のせいだからな!」
京都の伏見で行われる新大阪奪還作戦の作戦説明会への道中、鬼と戦闘すると遅刻する可能性が高いので迂回するよう提案したギンに対してヤマトが責任をなすり付ける。
「俺はあくまで鬼がいると忠告しただけで、運転していたのはお前だ。ヤマト」
ギンが冷静にヤマトの下手くそな運転を指摘する。
「ンだとォ??」
「自分は悪くねぇって言いたいのかよ?!」
それを聞いたヤマトは更にヒートアップするが、横目に見ていたなのはが仲裁に入る。
「だ…駄目だよ2人とも… 喧嘩はよくないよ…」
「…確かに」
愚直な程になのはの言うことを聞くヤマト。
「何なんだお前…」
そんなヤマトの態度の変わりように少し引き気味なギンであった。
そんな中、静観していた班長のミキオがみんなに声をかける
「まあまあ。その辺にしとけ… ヤマトには悪いが、これは俺のミスだ… 俺が運転していればこうはならなかった」
「…」
それを聞いて不貞腐れるヤマトにミキオが焦ってフォローする。
「…こ、今回はアレだったが、その… なんだ… 時間がなかったからな… また今度じっくり教えるから…!」
しかし、ヤマトは完全に不貞腐れていた。
「…もういいよ」
それから数分後…
車を駐車場に停めて早歩きで本部の集会場へ向かう一行だったが、すでに作戦の説明は始まっていた。
「諸君!この作戦は知っての通り総力戦で、新大阪駅の4つのフロアを同時に制圧するという極めて難易度の高い作戦であると同時に…」
最後列で聞いていた一行だったが、ミキオ班の全員が守護警察の少佐に呼び出される。
「貴様ら、こっちへ来い」声から怒りがにじみ出ていた。
「は、はい!」反射的に答えるミキオ。
少佐の後を追う道中、重苦しい空気が張り詰める。
減給か降格が言い渡されると予想して顔色を悪くしているミキオとギン。事の重大さに気付き、罪悪感と少佐の圧に怯えるなのは。3人がそれぞれ杞憂している中、自分の運転技術の低さのせいで遅刻したヤマトはまだ不貞腐れていた。
会議室の扉を少佐が開けると、中には士官が数人いて椅子に座っていた。壁の傍には武装した歩兵もいた。
少佐が椅子に座ると椅子のきしむ音が部屋に響き渡った。そして、ミキオたちを問い詰める。
「なぜ呼ばれたかわかっているな?」
「はい」責任を取る覚悟ができたミキオの眼差しはとても力強かった。
「言ってみろ」
「集会に遅刻しました」
心当たりのあるミキオは正直に答える。
「貴様は人類にとって、この一連の作戦がどれほどの意味をもたらすのかがわからないのか?」
少佐は、もはや怒りを通り越してあきれていた
「いいえ、理解しております」
しかし、ミキオの真剣な表情を見て少したじろぐ少佐だったが、部下の前でこれでは示しがつかないと思い尋問を続ける。
「ならなぜ遅刻した?」
「私の指揮能力が不十分だったからです」ミキオの言葉に嘘はない。運転していたのはヤマトだが、運転の許可をしたのはミキオだ。
「ならどういう処罰を受けるかも理解しているな?」
「はい」
覚悟を決めたミキオだったが、その時、ギンが予想外のことを言う。
「待ってください」ギンの声が静かな会議室に響き渡った。
「彼は私の強引な提案を承諾しただけで、実際に車を運転していたのは私です。私の技術不足が招いた結果です。処罰は全て私が受けます」
会議室がどよめきだす。
これにはさすがに静観していた士官たちも口をはさむ。
ただの歩兵に全ての責任を背負わせるのは酷だという意見や、一兵卒が口をはさむなという意見など様々な意見が出たが、結局意見はまとまらなかった。しかし、最終的に少佐の独断でギンの提案が可決されることになった。
「…ふん、好きにしろ」
ギンの仲間を思っての発言が評価されたのかどうかはわからないが、何とかミキオの減給を回避できたヤマトたち。
会議室を出ると疲れがどっと押し寄せる。
「はぁ… 死ぬかと思った…」なのはがそう呟いた。
「ああ、ギンがいなかったら今頃どうなっていたか…」ミキオは汗をかきながらそう言った。
「すまないギン… この恩は必ず倍にして返すよ。とりあえず減給中はヤマトの部屋にでも泊まってくれ」
しれっとヤマトの部屋に泊まらせようとするミキオに対して、ツッコミすらしなかったヤマトの調子を心配したミキオが念の為に質問をする。
「ちゃんと掃除してんのか?」
ヤマトは気まずそうに答える。
「…してない」
そして、気まずそうにしながらも、自責の念に駆られたヤマトは申し訳なさそうに謝る。
「あと… ごめんみんな… 俺が運転で事故りまくったせいでこんなことに… 」
「ううん…!気にしないで 私は全然平気だから…!」
いつも明るいなのはがヤマトの心を軽くするが、ミキオ苦笑いしながら口を挟む。
「お… 俺も平気だが… 万が一のことがあってはいけないからな…! 当面の間は俺に任せてくれ…!」
「…わかった」
不満そうとも、不安そうとも取れる態度のヤマトは珍しかった。
「──みんなごめん… 俺先行くわ。演説気になるし」
「ああ、じゃあな…」
ミキオもヤマトの態度に困惑していた。
「ヤマト君… 元気ないね…」なのはが寂しそうにそう言うと、ミキオが励ますようにこう言った。
「大丈夫さ!あいつはころころ調子変わるし、明日になったらまたいつもの感じに戻るから!」
「そうかな… だといいけど…」
なのはが少し心配そうにそう呟いた。
それを見たミキオは小声でギンに質問する。
「なぁギン、もしかしてアイツ、本気で落ち込んでるのか…?」
「俺に聞かないでくれ…」
ギンは面倒くさそうにそう言った。
ほぼ放心状態だったヤマトだったが、この後のことを思うと、今のままの自分じゃ不安だという気持ちでいっぱいだった。
(俺、何してんだろ… この後鬼と戦わなきゃいけないってのに… こんな調子じゃ、護れるものも護れねーよ…)
そんな時、周囲がどよめき歓声を上げ始める。守護警察将軍「戦国ゲンスイ」が演説のために登壇したのだ。
一方そのころギンたちは…
ヤマトがゲンスイの演説を聞くためにグラウンドへ出た直後のことだった。
ミキオたちがこれからのことについて話し合っているところに、煌びやかな勲章を胸に付け、ただならぬ雰囲気を身に纏った黒髪の男が声をかけて来た。
「お前が冷凍ギンだな?」
「ああ、そうだが」
いきなり高圧的に話しかけてきた黒髪の男を少し警戒したギンの表情が固くなる。
「まあそう固くなるな…」
「俺は守護警察第一空挺団班長の天内ツカサ お前の実力を見込んで提案があるんだ…」
それを聞いた全員に衝撃が走る。
(空挺…だと…!?)
ミキオの表情が一気に険しくなる。
「どうした?大樹ミキオ」
守護警察最強部隊である第一空挺団の班長を務めているツカサに名指しで呼ばれたミキオは慌てふためく。
「い、いえ… 何でもありません… それと… 失礼ですが、ギンにいったいどのようなご用件でしょうか…?」
「フッ… 喜べ冷凍ギン… お前の実力を見込んで、第一空挺団班長のこの俺が直々にお前をスカウトしに来てやったのだ…」
ソウスイが自信満々にそう言った。
「そ、そんな…」
なのはが思わず本音を漏らす。
「ギン…」ミキオも少し心配そうにそう呟いた。
このままギンが班を抜けて空挺に異動するのかと思われたその時だった。
ギンが意外な答えを口にする。
「すみませんツカサさん。誘っていただけたのは光栄なのですが…」
「──私にはどうしても放っておけない奴がいまして…」
ギンは眉をひそめてほほ笑んだ。脳裏には金髪の青年が。
「ほう… 俺の誘いを断るというのか…」
ソウスイが高圧的にそう言った。
その場にいた全員に緊張が走る。
しかし…
「まあいい… お前が来ないのは残念だが、気が変わったらいつでも来い。我々はお前のような強者を歓迎する」
一触即発の危機かと思われたが、意外にもツカサの引き際はよかった。ツカサはギンに別れを告げると颯爽とどこかへ消えていった。
「また会おう… 冷凍ギン…」
(──冷凍ギン… 面白い男だ… ますます欲しくなってきたな…)
「フゥ…… 緊張した… お前凄いなギン… よくあの人の誘いを断れたな…」
ギンの強靭な心臓にミキオとなのはが感心する。
「ホントだよ… 私なんて怖くて目も合わせられなかったもん…」
「俺だって何も感じなかったわけじゃないさ… あの人の実力は本物だ… ハナビさんにも匹敵するだろう…」
「じゃあ尚更なんで断れたんだ…?」
ミキオは余計にギンの取った態度に混乱する。
「言っただろ?放っておけない奴がいるって…」
ヤマトの予測不能性を知る3人は深く納得した。
「そうだな… ある意味一番怖いのはあいつかもしれんな…」
「…だね」
場面は同時刻、グラウンドで守護警察将軍の演説を聞きに来たヤマトは異常なほどの盛り上がりに混乱する。
(…!な、なんだよ… このざわめきは… ただの演説じゃねーよかよ…!?)
周囲の視線の先にいる男を見たヤマトは衝撃を受ける。
(!な…なんだこのオッサン!?ゴツ過ぎんだろゴリラかよ…!?こいつが噂に聞く『将軍』なのか…!?)
登壇した守護警察将軍、戦国ゲンスイは御年55歳と決して若くはないものの、大柄で筋肉質、鋭い眼差しと覇気を纏った生粋の武人である。
そんなゲンスイが隊員達に語りかける。
「諸君!我々には今、2つの道がある!1つは、今の生活を守りながら鬼と戦い、現状を維持する道だ!」
ヤマトはお世辞にも快適とは言えない今の生活を思い浮かべ憤る。
「そしてもうひとつは、多大なる犠牲を払い、時には死の危機に直面しながらも、険しい道のその先にある、奪われた明日を取り戻す道だ!無論!我々が進むべき道は後者にある!!」
ゲンスイの声がグラウンドに響く。ヤマトを含め、その場にいた全員がゲンスイの覇気をビリビリと感じていた。ヤマトの心拍数が上昇する。
「命が惜しいか!明日を生きたいか!しかし、我々は守護警察!そんなことは断じて許されない!我々は守らなければならない!力なき人々を!我々は取り戻さなければならない!奪われた明日を!」
鬼に大切な人を殺され、住んでいた土地も奪われたヤマトは痛いほどゲンスイの言葉が理解できた。
ゲンスイが深呼吸してさらに大きな声でこう告げる。
「全隊員に告ぐ、明日のために死んでくれ!今日、全力で戦って、世界を変えてくれ!勿論、世界のためなら私の命ぐらい、望んで差し出そう!我々は勝って帰る!それは我々だけの勝利ではない!人類の!世界の勝利である!」
「全員、『敬礼』!!!」
ゲンスイの声が基地中に響き渡り、全員がゲンスイに向かって敬礼をする。
それは完全に体が勝手に動いた反射的なものだった。
ヤマトの迷いは完全に消え去っていた。ゲンスイの言葉がヤマトの小さな迷いを吹き飛ばしたのだ。
ヤマトの脳内はアドレナリンでいっぱいだった。鬼に対する憎しみの炎を燃やすヤマトの目に覚悟が宿る。
(そうだよ俺…!俺は、俺には…!自分以外の誰かを守れるだけの力があるんだろうが…! 迷ってんじゃねぇ…!殺して、殺して、殺しまくって…! 奪われたもんを取り戻すんだろうが…!)
火蓋は今、切られたのである。
8話に続く
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