第7話「守護警察将軍・戦国ゲンスイ」
梅田の奪還に成功したヤマト達守護警察は、西日本奪還構想における最重要拠点「新大阪駅」の奪還に備える。
新大阪駅を奪還できれば、西日本奪還のための足掛かりにすることができ、一気に活動の幅が広がる。
守護警察が総動員で取り組むこの作戦は、人類における一旦の「区切り」のようなものだ。
そんな作戦に遅刻したミキオ班視点で物語は始まる。
「ギン!てめぇ何涼しい顔してんだよ!元はといえばお前が迂回しろって言ったのがいけねぇんだろ!?」
「遅刻したのはお前のせいだからな!」
新大阪奪還作戦の作戦説明会への道中。鬼と戦闘すると遅刻する可能性が高いので、迂回するよう提案したギンに対してヤマトが責任をなすり付ける。
「俺はあくまで鬼がいると忠告しただけで、運転していたのはお前だ。ヤマト」
「ンだとォ??」
「自分は悪くねぇって言いたいのかよ?!」
「だ…駄目だよ2人とも… 喧嘩はよくないよ…」
「…確かに」
「何なんだお前…」
ヤマトの態度の変わりように少し引き気味なギン。
そんな中、静観していた班長のミキオがみんなに声をかける
「まあまあ。その辺にしとけ… ヤマトには悪いが、これは俺のミスだ… 俺が運転していれば、こうはならなかった」
「…」
不貞腐れるヤマトにミキオがフォローする。
「…こ、今回はアレだったが、その… なんだ… 時間がなかったからな… また今度じっくり教えるから…!」
しかし、ヤマトは完全に不貞腐れていた
「…もういいよ」
早歩きで本部の集会場へ向かう一行だったが、すでに作戦の説明は始まっていた。
最後列で聞いていた一行だったが、ミキオ班の全員が守護警察の少佐に呼び出される。
「貴様ら、こっちへ来い」声から怒りがにじみ出ていた。
「は、はい!」反射的に答えるミキオ。
会議室までの道中、重苦しい空気が張り詰める。
減給か降格が言い渡されると予想して顔色を悪くしているミキオとギン。事の重大さに気付き、罪悪感と少佐の圧に怯えるなのは。3人がそれぞれ杞憂している中、自分の運転技術の低さのせいで遅刻したヤマトはまだ不貞腐れていた。
会議室の扉を少佐が開けると、中には士官が数人いて、椅子に座っていた。壁の傍には、武装した歩兵もいた。
少佐が椅子に座ると、椅子のきしむ音が部屋に響き渡った。そして、ミキオたちを問い詰める。
「何で呼ばれたかわかっているな?」
「はい」責任を取る覚悟ができたミキオの眼差しは、とても力強かった。
「言ってみろ」
「集会に遅刻しました」
心当たりのあるミキオは正直に答える。
「貴様は人類にとって、この一連の作戦がどれほどの意味をもたらすのかがわからないのか?」
少佐は、もはや怒りを通り越してあきれていた
「いいえ、理解しております」
しかし、ミキオの真剣な表情を見て少したじろぐ少佐だったが、部下の前でこれでは示しがつかないと思い、尋問を続ける。
「ならなぜ遅刻した?」
「私の指揮能力が不十分だったからです」ミキオの言葉に嘘はない。運転していたのはヤマトだが、運転の許可をしたのはミキオだ。
「ならどういう処罰を受けるかも理解しているな?」
「はい」
その時、ギンが予想外のことを言う。
「待ってください」ギンの声が静かな会議室に響き渡った。
「彼は私の強引な提案を承諾しただけで、実際に車を運転していたのは私です。私の技術不足が招いた結果です。処罰は全て私が受けます」
これにはさすがに静観していた士官たちも口をはさむ。
ただの歩兵に全ての責任を背負わせるのは酷だという意見や、一兵卒が口をはさむなという意見など、様々な意見が出たが、結局意見はまとまらなかったが、最終的に少佐の判断でギンの提案が可決された。
「…好きにしろ」
ギンの仲間を思っての発言が評価されたのかどうかはわからないが、何とかミキオの減給を回避できたヤマトたち。
会議室を出ると疲れがどっと押し寄せる。
「はぁ… 死ぬかと思った…」なのはがそう呟いた。
「ああ、ギンがいなかったら今頃どうなっていたか…」ミキオは汗をかきながらそう言った。
「すまないギン… この恩は必ず倍にして返すよ。とりあえず減給中はヤマトの部屋にでも泊まってくれ」
しれっとヤマトの部屋に泊まらせようとするミキオに対して、ツッコミすらしなかったヤマトの心配したミキオが念の為に質問をする。
「ちゃんと掃除してんのか?」
ヤマトは気まずそうに答える。
「…してない」
そして、気まずそうにしながらも、自責の念に駆られたヤマトは申し訳なさそうに謝る。
「あと… ごめんみんな… 俺が運転で事故りまくったせいでこんなことに… 」
「ううん…!気にしないで 私は全然平気だから…!」
いつも明るいなのはが、ヤマトの心を軽くするが、ミキオ苦笑いしながら口を挟む。
「お… 俺も平気だが… 万が一のことがあってはいけないからな…! 当面の間は俺に任せてくれ…!」
「…わかった」
不満そうとも、不安そうとも取れる態度のヤマトは珍しかった。
「わりぃ、俺先行くわ。演説聞きたいし」
「ああ、じゃあな…」
ミキオもヤマトの態度に困惑していた。
「ヤマト君… 元気ないね…」なのはが寂しそうにそう言うと、ミキオが励ますようにこう言った。
「大丈夫さ!あいつはころころ調子変わるし、明日になったらまた、いつもの感じに戻るから!」
「そうかな… だといいけど…」
なのはが少し心配そうに、そう呟いた。
それを見たミキオは、小声でギンに質問する。
「なぁギン、もしかしてアイツ、本気で落ち込んでるのか…?」
「俺に聞かないでくれ…」
ギンは面倒くさそうにそう言った。
ほぼ放心状態だったヤマトだったが、この後のことを思うと、今のままの自分じゃ不安だという気持ちでいっぱいだった。
(俺、何してんだろ… この後鬼と戦わなきゃいけないってのに… こんな調子じゃ、護れるものも、護れねーよ…)
そんな時、周囲がどよめき、歓声を上げ始める。守護警察将軍「戦国ゲンスイ」が演説のために登壇したのだ。
(…! な、なんだよ… このざわめきは… ただの演説じゃねーよかよ…!?)
戦国ゲンスイは、年齢は55と若くはないものの、大柄で筋肉質、鋭い眼差しと覇気を纏った生粋の武人である。
そんなゲンスイが隊員達に語りかける。
「諸君!我々には今、2つの道がある!1つは、今の生活を守りながら鬼と戦い、現状を維持する道だ!そしてもうひとつは、多大なる犠牲を払い、時には死の危機に直面しながらも、険しい道のその先にある、奪われた明日を取り戻す道だ!無論!我々が進むべき道は後者にある!!命が惜しいか!明日を生きたいか!しかし、我々は守護警察!そんなことは断じて許されない!我々は守らなければならない!力なき人々を!我々は取り戻さなければならない!奪われた明日を!全隊員に告ぐ、明日のために死んでくれ!今日、全力で戦って、世界を変えてくれ!勿論、世界のためなら私の命ぐらい、望んで差し出そう!我々は勝って帰る!それは我々だけの勝利ではない!人類の!世界の勝利である!全員、敬礼!」
ゲンスイの声が基地中に響き渡り、全員がゲンスイに向かって敬礼をする。
ヤマトの迷いは、完全に消え去っていた。ゲンスイの言葉が、ヤマトの小さな迷いを吹き飛ばしたのだ。
ヤマトの脳内はアドレナリンでいっぱいだった。
(そうだよ…!俺…!俺は、俺には…!自分以外の誰かを守れるだけの力があるんだろうが…! 迷ってんじゃねぇ…!殺して、殺して、殺しまくって…! 奪われたもんを取り戻すんだろうが…!)
火蓋は今、切られたのである。
続く
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