第5話「共同任務」(修正済み)
ヤマトの提案により、2手に分かれて橋の奥にいる鬼を挟み撃ちにするため、ヤマトとハナビは新淀川大橋の東にある線路を走って淀川を渡る。車は橋から動かせないため走るしかなかったのだ。
時間がなく厳しい状況だったが、ヤマトは少し嬉しそうだった。
文字通り自分の憧れの人の背中を追っているのが本当に嬉しかったのだ。
追いつけそうで追いつけない、その後ろ姿はとても大きくて、力強かった。
「ヤマト!時間がない!スピード上げるぞ!」
「ああ!」
正直、これ以上スピードを上げると息切れを起こしそうな気がしたが、アドレナリンのせいか不思議と気分がよかった。
まるでこの世界に祝福されているような、そんな気さえした。
任務であることを忘れそうになったその時、線路の向こうに数匹の鬼を発見する。先ほどよりは規模が小さかったが、その鬼もまた、集団で動いていて「規律」のようなものを感じた。
「ヤマト!このまま突っ切るぞ!」
「任せろ!」
ただひたすらに時間がなかった2人は作戦もなしに突っ込んでいく。彼らにあるのは、「絶対的な自信」だけだった。
ハナビが空高く飛び上がり刀を振り下ろす。覇気をまとったその姿は、鬼にも勝る獅子のようだった。
普段の姿からは到底想像できないその太刀筋に圧倒されながらも、ヤマトも道を切り開く。
(憧れんな… 喰らいつけ…!!)
ハナビとヤマトが鬼を皆殺しにするのにはさほど時間はかからなかった。
二人はミキオとイバラと合流するため、淀川採水場で待機する。
一方そのころ淀川大橋では…
(どどどどうしよう…!!ギン様と二人きりになっちゃった…!!これって運命なのかな…?)
レモンが偶然起きたこの状況に激しく動揺し目をぐるぐると回していた。なのはのことは完全に意識していなかったレモンだが、ギンとなのはの会話で現実に引き戻される。
「なのは、今のうちに今回の鬼の報告書を書いておいてくれないか?」
ディスプレイつきのヘルメットをかぶったギンが、橋に止めてある軍用車に隠れながら、カメラ付きのライフルだけをのぞかせて鬼を監視しながらそう言った。
「わかった。けどギン君、そのままで大丈夫なの…?何か手伝えることとかってないのかな…?」
一人で鬼の監視をするギンを見て、なのはが心配そうに声をかける。
「今のところはないな… ありがとう」
そんな二人の会話を聞いて、レモンは激しく嫉妬の炎を燃やした。
(はぁ!?何なのあの女!ギン様に馴れ馴れしく話しかけちゃって…!ホントありえない…!一体何の関係があるってのよ!!たまたま同じ班ってだけじゃない…!ああもう!羨ましい!!)
その後もヘルメットのディスプレイに映る映像を見ていたギンだったが、挟み撃ち作戦を実行してからずっと様子がおかしいレモンを心配して、なのはに面倒を見るよう伝えた。
(そういえば、あいつはさっきからずっと一人で何をやっているんだ…?)
「なのは ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「さっきからずっとあの女の様子がおかしい… 報告書を書く片手間にあいつの面倒を見ておいてくれないか…?」
ギンが少しあきれた顔でなのはに呟く。
「わかった… とりあえず体温と脈だけ測っておくね」
そんな二人のやり取りを聞いてしまったレモンはふと我に返る。
(あっ… やば… 私、さっきからずっと何もしてない… 無能な奴って思われちゃったかな… 『あの女』… ギン様にとって私はその程度の人間なのかな… てゆうか私、さっきからずっと一人で何やってんだろ… ここには任務できただけなのに、仕事もせずに一人で盛り上がっちゃってさ… ギン様ギン様って私、バカみたい… ギン様だってただの一兵卒だし…! ちょっと見た目がタイプだっただけだし… 様呼びなんてもうやめて、もっと優しいイケメンに乗り換えちゃえ…!私は前に進むんだ!!)
ギンの「あの女」という発言が偶然にも聞こえてしまったレモンはショックを受け現実と向き合い、自分の仕事に集中しようとするが、それでもやっぱりギンの魅力に引き寄せられてしまった。
集中してヘルメットに搭載されたディスプレイを眺めるギンの姿を見て、レモンは好きな気持ちを捨てきることができなかったのだ。
(だめだ…!!やっぱりできないよ…!!!なんだかんだでギン様が一番かっこいいんだもん…!!イケメンすぎるよ…!!好きにならないなんて無理だよ…)
(それに、名前を知らなかったらそう言うしかないよね…?ギン様だって悪気があっていったわけじゃないし… がんばれ私!ギン様に自己紹介するんだ!そしてギン様の傍で働くんだ…!!)
そう決意したレモンがギンに詰め寄る。
「あっ… あの!ギン様初めまして… 私…!恋路レモンって言います…!」
レモンの頬は赤く、声は緊張で震えていた。
「ギン…様…?」
なぜかギンを様呼びしているレモンになのはが首をかしげる。
(あああああああああ!!間違えた!!いつもギン様って呼んでるから!!!!ホントに何やってるの私!!! 最悪だ…! 絶対きもい奴って思われた…! 終わった…)
最悪の言い間違いをしてしまったレモンの目が混乱と羞恥で潤う。
しかし、ギンの反応は意外だった。
「そうか、すまなかった
なぜか自身の様呼びには言及せず、『あの女』と言う発言を撤回して、初対面のレモンを名前で呼んだのだ。
それを聞いたレモンは完全に惚れ込んで舞い上がっていた。
(ギン様…!!! やばい語彙力が… 今私のこと名前で呼んだよね…!?しかも私の様呼び全然気にしてなかったし…!!!これってギン様って呼んでもいいってことだよね…!?やばいどうしよう… ギン様かっこよすぎるよ…!)
「はい… ギン様…」
恍惚とした表情でそう言ったレモンを見たギンは若干引き気味だった。
(やっぱりこいつ、どこかおかしいんじゃないか…?)
場面はミキオとイバラ視点に移り変わる。
彼らも新淀川大橋の向こう側にいる鬼を後ろから奇襲するために西から回り込もうとしたのだが、ヤマトたちと比べて橋が少し遠いところにあった。
「ねぇ… 質問なんだけどさ… 橋… 遠くない…!?」
「すまない… 俺も焦っていてそこまで気が付かなかった…」
「いや気づけよ!班長だろ!下司官だろ! さすがにしんどいんですけど…!」
「本当にすまない… 後でヤマトにキレていいぞ」
「ハァ… ハァ… ほんとストレス溜まるわアイツ…」
「ヘクシュン…!」
「なんだヤマト、風邪か…?」
「いや、なんか急に寒気が…」
二人を待つヤマトが肩を震わせてそう言った。
汗だくになりながらも、なんとかヤマト達と合流したミキオとイバラ。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「おぉ…! お前ら!ずいぶんと遅かったじゃねぇか!」
ヤマトが能天気にそう言った。
「悪いヤマト… 少しだけ… 休憩させてくれ…」
ミキオもイバラも息を切らして地面に座り込む。
そんな彼らのことは露知らず、無神経なヤマトが声をかける。
「…何でそんな汗かいてんだ?」
なぜか引き気味のヤマト
無責任に突っ走って死にかけた挙句、ヤマトがとっさに思い付いた穴だらけの作戦に振り回されたイバラはついに堪忍袋の緒が切れる。
「ハァ…ハァ… うるせぇんだよゴミムシが…!!」
「え?」
豹変したイバラを見て混乱するヤマト。
「大体!テメェの!無責任な作戦がいけねぇんだろうがァァァ!!!」
さっきまで息を切らしていたとは思えないほどの剣幕で鬼の群れに単身で突撃し、鬼に八つ当たりするイバラ。
毒付きの鎖鎌で鬼を切り刻む。緩急のついた鎌の動きはまるで地を這う毒蛇のようだ。
変わり果てたイバラの姿を見て唖然とする2人に、ミキオが忠告する。
「ハァ… ハァ… 言いたいことはいろいろあるが… とにかく… あいつを怒らせるのだけはやめておけ…」
「あ、ああ…」
すこし動揺しながらもイバラに加勢する3人。
ギンの援護射撃もあり、なんとか制圧を完了した一同だった。
いつの間にか雲の隙間から日光が差し込んでいる。
「おかえり!みんなお疲れ様!ケガとかしてない? 見た感じは問題なさそうだけど… 何かあったらすぐに言ってね!」
「いや… どう見ても問題大アリでしょ…」
レモンがなのはにツッコむ。
「お前が突っ走るからいけねぇんだろうが!!」
「…悪かったって!」
いまだにキレ続けるイバラにヤマトが謝るが、火に油を注ぐだけだった。
そんなイバラにレモンが声をかける
「まあまあ… 何はともあれ、鬼を討伐できてよかったじゃない!」
「よくねぇよ!!大体!コイツが…」
つららにも容赦しないイバラ
「ひ、ひどい… そんなに強く言わなくても…」
ギンにアピールするために嘘泣きをするレモンにヤマトがツッコむ。
「いや… なんでお前が泣くんだよ…」
それを見たイバラが冷静にヤマトに罪を擦り付ける。
「うわー… つらら泣いちゃったよ… 君最低だね」
「うるせぇ! 俺は悪くないだろ! てゆうか何で急に落ち着くんだよ!」
「大体こいt」
偶然そこだけ見ていたなのはが、つららを擁護する。
「駄目だよヤマト君!女の子を泣かせちゃ!」
「ごめん…」
ヤマトはなのはの言うことには素直だった。
「グスン… いいのよ…わたしのほうこそ取り乱してごめんなさいね…」
つららもヤマトに謝るが心の中で完全に引いていた。
(何こいつ… 切り替え早すぎて怖いんですけど…)
「ハァ…」
無事任務が完了したことに、ミキオが深いため息をつく。
「終わった… な」
ハナビも少し表情が優しくなる。
任務が終わり、個性的な仲間がぶつかり合うその光景を見たギンが空を見上げて心の中で呟いた。
(やかましくなりそうだな…)
その後、ヤマトたちは一度仮設基地に戻り本部に新大阪の鬼について報告をすることに。
その日の夜、軍隊のような統率力を持つ鬼が守護警察の間であっという間に話題になる。
そんな中、ヤマトは持ち前の明るさでキャンプに蔓延る薄暗い空気に希望の炎を灯す。
「そうだ!俺たちで世界中の鬼を全部殺そう!そうしたらきっと、今よりずっと快適に過ごせるさ!」
「バカなの?君。殺せるわけないじゃん。数匹でもあんなに手こずってたのに、てか世界中って… 外国との連絡もつかないのに、よくそんなバカ丸出しの発言できるなー…」
「そんなのやってみないとわからないだろ!俺はまだ若いんだ!俺の人生くらい、望んで賭けてやるよ!」
「…やっぱバカでしょ君」
一見すると根拠のない自信のように思えるヤマトの発言の裏には、ゆきに言われた言葉が隠れていた。
「私にはわかるの… 君は特別よ ハナビ以上にね…」
「それは恐ろしいほどに強力で、特異な能力…!君には、世界を変える力があるのよ!」
その日の就寝前、ヤマトはふとゆきに言われた言葉を思い出す。
「そういや、あの時はハナビの秘密のことで頭がいっぱいだったけど、あいつは何でハナビの秘密のことしってたんだ…? それに、俺はすごい特別だって… 一体何を根拠に…」
「砂浜ゆき… あいつは一体… 何者だ…?」
6話に続く
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