第5話「共同任務」

ヤマトとハナビは新淀川橋の東にある線路を走って淀川を渡る。車は橋から動かせないため、走るしかなかったのだ。

時間がなく、厳しい状況だったがヤマトは少し嬉しそうだった。

文字通り、自分の憧れの人の背中を追っているのが本当に嬉しかったのだ。

追いつけそうで追いつけない、その後ろ姿はとても大きくて、力強かった。

「ヤマト!時間がない!スピード上げるぞ!」

「ああ!」

正直、これ以上走ると息切れを起こしそうな気がしたが、アドレナリンのせいか不思議と気分がよかった。

まるでこの世界に祝福されているような、そんな気さえした。

任務であることを忘れそうになったその時、線路の向こうに数匹の鬼を発見する。先ほどよりは規模が小さかったが、彼らも陣形を組んでいて「軍隊」のような覇気があった。

「ヤマト!このまま突っ切るぞ!」

「任せろ!」

ただひたすらに時間がなかった2人は作戦もなしに突っ込んでいく。彼らにあるのは、「絶対的な自信」だけだった。

ハナビが空高く飛び上がり刀を振り下ろす。覇気をまとったその姿は、鬼にも勝る獅子のようだった。

普段の姿からは到底想像できないその太刀筋に圧倒されながらも、ヤマトも道を切り開く。

(…! いや…!「前」だけ見ろ!)

ハナビとヤマトが鬼を皆殺しにするのにはさほど時間はかからなかった。

場面はミキオとイバラに移り変わる。

彼らも新淀川橋の向こう側にいる鬼を後ろから奇襲するために西から回り込もうとしたのだが、ヤマトたちと比べて橋が少し遠いところにあった。

「ねぇ… 質問なんだけどさ… 橋… 遠くない…!?」

「すまない… 俺も焦っていてそこまで気が付かなかった…」

「いや気づけよ!隊長だろ!上司だろ! さすがにしんどいんですけど…!」

「本当にすまない… 後でヤマトにキレていいぞ」

「ハァ… ハァ… ほんとストレス溜まるわアイツ…」

汗だくになりながらも、なんとかヤマト達と合流したミキオとイバラ。

そんな彼らのことは露知らず、無神経なヤマトが声をかける。

「おぉ…! お前ら! …何でそんな汗かいてんだ? もしかして、てこずったのか…?」

なぜか引き気味のヤマト

無責任に突っ走って死にかけた挙句、ヤマトがとっさに思い付いた穴だらけの作戦に振り回されたイバラはついに、堪忍袋の緒が切れる。

「うるせぇんだよゴミムシが!!大体!テメェの!無責任な作戦がいけねぇんだろうがァァァ!!!」

さっきまで息を切らしていたとは思えないほどの剣幕で鬼の群れに単身で突撃し、鬼に八つ当たりするイバラ。

毒付きの双剣で鬼を切り刻む。滑らかな太刀筋はまるで地を這う毒蛇のようだ。

変わり果てたイバラの姿を見て唖然とする2人に、ミキオが忠告する。

「詳しいことは後で話すが… とにかく… あいつを怒らせるのだけはやめておけ…」

「あ、ああ…」

すこし動揺しながらもイバラに加勢する3人。ゆきとギンの援護射撃もあって、なんとか制圧を完了した一同。

「おかえり!みんなお疲れ様!ケガとかしてない? 見た感じは問題なさそうだけど… 何かあったらすぐに言ってね!」

「いや… どう見ても問題大アリでしょ…」

なのはにゆきがツッコむ。

「お前が突っ走るからいけねぇんだろうが!!」

「…悪かったって!」

いまだにキレ続けるイバラにヤマトが謝るが、火に油を注ぐだけだった。

そんなイバラにつららが声をかける

「まあまあ… 何はともあれ、鬼を討伐できてよかったじゃない!」

「よくねぇよ!!大体!コイツが…」

つららにも容赦しないイバラ

「ひどい… そんなに強く言わなくても…」

どう見ても演技の下手な嘘泣きにヤマトがツッコむ。

「いや… なんでお前が泣くんだよ…」

それを見たイバラが冷静にヤマトに罪を擦り付ける。

「うわー… つらら泣いちゃったよ… 君最低だね」

「うるせぇ! 俺は悪くないだろ! てゆうか何で急に落ち着くんだよ!」

「大体こいt」

偶然そこだけ見ていたなのはが、つららを擁護する。

「駄目だよヤマト君!女の子を泣かせちゃ!」

「ごめん…」

ヤマトはなのはに弱かった。

「いいのよ…わたしのほうこそ取り乱してごめんなさいね…」

つららもヤマトに謝るが、完全に引いていた。

(何こいつ… 切り替え早すぎて怖いんですけど…)


その後、ヤマトたちは一度仮設基地に戻り、本部に新大阪の鬼について連絡をすることに。

その日の夜、軍隊のような統率力を持つ鬼が守護警察の間であっという間に話題になる。

そんな中、ヤマトは持ち前の明るさでキャンプに蔓延る薄暗い空気に希望の炎を灯す。

「そうだ!俺たちで世界中の鬼を全部殺そう!そうしたらきっと、今よりずっと快適に過ごせるさ!」

「バカなの?君。殺せるわけないじゃん。数匹でもあんなに手こずってたのに、てか世界中って… 外国との連絡もつかないのに、よくそんなバカ丸出しの発言できるなー…」

「そんなのやってみないとわからないだろ!俺はまだ若いんだ!俺の人生くらい、望んで賭けてやるよ!」

「…やっぱバカでしょ君」


一見すると根拠のない自信のように思えるヤマトの発言の裏には、ゆきに言われた言葉が隠れていた。

「私にはわかるの… 君は特別よ ハナビ以上にね…」

「それは恐ろしいほどに強力で、特異な能力…!君には、世界を変える力があるのよ!」

その日の就寝前、ヤマトはふとゆきに言われた言葉を思い出す。

「!」

「なんで忘れてたんだ…!あんなに大事なこと…!あいつは何でハナビの秘密のことしってんだよ…! それに、俺の夢のことも… 」

「砂浜ゆき… あいつは一体… 何者だ…?」



6話に続く

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