第4話「君は何も知らない」(修正済み)

梅田奪還作戦から数週間後…

梅田周辺を完全に奪還した守護警察の次の目標は新大阪駅の奪還だった。

そのためにヤマト達はハナビ班と合同で新大阪駅周辺の調査に向かう。新大阪は完全に未知の世界で何が起きているのか全く分からない。

沈むような曇天はまるでヤマトの心のようだ。

ガレージで調査に赴く準備をしていたヤマトは数週間前のキャンプでゆきに言われた言葉を思い出す。


「鬼丸ハナビは何かを隠している」

「14年前、この世界で『何か』が起きた… そして彼は、この世界の真実に限りなく近づいている…!」

「それは、この世界の常識を覆しかねない世界の秘密!いいえ、世界を変える『宇宙の秘密』よ!!──君も、本当は気づいているんじゃない?」


(まさか… ハナビが何を隠してるって言うんだよ…)

(あいつ嘘つくの下手だし… ずっと任務で忙しいし…! なにより、あいつがそんなことするはずがねぇ…! 世界の秘密ってなんだよそれ…! そんな大事なこと隠す意味がわからねぇ…!! 謎を解明して人類を護るのが守護警察の役目だろ…!?)

(でも… あの記憶は一体… ハナビは一体、何者なんだ…?)

(クソッ…!迷っていても仕方ねぇ!直接聞いてみるしかねぇか…!)


居てもたってもいられなくなったヤマトはハナビの元へ向かう。

「悪ィみんな… ちょっと用事があるからそこでまっててくれ… すぐに戻るから…」

「なんだアイツ トイレか…?」

「そんなわけないだろ」

鈍感なミキオにギンが冷静にツッコむ。

(ヤマト君大丈夫かな… 顔色悪かったし… 何か悩み事でもあるのかな…)

なのはは何かヤマトに異変があることを察知したが、それを口に出すことはなかった。


ハナビに対する不信感を払しょくするために直接話を聞いてみることにしたヤマトはハナビ班のガレージへ。

(そういやハナビに会うのも梅田以来か… 無事に退院したとは聞いてるけど… 元気にしてんのかな…?)

そんなことを思いながら、ヤマトはハナビ班が使っているガレージに入っていった。

「あの… すみません… ミキオ班所属の藤原ヤマトって言うんですけど… ハナビ隊長って今どこに居ますか…?」

今まで一度も入ったことのない他の班のガレージに緊張したヤマトは、かしこまった様子でガレージに居る整備士に質問する。

「ハナビ隊長?ああ、あの人なら今上にいるよ ほら、そこの階段を上った先」

「あ、ありがとうございます…」

そう言って階段を指さす整備士に感謝の言葉を伝え、ヤマトはハナビのいる部屋へと向かった。


階段を上る途中、ヤマトは自分たちのガレージと違いここのガレージが散開していることに気が付く。

(そう言えばここって俺たちのとこと違ってやけに散らかってんな… しかも薄暗いし… あんま掃除とかしないのかな…?)


(ここであってるよな…? やべぇ… なんか緊張してきた…)

「し、失礼します!」

ノックをしてからそう言ってドアを開けるとそこにはハナビとハナビの部下が数人いた。


「ヤマト!一体どうしたんだ?こんなところまで! もしかして俺に合えなくて寂しかったのか?完治祝いに何かおごってくれてもいいんだぜ?」

開口一番ハナビが冗談交じりにそう言うと、間髪入れずにハナビの部下がツッコんだ。

「班長、開口一番にそれはキモイよ」

「何だとイバラ?上官にそんなこと言っていいのか?」

ハナビが少しムッとしてそういうが、イバラが即座に反論した。

「いや、ラフに接してくれって言ったのアンタでしょ 覚えてないの?」

「…」

イバラの毒舌と正論にぐうの音も出ずに落ち込むハナビ。


そんな二人のやり取りにヤマトがあっけにとられていると、金髪で髪を巻いている女の隊員がヤマトに話しかける。

「アンタ、ヤマトって言ったわよね…?」

「ああ、俺がヤマトだけど…」

ハナビと話をするだけのつもりだったヤマトは、全く知らない環境と言うのもあって完全にペースを崩されていた。

(何なんだコイツ等… 次から次へと…)

控えめにそう言ったヤマトに、女の隊員が予想外のことを伝える。

「私は恋路レモン! ギン様に振り向いてもらうために守護警察に入隊したの。だからね… ギン様と同じ班のあなたにお願いがあるの…」

頬を赤らめてそういうレモンを見て、ヤマトは混乱していた。

「お、お願い…?」

(何なんだコイツ… 頭おかしいだろ…!!てゆうかギンって『様』付けされてたのかよ!!! なんかかやだわ!!!)

引き気味のヤマトをガン無視してレモンは続けてこう言った。

 「ギン様が私のことを好きになってくれるために、私のことを紹介して欲しいの… かわいくって護りたくなるような子がいるからお前にピッタリだって…」

「お、おう…」

それを聞いたヤマトは口にこそ出さなかったが、心の中でドン引きしてツッコんだ。

(自分で言うか?普通…)

その時だった。

「それ自分で言う?普通?」


イバラが何の遠慮もなくそう言った。

それを聞いたヤマトもレモンと一緒になぜか声を出してしまう。

「『え』」

「いや、そういうのあんまり自分で言わないでしょ普通。引くわ…」

「だいたい…」

(おいおいコイツマジか…!?正直すぎんだろ!?)

止まらないイバラの愚痴を聞いたヤマトは冷や汗をかくが、レモンは意外にも冷静に反論した。

「うるさいわね… 私はギン様に愛されればそれでいいのよ… あんたは黙ってなさい!」

「はいはい」

イバラがつまらなそうにそう言った。


「ハァ…」

ヤマトは深いため息をする。

「ちょっと、何でアンタがため息ついてんのよ」

「いや、ちょっといろいろあり過ぎて…」

ただでさえなれない空間だというのに、初対面でいきなり口論に巻き込まれたヤマトは大きなため息をついた。

「そういえばヤマト、お前結局俺に何の用だったんだ?」

一連の流れが落ち着いた頃合いを見計らって、ハナビがヤマトに声をかける。

「いや、実は… ちょっと聞きたいことがあってさ… ちょっと外せるか?」

「なんだよ急に」

「いいから…」

そう言って二人は部屋を出てすぐの廊下へと向かっていった。

「何の用なんだろ…」

「さあ、どうせ大したことないでしょ」



「なあ、ハナビ…」

「どうしたんだ?浮かない顔して」

「あのさ…」

言葉に詰まるヤマト。しかし、勇気を出して踏み込んだ質問をする。

「俺になんか、隠してることってないか?」

ハナビは笑いながら問い返す。

「隠してること?例えばどんなだ?」

「それは…」

少しの沈黙の後、ヤマトは覚悟を決めて、ハナビに質問する。

「例えば… 世界の秘密とか…」

「!」

ほんの少しだが、ハナビの表情が変わった。

「ごめん… 変だよな俺…」

自分でも何を聞いているのかがわからなくなったヤマトが謝罪すると、ハナビは意外な言葉を返す。

「なぁヤマト、お前って『』を信じるか?」

「なんだよ急に」

「信じるのか?」

ハナビはやけに真剣だ。

「…信じるわけねーだろそんな非科学的なもん… てゆうか急にどうしたんだ?」

しかし、ヤマトが軽く一蹴するとハナビはすぐに切り替わった。

「いや、なんでもない… 忘れてくれ…」

しかし、その態度に何か不信感を感じたヤマトは思い切って具体的なことを聞いてみることにする。

「…14年前のことか?」

「!」

ハナビが明らかに動揺する。

「何か… 知っているのか?」

「ああ ゆきってやつから聞いた」

「ハナビが何か隠してるって。なあ、教えてくれハナビ…! お前は一体、何を知っているんだ…!」

ヤマトは徐々にヒートアップしていき、空気がどんどん張り詰めていく。

しかし、そんなヤマトを前に表情を曇らせるハナビであったが、答えは意外なものだった。







「言えない。」

思っていた答えと違ったヤマトは、感情が抑えられなくなる。

「なんで…! 俺たち仲間だろ!」

しかし、ハナビは冷静に答える。

「仲間だから…!言えないんだ…!」

ハナビの表情も険しくなる。それは、何かを抱え込んでいる者の表情だった。

「少なくとも…! 今はまだ…!」

ハナビの顔から尋常じゃない覚悟を感じ取ったヤマトは、自分の気持ちを殺してハナビの言葉を信じる。

「クソッ…!!! わかったよ…! でも… いつか、いつか絶対俺に聞かせてくれよ… 世界の秘密ってやつを…」

「ああ… 約束するよ…」

そう言ってハナビは部屋へと戻っていった。

ミキオたちの元へ帰る途中、様々な思いが胸をよぎったヤマトだったが、恩師であるハナビの言葉を信じることにした。

(クソッ… 何でまだちょっとモヤモヤしてんだよ…!ハナビを信じろよ!!あいつはいつか俺に教えてくれるって言ってたじゃねぇか…!!それに… 何かものすごい大事な秘密があるから言えないんだろ…?仲間を信じろ俺!!)


暗い面持ちで帰ってきたヤマトにミキオが声をかける。

「おお!やけに長かったな… 何してたんだ?」

「別に大したことねーよ… ちょっと野暮用で…」

ヤマトがだるそうに答える。

「ウンコか?」

「違ぇよ!!」


デリカシーのないミキオの無粋な質問のせいで、悩むことすら馬鹿らしくなったヤマトはいつもの調子を取り戻した。


それから数十分後…

場面は淀川に跨る橋「新淀川大橋」へ移り変わる

梅田同様、道路にはヒビが、完全に錆びきったガードレールには植物が絡みつくように生い茂っていた。しかし、梅田のビル群とは違い橋には身を任せることのできる安心感があった。

改めて職人のすごさを感じたミキオたちであったが、橋の奥には鬼の検問があった。

今までと違い、鬼の軍勢に「規律」のようなものを感じたミキオ班に緊張が走る。

「鬼か…」

「強行突破するか?」

「駄目だ… 突破できない…!何かに掴まれ!!」

ギンが軍用車を運転しているミキオに提案するが、ミキオが急ブレーキをかけて却下する。

キキィィィィ!!

耳障りな音が静かな世界に鳴り響く。

「うぉっ!!」

後方座席に座っていたヤマトとなのはが前に倒れて椅子に頭をぶつける。

「ててて… 何だぁ…!?」

シートベルトを着けていなかったヤマトが頭を押さえてあたりを見渡す。

「鬼だ!!」

「んだよそんなの轢き殺せばいいだろ!」

自業自得だが、頭を強く打ったヤマトはキレ気味にそう言った。

「ダメだ… あいつら、今までの鬼とはどこか違う…! まるで… 『軍隊』だ…」

ミキオは少し戦慄したような雰囲気でそう言った。

それでもヤマトは強気だった。

「軍隊って… さすがにねぇだろ。 梅田の時を思い出せって あいつら、奇襲とかはしてきたけど基本的に動きは粗暴だったじゃねぇか。力に任せた乱暴な動きでさ。」

「それにだいぶ距離がある。こっちにはギンがいるから敵も距離を詰めてこれないし、何より俺とハナビがいるんだ。よっぽどの鬼じゃない限り俺たちは負けねぇぞ」

ヤマトは慢心しているわけではない。冷静にこちらに分があると判断したのだ。


間一髪のところブレーキを踏んで衝突を避けたハナビ班の一員たちがぞろぞろと車から降りてくる。

「ちょっと、危ないんだけど…! 何で急停止するのかな…? バカなの?」

「バカはあんたでしょ…」

ガムを噛んでいたせいでおもいっきり舌をかんだイバラが降車していきなり理不尽にキレ散らかすが、レモンに諭される。

「お前ら!何があった?」

運転席から降りてきたハナビがミキオ班に話しかけるが、ミキオの答えを聞く前にハナビは察した。

「あぁー… こりゃ面倒だな…」

「マジかよハナビ! あんな奴ら大したことないって! 陣形みたいなの組んでるからそれっぽく見えるだけだって!」

ヤマトはハナビが想像と違う反応をしたことにすこし戸惑ってムキになる。

それでも、ハナビは冷静に分析した。

「いや… 今回はマジでまずいぞ…」

その結果、逆にヤマトの闘争心に火が付き無謀にも一人で突っ走ってしまった。

「なに怖気づいてんだよハナビまで…! もういい!」

「俺が証明してやるよ!」

その時、信じられない光景が


ズドン!!


「危ない!」

ハナビがヤマトの服を引っ張って尻もちをつかせる。

「ハァ… ハァ…」

ヤマトはハナビがいなかったら死んでいた。

「ごめn…」

自分の軽率な行動をハナビに謝ろうとしたヤマトだったが、間髪入れず次の弾丸が来る。

とっさに大盾でヤマトの前に立ちふさがり、鬼の弾丸を防いだミキオはなのはに煙幕の指示を出す。

「なのは!」

「了解!」

煙幕の中で体制を整えるミキオとハナビたち。

「あいつら銃なんて使えんのかよ…! 聞いてねぇぞ…!」ミキオが珍しく感情的になるがハナビが冷静になるよう促す。

「落ち着け!とにかく車の裏に隠れるぞ!」

軍用車を盾にして作戦を考えるが、橋を渡るのはあまり現実的ではない。

そこで意外にもヤマトが作戦を提案する。

「あのさ… ちょっと思いついたんだけどさ、ギンたちがここで時間を稼いでいる間に、俺たちが二手に分かれて裏から回るってのはどうだ?」

ヤマトのとっさの機転に感心する一同。

「悪くないな…」

ギンのその言葉を聞いて少し誇らしそうにするヤマト。

「俺とハナビ、ミキオ班長とイバラで2手に分かれて後ろから挟み撃ちにしてやるんだ」

「えぇ… 何でボクが…」

「アンタ男でしょ!シャキっとしなさいよ!」

レモンがイバラの耳を引っ張って渇を入れる。

「痛い痛い…!わかったよしょうがないな!!」

嫌々ながらも何とか作戦に合意したイバラであった。


「二人とも、もちろんいけるよな?」

念のため、ヤマトは二人の班長に確認した。

「俺は問題ない」

ミキオが盾を構えなおしてそう呟いた。


「俺もだ」

「ところでヤマト… お前にしてはいい案だが、何かあったのか?」

ハナビが素直に感心するが皮肉にしか聞こえない。

「うるせぇ!」

「行くぞ!作戦開始だ!」


5話に続く

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