第2話「こんな世界の片隅で」(修正済み)


 激闘の末、大阪駅及び梅田周辺の奪還に成功したヤマトたち守護警察は重症者を除いて、その日の夜を淀川の近くにある野営地で過ごすことに。テントの設営や薪割り、食材の調達などをして夜に備える。




「お前ら!サボってないでちゃんと働けよ?」

梅田奪還作戦で一緒に戦った他の班員たちと仲良くさぼっていたヤマトたちにミキオが渇を入れる。

「はいはい…」

(ふざけんな!! 数時間前まで病院で寝てたんだぞ俺は!? みんなアンタみたいな体力あると思うなよチクショー!)

不貞腐れながらも立ち上がるヤマトに、ギンが声をかける。

「ヤマト。火を起こしたいが薪が足りない。よければ薪割りをやってくれないか?」

「…やだよメンドくさい」

「…斧の使い方はわかるな?」

「…」


ほぼ強制的にだが、なんとか薪割を終えたヤマト。さすがに疲れたのか地面に腰を下ろす。髪は汗で濡れていて風呂上がりのようだ。

「ハァ… ハァ… 薪割りってこんなに疲れんのか…」

「お疲れ」

全く労っているようには聞こえなかったが、ギンが冷えた水をヤマトに渡す。

「…ありがとう」

(…ったく! ちょっとくらいはありがたそうな顔しろよな…!マジで死ぬほど疲れたわ…)

「…お前は何してたんだよ」

ヤマトは少し反抗的な態度でギンに聞く。

「俺は狩りをしていた。巨大なクマが現れたんだ。少し手こずったが、仕留めたから今夜は宴だぞ」

「…マジか!!!」

(クソッ…! ギンのやつ、めちゃめちゃかっこいいじゃねーか…!!)

自分と同じかそれ以上に疲れているはずなのに、顔色一つ変えず淡々としているギンにヤマトは素直に憧れた。

「ギン君!ヤマト君!」

どこかから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「なのはちゃん!」

「なのはか」

衛生兵のなのはは、夕食の調理係だ。

「ギン君!その熊ギン君が狩ったの?」

「ああ」

「すごい…!今夜は御馳走だね!」

「そうだな」

ギンとなのはが楽しそうに話していて少し不満げなヤマト。

「ヤマト君もありがとう!薪割り大変だったでしょ」

「いやいや、こんなの大したことねーよ…」

なのはの労いの言葉に、顔が緩むヤマト。

「そうか、じゃあこんどは水の調達を頼めるか?」

ヤマトは全力で応える。

「死ね!」




その後、あたりが夕日で赤くなり、ヒグラシの鳴く声が聞こえる頃に、ある1人の女の隊員がヤマトに話しかける。

「君、ちょっといい?」

「ん?どうしたんだ?」

「君って、ハナビ班長と知り合いなの?」

ハナビと面識があると思われる隊員がヤマトに話しかける。

「ああ、一応そうだけど…」

なぜ「一応」と前置きしたのかはヤマトにもわからない。

「おぉ…!」

ヤマトが、なぜ彼女が感心しているのか理解できないでいると

「あ… ごめんごめん 自己紹介が遅れたね 私はハナビ班所属の砂浜ゆき! 班長が病院で君のことを気にかけてたから声かけちゃった… よろしくね!」

ゆきが名乗りを上げる。

「あぁ… 俺はヤマト よろしく」

ゆきの満面の笑みに少し戸惑うヤマトだったが、ゆきは構わず質問攻めする。

「ハナビ班長って昔はどんな人だったの?」

「どんなって… 別に今と変わんねーよ」

「そうなの?」

「ああ」

ヤマトは少しした後、付け加えて説明する。

「──責任感強くて、かっこつけで、お人好しで… そのくせ全部1人で抱え込もうとして… いつも気が付くとボロボロなんだ…」

「…」

ゆきはやけに集中して聞いている。

「はは。班長のお人好しは昔からなんだね」

「ああ、アイツは昔っからホントお人好しで…」

「…あ」

ヤマトが何かを思い出すが、口に出すのをやめた。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない… 忘れてくれ」

しかし、ゆきはそれを見逃さなかった。




「当てようか?」

ゆきの瞳から光が消える。

「…え?」

「当てるって… 何を」

ヤマトはゆきの雰囲気に動揺する。あたりは一層赤くなり、木々がざわめきだす。

「君が思ってること」

ゆきは何かを見透かしているような笑みを浮かべる。

「な… 何も隠してなんk」

ゆきがヤマトの発言にかぶせてこう言う。

「鬼丸ハナビは何かを隠している」

ヤマトは激しく動揺する。

「お前… いきなり何言ってんだよ… さすがに意味わかんないって…」

ヤマトは完全にペースを崩されていたが、ゆきは構わず続ける。

「14年前、この世界で『何か』が起きた… そして彼は、この世界の真実に限りなく近づいている…!!」

ゆきの言葉が文字通りヤマトの脳を揺らす。景色がゆがんで見える。ヤマトは意識を失いかけていた。

「それは、この世界の常識を覆しかねない世界の秘密!いいえ、世界を変える『宇宙の秘密』よ!!──君も、本当は気づいているんじゃない?」

ゆきの言葉で、ヤマトは完全に意識を失う。




ヤマトは目が覚めると、いや、「覚めない夢」を見ていた。


それは、あまりにも現実とはかけ離れた幻想的な記憶だった。

何処までも続く深い青空と草原。18世紀後半のフランスを彷彿とさせるような煌びやかで荘厳な王宮。そして無秩序で喧騒を感じる古びた刑務所 ヤマトは完全にこの世界の虜になっていた。何も考えず、ただ両手を広げて感じていた。美しいこの世界の風を、音を、温もりを。

驚くほどに美しいこの世界は、夢と言うにはあまりにも細かく、現実と言うにはあまりにも幻想的だった。ヤマトは鳥となり、風となって世界を自由に駆け回った。しかし、どこかで誰かが呼んでいる気がしたその時、世界が移り変わった。


その世界は、近未来的でネオンが眩しい夜の街だった。そこではたくさんの身体改造をしたサイボーグのような者たちが犯罪に手を染めていて、高度な文明とは裏腹に、治安は最悪だった。少しすると、雨が止み、朝日が差し込む。ネオンの光で気が付かなかったが、よく見ると街は傷だらけで、ボロボロだった。金と暴力に支配されたその街の傷を朝日が照らしたとき、この世界からは想像もつかないような光景だが、神に救いを求める者たちがヤマトの目に映った。ただ幽霊のように眺めていたヤマトだったが、また誰かに呼ばれているような気がしたその時、ゆきの声がこだまする。


目を覚ますと元の世界に戻ってきた。

「思い出せたかな?」

目を覚ましたヤマトにゆきが質問する。

「私は何も知らない。君のことも、ハナビのことも…」

「だけどね… ヤマト君。私にはわかるの… 君は特別よ ハナビ以上にね…!」

ゆきは自信をもってそう言った。

「それは恐ろしいほどに強力で、特異な能力…!君には、世界を変える力があるのよ!」

ゆきの言葉は不思議と説得力があった。

初対面なのに、すべてを見透かされている気がしているのに、今は不思議と気分がいい。

そして何かに気が付いたヤマトは自信をもってこう言う。

「ああ…!全部俺に任せとけ! 俺が鬼を全員殺してやる!」




食後、完全に日が暮れて満天の星空が広がる野原に寝転がったヤマトは班の仲間に胸の内を明かす。

「あのさ…」

「ここだけの話… 俺さ、凄ぇ死にたいって思ってたんだよな」

「…」

いつもとは違うヤマトの話し方に、班の全員が緊張する。

「何つーかさ、生きてる意味が分からないってゆうか、何しても満たされないってゆうか」

「鬼に家族も仲間も、土地も心も全部奪われたって思ってた。」

「ただ復讐のためだけに生きていて、毎日が虚しかった。鬼を殺しても、失ったものはもう2度と手に入らないんだって思うと、本当に何のために生きてるのかわからなくなったんだ。」

守護警察ならだれでも、ヤマトの気持ちは痛いほどわかる

「でも、今は違う。お前らに出会えた。護りたいって思える仲間ができた。帰りたいって思える場所ができた」

「こんな世界の片隅でいうのもなんだけどさ…」

「お前ら… 大好きだ!」


ヤマトの意外な告白に、顔を赤らめながらも嬉しそうに答える仲間たち。

雲一つない大きな夜空に、満天の星が輝いている。


「──知ってるさ」

ミキオが誇らしげにみんなの心の声を代弁する。

今日は快晴。澄み切った夜空は彼らの心の様だ。


3話に続く

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