ETERNAL FLAME

ayudrive

第1話「反撃開始」

2006年 東京 (14年前)


鳴り響くサイレン 血まみれのリビングから物語は始まる。

「お前はすでに包囲されている!諦めて大人しく投降しろ!」

閑静な住宅街で発生した立てこもり事件。身代金の要求からしばらくの間膠着状態が続いていたが、事態が大きく動き出す。

「あああ!あの音!頭がおかしくなりそうだ!殺されたくなかったらどうにかしろクソガキ!」

鳴り響くサイレンと警察の呼びかけに耐えきれなくなった立てこもり犯が人質の子供に八つ当たりを始めたのだ。

それを幽霊のように俯瞰して眺めている男が一人。

──ああ、またこの夢だ。吐き気がするほど残酷で胸糞悪い夢。

最近眠気がひどいってのに、どうしてこうも悪夢ばかりなんだ…

どうやらこれは男が見ている夢のようだ。

「ごめんなさい…!何とかするので殺さないでください!」

まだ幼い少年が、必死に男の機嫌を取る。

自分の目の前で両親を殺された少年が、かろうじて正気を保つことができたのは、それでも生きるという強い想いか。或いは理不尽な世界に対する復讐心か。いずれにせよ、少年の瞳は、涙の奥に恐ろしいほどの闘志を宿していた。

「何とか?ガキに何ができるんだよ おちょくってんのか? 大口たたいてるとマジで殺すぞ!!」

「ご…ごめんなさい…!」

理不尽な男に泣きながら謝る幼い子供を見て表情が曇る男。しかし、夢の中では体が思うように動かない。ただその光景を眺めているだけの男だったが、なぜか涙が止まらない。男はまるで死んでいるようだった。しばらくすると空間が歪み、幻想的でどこか見覚えのある男が現れる。

「は?」

「…なんだおm」

立てこもり犯が何が起きたか理解できずにいると、何の迷いもなく男が立てこもり犯を殺す。

そうして、悪夢は幕を閉じた。


場面は荒廃した高速道路へ移り変わる。

4人の軍人が軍用車に乗ってどこかへ向かっていると、大柄な男が眠っている男を起こそうとする。

「…きろ …起きろ …起きろヤマト!」

「…?」

「もうすぐ着くぞ!」

「凄ェーなお前… よく眠れるよな… こんな世界で…」


2020年 大阪 (現在)


14年前、突如として現れた侵略者「鬼」によって東京が陥落するという未曽有の事態が発生した。そこで政府は首都を京都へ遷都して戒厳令を布き、鬼の調査・討伐を目的とした組織「守護警察」を設立した。しかし、その後も鬼の侵略は続き、日本は壊滅的な被害を被った。そして日本は2009年、残された人口を首都京都に集中させて本格的な鬼との戦争の時代に突入した。

彼らは、残された領土を護り、奪われた土地を取り返す人類最後の希望である。


「てゆうか、何でお前泣いてんだよ」

大柄な男が不思議そうに笑う。

「…え?」

どうやらヤマトは、自分が泣いていることに気が付いていなかったようだ。

「なんでだろう…」

しかし、朧気ながら直前に見た悪夢を思い出してこう言う。

「よくわかんねーけど…」

「すごく長い夢を見ていた気がするんだ…」

大柄な男がまたしても不思議そうに笑う。

「はは、なんだそれ」


場面は切り替わって梅田へ

梅田は大阪を代表する巨大な都市だが、鬼が住み着いていて非常に危険だ。

しかし、都市部に残された物資や設備を回収して利用するため、さらには新大阪駅を開放して新幹線を使い、西日本を奪還するための足掛かりにするために、守護警察が2016年から総力を挙げてこの作戦の準備をしてきたのだ。

彼らは、大柄な男「大樹ミキオ」を班長とした「ミキオ班」の一員で、この作戦に参加している。この日、この作戦が、人類の未来を大きく変えるのだ。

梅田は道路が老朽化していてヒビや汚れ、無秩序に生い茂る植物などでいっぱいだった。大阪駅の天井やビル群は所々ガラスが割れていて、

完全に人の住める環境ではないが、鬼は至る所にいた。

「気を引き締めて行けよ」

ミキオが班長として渇を入れる。

「ああ」

ヤマトも目が冴えてきたようだ。ほかの班員、ギンとなのはも表情が強張る。

「…それと」

「…なんだよ『班長』」

ヤマトがわざとらしく班長と呼ぶ。

「絶対、死ぬんじゃねーぞ」

ミキオはいつになく真剣だ。その物言いに少し気まずさを感じたヤマトは不機嫌そうにこう言った。

「…わかってるよ」

軍用車をわき道に止め、ミキオ班は大阪駅の桜橋口を目指す。

梅田周辺の鬼は空挺部隊が先に対処していたので、ほとんど鬼の姿はなかった。

この作戦は、最初に空から奇襲を仕掛けて梅田周辺の鬼を殲滅し、ミキオ班を始めとした陸軍が大阪駅に突入して、ホームで戦闘を行い、空挺部隊がとどめを刺す、というものだ。

他の部隊も大阪駅のホームを目指して別の入り口から突入している。

駆け足で桜橋口を目指したその時、建物の屋上から人間の倍近く巨大な鬼が落下してきた。

一瞬の出来事だったが、鬼の奇襲を何とか回避したミキオ班。

「なのは!煙幕!」「了解!」

ミキオは体勢を立て直すために衛生兵のなのはに指示を出す。

廃車の裏に隠れるなのはと狙撃兵のギン。

「ギン、お前は俺とヤマトのサポートを頼む!なのははほかに鬼がいないかよく注意しろ!」

「了解!」

「了解した」

ギンが無表情でそう言った。ギンはいつも冷静で合理的だ。

そうしている間にもヤマトは鬼と戦っている。

ヤマトはギンと正反対で、感情的な男だ。

幼少期に家族を鬼に殺された怒りと悲しみで守護警察に入隊した、正真正銘復讐の鬼だ。

そのため、合理的でない判断を下すことも少なくないので、ミキオやギンが常に気にかけているが、戦いのセンスは抜群で、鬼に決して怯むことなく戦うその姿勢がほかの隊員に与える勇気は計り知れない。

しかし、今回の作戦ばかりは身勝手な行動は許されない。

ミキオが急いでヤマトに加勢する。鬼の攻撃を大盾で防いで注意を引き、その隙にヤマトとギンが攻撃する。しかし、なかなか鬼はひるまない。鬼が想像以上に強いので長引いたら撤退するようヤマトに指示を出す。

「ヤマト!5分だ!5分経ったら切り上げろ!たとえ殺し損ねたとしてもだ!いいな!」

「うるさい!集中してるんだ!黙ってろ!!」

ヤマトは目の前の鬼を殺すことで頭がいっぱいだ。

しかし、作戦のためには、10時までにホームにたどり着かないといけない。

今は9時45分。中の状況がわからない今、そんなに長く戦っていられる余裕はない。

「クソッ…!不死身かよ!」

焦るヤマトにミキオが声をかける。

「落ち着けヤマト!必ずどこかに弱点があるはずだ!俺が観察するから時間を稼いでくれ!」

「ああ!」

ミキオが戦闘を離脱して少し後ろに下がる。

深呼吸して、敵の動きをよく見るミキオ。鬼の微細な動きまでしっかりと観察している。

ミキオが必死に分析した結果、引かずひるまずの鬼だが、背中だけは一度も攻撃を喰らっていないことが判明した。

「ヤマト!ギン!背中だ!背中を狙え!」

「了解」

「ああ!」

ヤマトの激しい斬撃とギンの狙撃で体幹を崩した鬼の隙を、ヤマトは見逃さない。

背中に一撃入れると、鬼が叫びだす。明らかにペースを崩された鬼が、力のままに拳をふるうと、ギンとヤマトはそれをひらりとかわして、ギンがグレネードを投げる。

爆風で体幹を崩した鬼の背中に、ヤマトが刀を突き刺し、レバーを引くと、刀身から二酸化炭素ガスが放出され、鬼の体を内側から破壊する。

時刻は9時48分。大阪に血の雨が降り注ぐ。

済ました顔で刀に付着した血をふき取り、カートリッジを交換するヤマトに、ミキオが注意する。

「お前の身勝手な行動で仲間が死ぬかもしれなかったんだぞ!

今回はうまくいったが、次もうまくいくという保証はどこにもない!俺たちはチームで行動しているんだ…!お前は一人じゃないってことを忘れるな…!」

「ごめん」

ミキオの言葉に、ヤマトは反論できなかった。

そして、ミキオ班は駅構内へと突入する。

「ここからはなるべく言葉を慎め。待ち伏せされているかもしれないから、常に気配を感じ取れよ」

「了解」

不意打ちを警戒しながらホームを目指す3人。衛生兵のなのはは、負傷者の手当てをするために戦場に残っている兵士のもとへと向かったので、いつもより空気が張り詰めている。

足音が静かな構内に響き渡る。無駄な一言が命取りになることを知っている彼らは、目で会話をする。そのまま何事もなくホームへとたどり着けるかと思われたとき、鬼が奇襲を仕掛けてきた。先ほどの鬼より小さいが、数が多いので厄介だ。

しかし今度は冷静に指示を待つヤマト。

「ヤマト!こいつは俺とギンで対処するから先に行け!」

ミキオの指示は意外なものだったが、迷っている暇はなかった。

「了解!死ぬなよ…『班長』!」

心なしか、ミキオが少しうれしそうに笑う

「へへ… 生意気言いやがって… 行くぞ!ギン!」

「了解」

盾を構えたままミキオが鬼にタックルをして、ギンもアサルトライフルで応戦する。

そして、ヤマトはその隙に階段を駆け上がる。

(ありがとうみんな…!俺たちは仲間だ!あいつらのためにも、俺が鬼共全員ぶっ殺して、奪われたもん全部取り戻すんだ!今日、俺たちは大きく前進する…!なのはちゃん!ミキオ班長!ギン!梅田を取り返したら、一緒にいろんなところに行こう!ボロボロの街だけど、お前らと一緒なら、どんな世界でも楽しめるんだ…!だから…!絶対死ぬなよ!!生きて…!一緒にこの世界を遊び尽くそう!)



ついにホームにたどり着いたヤマト。そこは、まさしく戦場だった。鳴り響く武器の音と、思わず目をつむりたくなるような光景。しかしここで逃げることは許されない。多大なる犠牲の上に成り立つこの作戦は、なんとしてもやり遂げなければならない。

死んでいった仲間たちの分まで、戦わなけれならない。ヤマトは自分を奮い立たせ、一人戦場に突撃する。

「…!クソ…!どこ見ていいかわかんねぇ…! いや、迷うな俺…!『前』だけ見てろ!」

そして、駅のホームにはヤマトに剣を教えた師匠のような存在である「鬼丸ハナビ」率いる「ハナビ班」や、名前は知らないが同じ守護警察の仲間が数人いた。

(ハナビ…!そっか… あいつもここに…!)

「ますます退けなくなってきたなあ!!!ダセェとこ見せられっかよ!!」

恩師であるハナビの姿を見たヤマトは、さらに奮い立った。

圧倒的に鬼の方が多いが、ミキオ班やほかの班も合流し、ヤマトたちは物おじせずに戦った。

「まずい…!やられる…!」

窮地に追い込まれたヤマト。その時、聞き覚えのある銃声が聞こえてきた。

「ヤマト!大丈夫か!」

「隊長!それにギン!」

「危ない。集中しろ、ヤマト」

ギンが再会を喜ぶヤマトの後ろにいる鬼に発砲してそう言った。

「お、おう…」

ヤマトは少し申し訳なさそうに言った。

その後も鬼との戦いは続く。作戦は順調かと思われたが、悪天候のせいか、なぜか空挺部隊が上陸してこない。

多勢に無勢、そのまま少しずつ押されていくヤマトたち。

「クソッ…!キリがねぇ!」

(まずい… このままじゃ…!!)

そんな中、ハナビがヤマトに声をかける。

「なあ、ヤマト… お前、4年前のあの日のこと覚えてるか…?」

「? なんだよこんなときに…!」

「昔話だよ… 剣の握り方もろくに知らない、14になったばかりのガキが、すごく悲しそうに泣いていたんだ。それを見た俺は声をかけたわけだが、まあ凶暴なガキでな… ガキとは思えないほどの殺意でいきなり忍ばせていたナイフで切りかかってきたんだ。この傷は今でも残っている」

「…」

ヤマトは昔のことを思い出し、言葉に詰まる。

「ナイフを奪って話を聞いてみると、鬼に仲間を殺されたらしい。そのガキは鬼に親を殺されていたらしく、鬼に対して強い憎しみを抱いていたんだ。2度も自分の力不足のせいで大切な人を失ったことが本当に悔しかったらしい。そして、自分より強いはずの俺が…!織姫を護ってあげられなかったことが…!許せなかったって…!」

ハナビが声を震わせてそう言った。

「違う…!ハナビは悪くない!悪いのは俺だ!俺に…! 力が…」

「聞いてくれ…! ヤマト…! 俺はあの日、自分が何のために強くなったのか思い出したんだ… お前が思い出させてくれたんだ…! ヤマト…! 俺は…! もう誰も泣かなくていいように… もう誰も失わないために力を望んだんだ…!だからな、安心しろ、ヤマト。」

「お前も…!みんなも…!何もかも!! 俺が全部、守ってやるから!!!」

そういってハナビは、1人で最後の力を振り絞って、鬼の軍勢を相手にした。

一時的にだが、驚異的な力で鬼の軍勢を追い払ったハナビ。

しかし、鬼の軍勢はまたやってくる。そして、ついに限界を迎えたハナビが崩れ落ちる。

「ハナビ!」

「死ぬなバカ!!」

「頼む…!俺を置いていかないでくれ…!俺はまだ、お前にまだ一度も勝ててねーんだよ…!ホントはお前にもっと教わりたかったし、もっと話したかった!言いたいことも山ほどあるんだよ!あの時、頭の中がグチャグチャになってひどいこと言ったけど、ホントは全部わかってたんだ…!どうしようもなかったって…!だから俺は、自分の大切な人の命は自分で守れる力を手に入れるために… お前に…! あなたに弟子入りしたんだ!爆師ハナビ! だから…!まだ死ぬな! まだ…!ありがとうって… 言えてねぇんだよ!!」

ヤマトの叫びがこだましたそのとき、遅れて守護警察の空挺部隊が大阪駅の天井をガラスを壊して増援に来た。

「はは…遅せーよ…」

瀕死のハナビが笑いながらそう呟いた。

そして空挺部隊はあっという間に梅田を制圧し、ヤマトたちは大阪駅及び梅田周辺の奪還に成功した。


2話に続く

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