第一話 ③

 研究員の一人が時計の時間を確認して部屋を出る。片方にアタッシュケースを持って廊下へと歩き出した。


「おや?ここは関係者以外立入禁止の場だよ、何で君みたいな児童が紛れ込んでいる?」 


「そのアタッシュケースの中身返してよ」


「……?悪いがコイツは渡せない。大事なデータなんだ」


「そのデータは私の物よ、こんな姿にさせといて逃げるつもり?」


「君らはいわば実験体だ。我々の指示には絶対命令だぞ」


「私の物を盗んでおいてそんなことまだ言うの」


「お前らには関係ない事だ、早くここから立ち去れ!」 


「嫌だね、返してくれるまでは」


「近づくな!見えないのか、この銃を……」


「脅しなの?そんなの関係ないわ」


大きな耳と尻尾を持った獣人化してしまった女子は男に近づき、アタッシュケースを持っている手の甲を手の鋭い爪で裂いた。男はその場に崩れ込み銃を持った手はすぐさま抑えたが出血は止まらない。アタッシュケースはその場に落ち、女はそのアタッシュケースを拾い、その場を後とした。


「お前、突然変異の実験体だな!」


「私にはちゃんと「な・ま・え」があるの、変な名前で呼ばないで」


「貴様、その立場をわきまえろ!」


「なんのことでしょう……?私達をさんざん嫌がらせして」


「それは研究のためだ、お前らは実験体なんだ」


「私達はあなた達のオモチャじゃないの、いずれ分かるわよ」


「クソが!!」


ひたすら長い廊下を歩き、男は段々と遠くなり消えていく……


「どうした?何があった」


「彼女だ、獣人のような人狼だ。この手も奴にやられた!」


「特徴は覚えていますか?」


「あぁ、突然変異の全身に獣がかっていたよ。容姿は人間じゃない。 あれは……獣だ!」


「直ぐに警備員を集めさせます。博士にも連絡を……!?博士!」


警備員と倒れた男の元へ博士がやって来た。

「博士、どうなさいました。」


「警備員さん、ご苦労様です。ハンドガン、借りても良いかな?」


「博士、何になさいますか」


警備員のホルスターから自動拳銃を取り出し、男に突きつける。


「あの子が廊下を走っていたんだよ。よく見てみると、持っていたのは君に渡した大事な機密資料だ。君は彼女に取られてしまった……」


「し、知りませんよ。何故、彼女が僕の存在を知ってこの資料を持っていたということを !」


「君はあの子に渡したんではないのか ?」


「そんなことしませんよ。だってこの事は極秘です。知られることは絶対にないはずですよ」


「なんとしてでもあれだけは守りきって欲しかったよ、その落ちている銃は何だ?片方の手は爪で裂かれたとしても撃てる気だったんだろう?」


「奴の目はまるで獣でしたよ、殺されるかと思いましたし……」


「で、どうする?これからは彼女を探すのか?」


「当たり前です。これから捜索に行かせます」


「行かせる?君の逃がしたものだろう?」


「私なんかただの研究員ですのでそんなことでする者じゃないです」


「自分のミスを他人に巻き込むというのか……」


「いや……でも……」


「そういう人間性は嫌いだ。我々には不要だな」


「ちょっと待ってくださいよ、私はただ……」


「あの資料が世に出れば大変なことになり、国に被害が及ぶほどの重大な物を君は彼女に取られた。彼女の能力を知っておいてのことだったな」


「いいえ、彼女の能力はまだ不明です。ですが無限の能力の可能性は秘めていると……」


「だからなんだ?リスクなどの命にも変えてみせるほどの何かないのか?」


「あの中には……言わないても……」


「外部には絶対とも知られては知ってはいけないんだぞ」


「私は、ただ貴方方にお使いしたくて……」


「そうか無能か……ならば死だ」


「やめてくださいよ、私を殺さないで!」


「最後に問おう!彼女等の開花はいつだ!」


「彼女等!?そのようなデータや資料は……。       どうか!許してください!」


床に張り付き必死に命乞いをするが、博士は引き金を引いた。


「私もこんなことはしたくはなかったよ……教頭先生……」


薬莢の転がる音が廊下を響かせる。


「開花など、個性によるモノだ。データなど無いだと子供達には明るい未来が待っているというのに、データ、資料など無いという子供達の将来を潰すような発言をしたお前は許さない!」


拳銃を警備員に返し、眼鏡をかけ直す。


「警備員さん、コイツの処理お願いしますね」


「え……いや、でも、他の同僚らはどう説明すればいいのか……」


「人狼に銃を取られて殺された……でいいだろ」


「……わかりました。他の人達にもそう伝えておきます」


「しかし、アイツは何故知っていた?何故奪ったのか」


「我々、警備員に聞かれても……」


「まぁいい、ここのルームにいる子達に聞いてみるよ」


「確かに、仲間同士なら動機がわかるかもです」


「それで誰かも分かる、それでは……」


博士と警備員は離れて行き、警備員は男の処理に取り掛かった。 


「あぁ私だ。これより作戦を開始する。現場へ警察車両に紛れ込むように……あぁ…宜しく頼む。これは誰にも知られてはいけない。そうだ、では後程」

電話を切り、時計を見つめる助手

「国家再建の為、我々の栄光のために……!」

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