第5話 文芸同好会

 根本湊は杖を受け取ると、原稿を握る手で俺の腕を組み力強く引っ張った。


「いいから来て!!」

 湊は満面の笑みである。

 俺は3階に連れていかれ、丁度図書室の上の部屋にあたるコンピューター室に引きずり込まれた。


「皆―!! これ、見て!! これで5人そろったよー!!」

「そろったって、何が?」


「小説書き! これで文芸同好会が作れるよ!!」


「文芸?? 作る?? どういうことだ」


「同好会を作るのに部員が5人必要なんだよ。君を入れたら5人になるの」


 五人。

 俺と根本湊と後は――。


 俺はコンピューター室を見渡した。

 間隔をあけて見慣れない奴らが座っていた。


 手前の席に小柄で天パの卑屈そうなジャージの男子、その右後ろに制服をきっちり着こなしている青髪ショートウルフヘアの女子がいて、そしてその隣に彼女はいた――。


「石黒朱里!!??」

「あんた、この間のビックマウス!!」


「ビックマウス?」湊が訪ねる。

「小説を読んだこともないのに作家になってアニメ化してお金持ちになってウハウハするのが夢のバカよ。」


「そうなの?」湊が首をかしげる。

「いや、その……。」バツが悪い。

「小説なんて一作だって作れないわよ。」朱里はやれやれと言ったポーズをとった。


「でも、この人原稿完成させてるよ。」

「――ッ。嘘でしょ??」


 朱里は湊の持つ完成原稿を受け取り、拝見した。


「フンッ。なにが一作完結させることの難しさが解ってないだよ。簡単にできたぜ。」言ってやった。

 本当は結構苦労したのだがそれは秘密だ。


 ――さぁ、驚け、慄け。俺の実力の前に跪け!!


「拙いわ。」

「なんだと!!??」


「この人が入るなら私は入部止めるわ。真面目に執筆したいの。」

「あ、石黒さん待って――。」


 根本のその声が届いたわけではないが、朱里はコンピューター室の入り口で一度停まった。

 そして振り向きざまにこう言った。


「あなた名前は?」

「俺は二年A組、葛間創太。」


「一作作ったことは褒めてあげる。でもね、質って言うものがあるのよ。ちょっと見ただけで文法がめちゃくちゃよ。国語からやり直しなさい。」


 そういうと石黒朱里は部屋を後にした。


「――くっそぉ、あのアマ、なに様なんだよ!!??」

 俺は地団駄した。

「すごいじゃない、葛間君! あの石黒さんが一目置くって相当だよ!!」


「え? 一目置く?」

「そうだよ、一目置いて、おまけに助言までしてる。石黒さんにしては相当優しいよ!! 二人はどういう関係なの?」


「うーんと、作家デビューをかけたライバル。」

「すごい!! 感激した!! あの偏屈な石黒さんにライバル視されるなんて貴方才能あるよ!!」


「え、そうかな。」

「そうだよー。」

 俺はそうかもしれないと思った。


 すると先ほどまで蚊帳の外だった青毛のショートウルフヘアの女の子が言った。

「それは良いけど、どうするの? また部員が4人に逆戻りよ。」

「人数集まらないなら、ボクはもう帰りたいんですケドー。」

 天パの少年は退屈そうだ。


「俺も入部はちょっと。小説は一人で書くものだと思うし」

「なーに言ってんのよ!」

 バンッと背中を叩かれた。


「皆で意見を出し合い切磋琢磨し成長する。青春でいいじゃない。」

「はぁ……。」俺は勢いに押された。


 湊は言う。

「石黒さんは辞退しちゃったけど、新しい仲間が加わったから自己紹介しようか。

 じゃぁ、まずは私から。

 私は2年C組の学級委員長をしています。根本湊です。この会の言い出しっぺで部長をやる予定です。

 好きな小説のジャンルはファンタジー。よろしくね」


 ショートウルフヘアの女の子が口を開いた。

「2年D組 仁井野一禾にいのいちか。私の好きなジャンルは純文学。特に恋愛ものを読むわ。詩を書くのも好きよ」


 天パが言う。

「2年C組、吉井啓太郎よしいけいたろう。好きなジャンルはラノベでデスゲーム系……。」


「じゃあ次は葛間君ね。」湊が仕切る。

「俺は葛間創太。好きな本のジャンルは……。」


「ジャンルは?」湊が目を輝かせている。


「児童文学かな?」

「かな?」


「俺、漫画は読むけど小説は小さいころに少し読んだだけなんです。」


「まぁ! そいえば石黒さんがさっき言っていたわね。いいわ。これから“好き”を探せばいいのよ。よろしくね新人くん」


 俺は湊の差し出した手を取り握手を交わした。


 すると廊下から声がした。

「あ~ん。ラッキー。コンピューター室、空いてるぅ。インターネットし・ほ・う・だ・い~♡」

 教室に入って来たのは、学校でも有名な不思議系ギャルの本仮屋杏奈もとかりやあんなだった。

 二年B組である。みんな周知である。


 本仮屋は頭髪がプラチナブロンドをベースにしておりパステル調のピンクやラベンダーなどの差し色を入れていた。長い髪はハーフツインにし、その毛先は巻いてる。

 そして口調はややトロい。


「よし、これで五人だ。」

「え?」

 俺はまさかと思った。


「本仮屋さんも放課後一緒に小説書くよね?」

「かくぅ~♪」


「よし、生徒会室に直行だ。」

 俺たちは各自荷物を持ち生徒会室に向かった。

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