第4話 スーパー大五郎

 *** 2年A組 教室 ***


 俺はさっそく昨日の受講の帰りに書店員さんに勧めてもらって買った小説の書き方の本を読んでいた。


「創太。お前、小説家なんか目指し始めたの?」

 クラスメイトで友人の優斗ゆうとが声をかけてきた。

「受験勉強始めるって言ってなかったか??」

 そう言ったのは同じく友人の健介けんすけ


「話しかけないでくれ、俺は真剣なんだ」


「そりゃぁ、なぁ。受験から逃避したいのは判るけど突然小説家かよ。」

「創太、小説とか読まないだろ? 無理だって」


「えぇい、気が散るあっちに行ってくれ。」


「へいへーい。」

「せいぜいがんばれよ~。」



 小説の書き方の本には基本的なことが書かれていた。

 まずは昨日教わった文章のルールである。

 そしてテーマやコンセプトの決め方、キャラクター設定の仕方、物語理論などである。


 ――えぇい、めんどくさい。文章のルールさえ覚えておけば後は本能でどうにかなるだろ。

 とりあえず、書き出すぞ!!


 俺は書籍を理解することを放棄した。


 直感で何とかなるだろ。俺は好きに描くぞ。

 そうしてノートに小学生のころから心にしたためていたスーパーヒーロー・大五郎を描き始めた。

 設定や物語の骨組みは頭の中に出来上がっていたので筆に迷いはなかった。



 そして一週間でノート三冊分の小説が出来上がった。


 *** あらすじ ***

 そこは悪が跋扈し、市民は苦渋の生活を余儀なくされていたカモン街。

 ドクロ博士はそんな社会から脱するために一人の強化人間を作ることを決意した。

 そんなおり、一人の病弱な少年は息を引き取ろうとしていた。その名も大五郎。

 大五郎はドクロ博士の誘いで強化人間・スーパー大五郎に生まれ変わる事を決意する。

 悪に立ち向かうスーパー大五郎は瞬く間に人々のヒーローになった。

 しかしスーパー大五郎は完全体ではなかった。その力は長く持たなかったのだ。

 次第に力を使える時間は短くなっていった。

 ある時博士のラボに泥棒が入りスーパー大五郎のデータが盗まれてしまったのだ。

 そして悪人どもはとうとう、スーパー大五郎の欠点を改良した強化人間スーパーサンダーを生み出してしまう。

 激闘の末、命を投げうってスーパー大五郎はスーパーサンダーと悪を倒した。

 人々は悲しみの涙を流した。

 すると天から神様が現れてこう言った。「あなたは良い行いをしました。助けてあげましょう」

 そうして、大五郎は普通の人間の体に戻り、一人の市民として元気に暮らしたのでした。


 *** 学校 特別棟 ***


 放課後。

 確か図書室に”公募手引き”なる雑誌があったはずと思った俺は特別棟を爆走していた。

 廊下の窓からは運動部が活動している様子が見えた。

 みんな一生懸命がんばっている。


 俺も頑張るぞと意気込んで図書室にはいると、中には図書委員と数人の生徒が居た。

「あの、公募手引きってありますか?」

「はい、あちらにありますね」


 図書委員の、手の先が示したのは雑誌コーナーだった。

「上の段の右から三つ目になります」


 俺は言われるまま雑誌を取り、応募先を探した。

 公募賞には文字数制限がありその関係で応募できる賞はかぎられるようだった。


 俺はノートを原稿用紙に清書し締め切りの近かった県文学賞の小説・ドラマ部門に応募することにした。

 小さい賞だったがそれでもよかった。

 受賞者の発表まで3カ月かかるが、入選すれば文学集が発売される。

 そしたら晴れて作家デビューだ。


 それから俺は放課後図書室にこもるようになった。


「できたぞ!!」

 友人達の誘いを断って休み時間や放課後を使って5日かかった。

「あとは郵便局へ持っていくだけだ」


(なにが一作完成させることの難しさだ。俺はやってやったぜ。これであの女、俺をドククラゲ扱いしたことを後悔させてやる)


 俺は急いで封筒に原稿を投げ入れ、図書室から出て階段を駆け下りた。


 あまりに急いでいたためスピードが出すぎてしまい踊り場を曲がった所で人とぶつかってしまった。


 封筒から飛び出し散乱する原稿。

「あぁっ」

 俺はぶつかった事で階段から落ちそうになった相手の腕を捕まえていた。

 コーン、コンコンコン、と落ちていく杖の音が木霊した。


 ぶつかった相手は同じ学年の女の子であった。

 学年では知らない人はいないであろう元気で快活な女の子である。

 少し日焼けしした肌に黒い髪を一本にまとめ上げている。

 昔はもっと色黒だった。

 陸上部のエースであったが、いつのころからか退部し杖を突いて歩くようになっていた。


 名前は確か根本湊ねもとみなと。C組の学級委員長も務めている……ハズ。


「あらやだ、杖が……。」

「あぁ、俺が拾ってきますよ。」

 そういうと俺は階下まで走った。


 杖を拾い振り向くと、根本湊は俺の完成原稿を拾い上げていた。


「あ、それは――。」

 恥ずかしさがこみあげてきた。見ないでくれと言おうとした次の瞬間である。


「君も小説を書くの?」

「君も??」



 これが、俺の人生を変える出会いになろうとはこの時は露とも思わなかった。


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