第3話 石黒朱里
「無理無理無理無理到底無理ね。そんなもの赤ん坊がアルプス山脈横断するくらい無理よ」
少女は人目を気にせず俺を罵倒してきた。
「あんたみたいな、小説を読んだこともない奴が小説家を目指すなんて飛んだ茶番よ。ましてや目的は作家になる事じゃなくてお金持ち?? だったら勉強して医者でも政治家にでもなったらいい。どうせ文章書きなら楽だとおもってるんでしょ。冗談じゃない」
「ら、楽だなんて思ってねーよ」
「どうだか、小説を読んで感動したり泣いたりしたことも無いんでしょ? 無理よ」
「それ位あるよ」
「なんていう本よ。」
「ごんぎつね。」
「それ、教科書に載ってたやつでしょ??? 自発的に読んだ本は無いの??」
少女は言葉尻を上げて俺に詰め寄ってきた。
「あるさ」
「タイトルは?」
「失念した」
「――はぁ???」
「嘘は言っていない、小さい時に読んだから覚えてないだけだ」
「記憶にも残らないなんて作者が聞いたら悲しむわよ」
「ストーップ、ストップですぞ。
蓮十郎が止めに入ってきた。
「ごめんなさいね、彼女は僕の姪なんだ。
彼女も作家志望で小さい時から小説を書いているんだ。
だから熱くなっちゃうこともあるんだよね。」
「へ~。年季の入ったプロの作家志望者さんでしたか、ごめんなさいね。未知の可能性のある新人志望者が先にデビューしたらカッコ悪いですもんね~」
嫌味の一つも言ってやりたかったので言ってやった。
「なんですって! ……小説を書いたことのない奴ほど大口をたたくのよ、あんたなんかがデビューできるわけがないじゃない。この吹き出物おばけ!」
気にしているニキビを悪く言われてカチンときた。
「……あぁ、デビューしてやんよ。お前より先にな!! 釣り目女!」
「何ですって!!?あんたは一作完結させることの難しさが解ってないのよ。やれもしない事を大口叩かないで、このニキビドククラゲ!!」
ドククラゲとは大人気ゲームのモンスターキャラクターである。
俺がニキビを気にしすぎて髪を伸ばして隠しているのをクラゲに例えられたのだ。
「――ッ、そんなんだからクラスの女子からハブられるんだぞ!! 友達も居ないような奴が碌な小説がかけるわけがないだろうよ。この分ならお前より俺の方が作家適正あるんじゃないか??! この共感力零の暴言高慢ちき子!」
「なっ……。」
思い出した。彼女の名前は
彼女は性格がきつく、そのせいで女子から遠巻きにされている。
容姿が可愛いので見かねた男子が助け舟を出したが、それも「余計なお世話よ」と厄介払いしてしまい完全にクラスから浮いた存在になっているという。
「土下座しなさい」
「――は?」
「土下座して、私に許しを請いなさい!!」
「ちょっと、ちょっと」
蓮十郎が慌てる。
「ケンカ売って来たのはお前の方だろ。お前が土下座だ!!」
「何でよ。あんたが土下座よ!!」
「ストーップ、ストップ! じゃ、じゃぁ。こういうのはどうかな? 先に作家デビューした方がデビューできなかった方から謝ってもらうっていうのは??」
蓮十郎の苦肉の案である。
「ほら、ライバルがいた方が二人とも張り合いが有っていいじゃないか。ほらほら、じゃぁ一時休戦」
一考してみた。
受講室に沈黙が降りた。
彼女が口を開く。
「……良いでしょう。負けたら土下座で断筆。二度と作家デビューを夢見ない。」
「あぁ、その話乗ってやるぜ。お前を校庭のグラウンドの真ん中で大衆の面前で土下座させて、その横暴な性格へし折ってやる」
外は雷が落ち、雨が強めに降っていた。
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