第2話 初回講座無料
俺は受付を済ませ無事に小説家講座を受けられることになった。
(良かった。定員ギリギリだったよ)
空いている席に座り、周りを見渡すと色んな年代の人がいた。
ご年配の老人夫婦から、仕事帰りのサラリーマン、主婦、学生、中には小学生に見える子もいる。
(あ、あれ。あの女の子、F組の子だ)
そこには見かけたことが何度かある程度の同じ中学校の生徒が居た。
赤毛のボブヘアで瞳は大きいが目つきが鋭い。
名前は失念したけど以前に彼女が俺の教室の前を横切って行った時にクラスの連中が彼女の噂話をしていたのを聞いたことがある。
ガラッっと戸が引かれる音がした。
「はい、初めまして今日は。私が講師の
おぉっと。教室が静かに沸いたのが分かった。
蓮十郎は細身な体つきで長く伸ばした髪にグリグリメガネをしており、服装は甚平にサンダルといういで立ちだった。
(作家とか初めて見るわ。)
「では、まず最初に簡単に自己紹介しましょうね。
私は”夢の肴”というミステリー作品で新人賞をとり漱石出版からデビューしました。
かれこれもう20年前になります。
それから紆余曲折あり伝奇ミステリーの”成宮くんと貧乏神”シリーズが光栄にもアニメ化する事が決まりました。
良かったら帰りに下の本屋で買ってくださいね。沢山あるので」
蓮十郎はフヒフヒッっと特徴的な笑い方をした。
「ではさっそくこの講座のガイダンス的なことを説明しますね。
授業は今回を含めて全6回になります。
1,小説文章のルール
2,テーマとコンセプト
3、ストーリー理論
4、キャラクターの作りこみ方
5、プロット
6、執筆と推敲と投稿先
受講料3万円で基本のキが学べるようになっています」
――三万円!!?
高い。学生には高額すぎる。
「これであなたも小説家に一歩近づきますよ~」
蓮十郎はフヒィフヒィっと笑った。
取り敢えず今日の講義で学べるだけ学んでから考えよう。
「今日は小説文章のルールから説明しますね。小説にはルールが有ります。
まずは三点リーダーやダッシュの使い方です。」
蓮十郎はホワイトボードに黒のペンで書き込み始めた。
・三点リーダーやダッシュは偶数で使う。
・感嘆符、疑問符の後には全角空白を一字入れる。
・感嘆符の後ろに句点を着けない。
・会話文の最後に句点を着けない。
・行頭は一字開ける。
「こんなところですかね。これが出来てないと受賞できない!――と言う事はありませんが編集者から呆れられます」
蓮十郎はそれぞれの項目に対してわかりやすく例文を書いて説明をしだした。
後日学ぶ項目の大まかな概要と合わせて、おおよそ40分程度だろうか、
世間話を交えながらゆっくりと授業は進んだ。
「昨今は、コロナなどにより自宅にいる時間が増えて家で出来る趣味として執筆を始める方が増えているのですよ。ぜひ皆さんも小説を書いてみましょう。楽しいですよ~。では質問タイムです。誰か質問はありますか?」
「はい!」小学生らしい男の子が勢いよく挙手した。
「はい、君」
「印税って一杯入るんですか?」
「一杯かどうかは主観によるけれど、本が一冊売れるとそのうち10%前後の印税が入るよ。」
「はい」
「どうぞ、ご夫人」
「もう70歳になるのですが今からでも小説書けるでしょうか」
「もちろん。今だと90代のプロエッセイストさんも活躍していますし、問題ありませんよ」
――スッ。俺は無言で挙手した。
「はい君」
同じ学校の女子が居たので体面が気になったが相手はF組で俺はA組。しかも俺は地味で目立たない。
バレやしないと思い、思い切って単刀直入に聞いた。
「小説を読んだことも書いたこともない俺が、作家デビューしてアニメ化することは可能ですか」
「君はアニメが好きなのかい?」
(なんか期待の目で見つめてくるぞ。)
皆の視線が一挙に集まり心が痛む。
「はい、いえ、その……アニメ化してお金持ちになりたいかな、な~んて……」
アニメ好きだと思われたくないという虚栄心がでてしまった。
「それはいいね。夢はでっかいほうがいい。君にもなれるよ。アニメ化作家」
「無理ね」
「え?」
声のした方を向くと例の同じ学校の女子がものすごい形相でこちらを睨んでいた。
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