文芸同好会奮闘記
夢野アニカ
第一章
第1話 絵が描きたかった
子どものころからアニメが好きだった。
その原作である漫画も大好きでよく読みふけっていた。
特に週刊少年雑誌”飛翔”は俺の心をつかんで離さなかった。
よく登場人物の必殺技をまねして遊んだり漫画を描いたりしていた。
だから将来は漠然とアニメーターか漫画家になると思っていた。
しかし、俺――
「何これ、鍋みたい」
「違う、俺の考えたスーパーヒーローだ!」
それは小学生の時の事である。
俺自身が考えた俺の中で大人気のキャラクター・スーパーヒーローの大五郎の絵がとても下手糞だと発覚したのである。
大五郎は悲しき強化人間で町の皆の憧れでもあった。
弱気を助け、悪を挫くそんな心優しき主人公だった。
そんな大五郎が将来テレビの画面で動き回る姿を夢見て疑わなかった。
自信作であった。
悔しかった俺は何度も何度も大五郎の形態をもっともっとカッコ良くなるよう試行錯誤した。
しかし結果は――。
「なんだよコレ、へったクソだなぁ。」
「ソウタ、イラスト向いてないよ。それよりサッカーしようぜ。」
俺は絵を描くことを隠すようになった。
学校ではひたすらスポーツに勤しんだ。
だがそれも今日までだ。
俺は中学生になった。
俺は美術部に入り絵を学ぶ。そう決めていた。
「え? 入部テストあるんですか?」
「そうなのよ、応募者多数で美術室に入りきらないのよ。」
青天の霹靂だった。
美術部は文化部の花形・一番人気だった。
クロッキー帳に10分間で簡単なデッサンをさせられた。
会心の出来だ。
後は結果を待つだけ。
「じゃぁ、ごめんね。葛間君は不合格で――。」
――終わった。
しかし、諦めの悪い俺は食い下がってみる事にした。
「先生、ちょっと待ってください。俺どうしても絵が上手になりたいんです。じゃないと困るんです。」
「絵は下手糞でも死なないから大丈夫よ。
それに葛間君ならスポーツ部の方が合ってると思うの。ウフフ。」
――下手糞――と、言われた。
儚くも俺の美術部で絵を描く勉強をして漫画家かアニメーターになる
俺は絵を描くことを止めアニメも見なくなった。
其れから一年がたった――。
*** 駅前の本屋 ***
中二の春、俺は勉強のため参考書を買いに本屋に立ち寄っていた。
「いろいろあって自分に合うやつが分らないな……。」
中身をチェックし一番わかりやすそうな物をレジへ持って行った。
レジ前には人気作を陳列した島がある。
――アニメ化決定!! そう書かれたイラストが描かれた書籍がたくさん並んでいるのが目についた。
(俺には関係ない事だな。)
そうは思ったが、胸躍るものがある。
アニメに関わる夢を見ていた時代のわくわくが忘れられないのだ。
書店員に声を掛けられた。
「お客様、アニメとかお好きなんですか?」
「あ、いえ。そんなことは……。」
本当は大好きだって言ってやりたかった。
アニメの制作者になりたいくらいだと。
しかし体面が気になった。
いつしかアニメや漫画は恥ずかしい趣味だと思うようになっていた。
「良かったらこちらのチラシどうぞ。」
店員が手渡してきた物はこの建物の中に有るカルチャースクールのビラだった。
――アニメ化作家の簡単小説講座開設!!――とそこにはあった。
「本日、初回、先着30名無料でアニメ化作家さんの講習会が受けられますよ。
さっき見た時はまだ空きがあったようだったので今なら間に合うかも。」
(小説か……。)
俺は運命的な出会いを感じていた。
小説なら絵を描けなくても物語が描ければアニメ化だって夢じゃない。
しかし、アニメが好きだなんて言うのが今更体裁が許さない。
俺が言葉に詰まっているのを見て書店員が言った。
「人生は一度きりだぞ。好きな事に挑戦しなかった後悔は一生残るのよ。――そこで諦めたら試合終了だよ!」
ハッとさせられた。
俺の脳裏に体育館で跳ねるバスケットボールの音がした。
「おれ、行きます!!」
かくして俺の小説家への第一歩が踏み出されようとしていた。
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