覚醒
「ハア、ハア、ハア」
俺の側には完全に破壊されて動かなくなった死体が三十体程転がっている。
だが、前を向けばまだ確実に50を超え、下手すれば100いそうなゾンビ共がいた。
銃は破壊され、身体中傷だらけだ。血も流し過ぎている。
肉体の限界はとうに迎えていた。それでも生きたいという意思で必死に戦った。
気が付いたら「信仰せよ」という煩い言葉も鳴りやんでいた。
「凄いな。凄いな。本当に凄いな。お前凄いな。あのボロボロの状態から俺のゾンビ兵を32体も操作限界まで破壊するとはな。
だけどもうチェックメイトって奴だな。
中々に楽しかったよな。お前が死んだ後も俺がゾンビとしてこき使ってやるよな。ハハハハハ」
皮肉の一つでも言ってやりたいが、意識が朦朧とし、口すらも上手く動かせなかった。
クソが、こんなところで死んでたまるか。まだ行けるはずだ。
まだ・・・・・・生きたい・・・。
クソ、も、う。意識が・・・段々と・・・遠のいて・・・く
【どうした・・・そのまま黙って死を受け入れるというのか?このままでは本当に死ぬぞ?とっと信仰を受け入れれば死なずに済んだのに、俺も愚かだな。だが、それでこそ俺だ。お前はあんな不平等な契約を押し付けるクソな信仰なんぞ受け取らなくても良い。信仰せずともお前には最強の力がある。
呼び起せお前の本当の力を。
我は汝、汝は我・・・己に眠るその力は、死を統べ、闇を死で塗り潰し、全の魑魅魍魎が跪く死霊神の力なり、神さえも死で殺し尽くしたお前のその圧倒的な力を今こそ解き放て、
上野泰斗よ】
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。
力が漲る。傷が治ってる。身体が軽い魔力が漲る。そしてこの全ての力が理解出来る。
確かにこんな力を手に入れたら力に溺れるのは無理もないな。いや、流石にこれは俺が特別過ぎるな」
ゾンビが一斉に俺に跪いた。
長年信仰した神を敬うように跪いた。
「お、おい、どういことだな。どういことなんだな。ゾンビが操れねぇ。操るのを拒否するな。訳が分からないって、おい、お前何をしたんだな」
「何をした・・・って言われても。何も、ただまあ何だ、死霊神である俺をゾンビが敬うのは当たり前の話だろ」
「は?お前は一体何を言ってるって、え?いや、ゾ、ゾンビの神様急に何をおっしゃるのですか、契約違反、いや、辞めてください。知りませんよそんなの。何故、何故、何故、何故、何故、辞めてください。辞めてください。やめろぉぉぉぉ。やめろぉぉぉぉ」
突然、ゾンビを操っていた男は苦しみ出すと、そのまま急激に萎み灰になって消えた。
男が消えるとゾンビも元の物言わぬ骸に戻った。
「もしかして、信仰の代償か・・・死体すらも残らず灰になって消滅・・・怖いな」
辺りを見渡す。
俺とゾンビの戦いが可愛く見える程、まだ戦争は続いていて、信仰によって人智を超えた力を手に入れた兵士が狂ったように暴れ回っていた。
ふとかつてゾンビだった死体を見ると、ついさっき俺と酒を飲もうと約束して死んでいった戦友がいた。
「自分に必死過ぎて気が付いていなかったとは。我ながら愚かだな。酒に付き合ってやれなく済まなかったな。名前も知らない俺の戦友よ。だからこれはせめてもの詫びだ」
自分でも感情的になっていることに気が付いた。
ただ、目の前の状況を改めて落ち着いてみると、暴れている中には大勢の敵兵がいて、俺の友軍が次々と殺されていた。
元々数で劣っているんだ。ある意味で納得の結末であった。
別に軍人として任務を遂行しようとかいう高尚な思いじゃない。
ただ、友の仇と友軍である戦友達を助けよう。友軍を助けれる力があるのに助けないとは卑怯って奴だ。
だから俺はこの圧倒的な神の力を振おう。
死霊神であるこの力を。
「敵兵よ。恨むなとは言わない。だが、お前らも俺を殺そうとしてたんだお互い様ってもんだろ。
さあ、死ね。
死魔法・対象指定・視界内敵兵・逆らえず抗えない死を受け入れろ。完全なる死」
2020年4月1日。
世界が文字通り大変革を起こしたその日、とある小さな紛争地域の本来であれば絶対に勝っていて筈の○○軍の○○兵はとある一人の神の力を手にして少年兵によって皆殺しにされた。
この紛争地域での超能力者による圧勝を引き金に世界は混沌へと陥っていくのだがそれはまた別のお話。
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ちょっとした小話と分かる人には分かるかもしれないネタ。
「おいおい。別世界の俺がこんな風に死ぬのは流石に嫌だな。なんつったて俺だしって、闇助、何世界の壁を越えて助けに行こうとしてるんだ。
別世界とはいえ主様がボロボロになってるのを見過ごせないって?全く相変わらずだな。何、心配するな。大丈夫だよ。なんたって俺だからな。
おい、上野泰斗よ。よく聞けって、いやこれは何か風情がないな。
そうだ、せっかくだし俺の大好きなゲーム風に少しカッコよく手助けをしてやるか。
おい、闇助見とけよ。俺は別世界でも最強だぞ」
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