神と悪魔を信仰せよ


【信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ。信仰せよ】


「頭が、頭が痛い。なんだ急に」


 それは突然訪れた。

 頭に響く数多の声。


 それは若い男の声であった、それはしわくちゃの老婆の声であった、それはハスキーボイスであった、それは甲高い合成音声であった、それはアニメの様なイケメンな声であった、それは可憐で美しい惚れ惚れするような女声であった、それは男とも女とも分からない中性的な声であった、それは・・・・・・。


 様々な声がひたすら俺に「信仰せよ」と迫ってくる。

 

 そして何故か理解が出来た。

 信仰をしたら強大な文字通り人智を超えた力を手に入れれると、そしてその力はこのクソったれな戦争を一人でひっくり返せるような力であると理解が出来てしまった。


 ただ、俺の中の何かがそれを拒否した。


 この信仰は諸刃の剣だ。

 只より高い物はないという言葉があるが、正にその通りだ。

 人智を超えた力を信仰のみで手に入れられるはずがない、その後にもっと恐ろしい何かを要求される可能性は大いに有る。


 だから俺は逃げた。

 いまだに続く呪いの様な「信仰せよ」という言葉から逃げた。

 戦場からも逃げた。


 逃げて気が付く、戦場がより深い混沌に陥ってしまっていることに。


 辺りを見渡すと炎を操り人を焼き殺す者、銃で撃たれて体が再生する者、無から大砲を生み出して砲撃を行う者、死んだ人間を操り他の人間を殺す者、5メートルを超える巨人へと変化し人間を踏み潰す者。


 明らかに人智を超えた力を持ち、振う人間が一定数存在していた。

 そして理解出来た。

 これは信仰をした人間の力だと。

 そして信仰をした人間が信仰をしていない一般人を一方的に嬲り殺す。

 これが今の現状だと。

 

「ハハハ。マジかよ。これが本当の地獄絵図か・・・取り敢えず逃げよう」

 戦場は大きく混乱していた。

 前線は崩壊していたし、せっかく作った塹壕もめちゃくちゃだった。だがしかし、幸いというべきか力に溺れた数多の愚か者が暴れる回ってるおかげで敵兵からの追撃はなかった。


 俺は必死に走った。

 走って走って走って逃げた。


 ひたすら走って走って戦場から離れようとした。


 



 バン




「ぐ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ」


 激痛が走った。

 右足を見ると太股あたりから多量の血が流れていた。

 

「クソ、早く止血をしないと死ぬ」

 慌てつつも冷静に激痛を服を嚙みながらこらえつつ止血を行う。


「そうだな、止血をしないと死ぬよな。ああ。そうだよな可哀想だな。ああ。そうだな可哀想だな。やったのは俺なんだけどな。ギハハハハハハハハハハ」

 少し離れた先にいる男が俺に語り掛けてきた。

 男の周りには100を超える兵士がいた。

 しかし、その兵士はどれも欠損していたり腐ってたりと到底生きている状態ではなかった。


「ゾンビか・・・それも信仰をして手に入れた力ってか?ハハハ。信仰をして死者の冒涜をするとは皮肉が効いてるな」

 

「そうだな。ゾンビだな。俺が手に入れたのはゾンビの神様の力なんだな。この力はこの死体が転がってる戦場において最強に最凶だなぁぁぁ。最高だなぁぁぁ。ありがとうゾンビの神様ぁぁぁぁ」

 芝居かかった喋り方をする男。

 男は完全に自分の手に入れた力に酔っていた。

 しかしそれも無理もないという話である。男がゾンビの神に与えられた力は【死体操作】文字通り死体を操る力であり、操る都合上死体は出来る限り多く、強い方がいい。

 そしてこの場には多くの死体と屈強な兵士という強い死体が揃っていた。

 

 あっという間に100を超える死なない屈強なゾンビ兵を手に入れた男は自分こそが物語の主人公であり最強の存在だと思い込んでしまっていた。


「一応聞くが、このまま俺を殺してその趣味の悪いゾンビの一員にでもするってことか?」


「そうだな。当たり前だな。そうにきまってるよな。でもせっかくだ。もう少し楽しませてくれよな。お前、若そうで中々にそそる顔してるじゃないか。もう少し良い悲鳴を聞かせてくれよな」

 

 ゾンビが俺の方にじりじりとにじり寄ってくる。

 どうやら俺を甚振って殺すつもりらしい。

 信仰せよという煩い声がより強く頭に響いてくる。

 多分、ここで信仰すればこの状況を一変させることはできるかもしれないな。少なくとも今は生き残れるかもしれない。


 ただ、どうにも信仰をするつもりにはなれなかった。


 変に信仰をするよりもこの場で殺された方がマシだ。


「ただ、そうただだ。ただで死ぬつもりはないし、そもそも論として死ぬつもりも毛頭ない。

 足掻いて足搔いて生き残ってやる。かかってこいクソったれなゾンビ共、俺が責任を持ってもう一度あの世へ送り返してやるよ」

 激痛に耐え、アドレナリンをドバドバ分泌させながら俺は立つ。

 銃口をゾンビ共に向けながら最後の悪足搔きを開始した。

 

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