第4話 時と繋がり







 あれから1年の月日が流れた。

 状況は一向に好転しないが、悪化することもなかった。


 ただ、環境にはわずかに変化が訪れていた。



「爺。街に行くわよ。今日は誰かが買ってくれるかもしれない。」


「昨日、暴行されたばかりですがな。」


「人生初の食材を買うためよ。死んだように生きるくらいなら、生き生きと死にたいわ。」


「左様ですか。行く末くらいはお供いたしましょう。」



 依存でも……

 愛情でも……

 共生でも……

 主従でも……

 家族でも……

 同情でもない。


 だが、二人の間には確かに何かがあった。

 それは形のない、しかし固く結ばれた何かだった。






 ――貧民街にて――



「……売れないわね。宣伝でもしてみる?」


「止した方がよろしいかと。」


「そうね……何で因縁をつけられるかわからないもの。」



 すると、目の前にホワイトアイボリーの長髪をたなびかせた、美しい女性が現れた。

 腰には見たこともないような絶剣を差しており、戦闘に長けた人物だとすぐにわかった。


 貧民街には似つかわしくない、その出で立ち。

 当然、二人は表情には出さないものの、警戒心を強めた。



「絵、買える?」


「か、買えます!!」


「なら、一枚お願い。」


「はい!!どれになさいますか?」



 女性からは悪意が感じられない。

 お嬢は喜びと期待に胸を膨らませ、警戒をすっかり解いてしまった。


 しかし、老人奴隷は依然として微動だにせず、静かに後ろに座っていた。



「変わった絵だね? 動いてるみたい……凄いね、予定調和どころか、条理が箱庭の外にある。これ、いくら?」


「え、えーと。お金さえ払ってくれれば、いくらでも構いません……」


「おっけぃ。この星の通貨って何だっけ?」


「ほ、星?あ、国のことですか?ルピーです。」



 女性は小さな袋から何かを探し始めた。

 その様子に、老人奴隷の警戒はさらに高まる。



「はい。とりあえず今ここにあるのは全部買う。4000万ルピーで買えるかしら?良ければ7日後にも来て。」


「4000……万?買えます!もちろん買えます!7日後も必ずここにいます!」


「いっぱい来れないでしょ? 一人なんだから……じゃあ、この絵は貰ってくわね。次に来た時は、その腕について話してもらえる?」


「はい!!……え?」



 腕は完全に隠していた……視覚で気づくことは不可能なはずだった。

 問い返そうとしたが、既に女性の姿は消えていた。



「本日は去ることです。くれぐれも悟られぬよう。」


「分かってる。」



 二人は受け取った金を隠し、アトリエへと帰路についた。



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