帰還
目を覚ますと白い天井が目に入った。カーテンで閉じられた白いベッドに横になっていた。白で統一された場所――病室だった。
部屋にいた看護師が目を覚ました俺に気が付き、いくつか質問してきた後、直ぐに医者を呼ぶ。
慌ただしく医者が部屋に入って来て、俺の容態を確認してきた。
その時に、四日程意識を失っていたと説明される。
歩道橋から落ちてしまった場所は人通りが多い場所だったため、直ぐに救急車を呼ばれて病院に搬送された。
理亜も俺と同じく頭を打って気を失っていたらしいが、少し前に目を覚ましたとのことだった。
検査をした結果、迅速に救助されて病院に運び込まれたおかげか特に問題もないらしい。
その時に、幸いにも助けようとした小学校の少女の方は無傷だったと聞かされる。
……まあ、怪我をしたかいはあったかな?
精密検査を受けた結果、骨折などの大怪我も後遺症もなく大丈夫だと判断され、数日後には退院できると言われた。
病院から連絡を受けたのか両親が病室にやって来る。随分と心配を掛けたらしく、申し訳ない気分になる。
だが、怪我は大した事がないと分かると安堵したようで、早く治せと苦笑交じりに小声を貰った。
両親が帰った後、病院の中庭にあったベンチに座りぼんやりと綺麗な夕陽を眺める。
あの自作ゲームの世界のことが脳裏をよぎる。
気を失っていただけなので、あの自作ゲームの世界の体験は本当にただの夢だったらしい。
夢にしては現実かと思うほどリアルだったな……。
目を覚ました後でもはっきりと記憶が鮮明に残っており、実際に何日も過ごしていた気分だ。
「……もしかして、目が覚めなかったらずっとあの世界を彷徨っていたのか?」
そう考えると背筋がちょっと寒くなる。
ないとは思うが、意識が戻って本当に良かった。
「意識不明で夢を見るにしても、もっと幸せな夢にして欲しかったな……」
何でよりにもよってバグだらけの不完全な自作ゲームだったのか。
せめてちゃんとしたファンタジーの世界を―――いや、ファンタジーの世界観なんて過酷なものの方が多いか?
なら、攻略方法を知っていたあの自作ゲームの方が良かったのだろうか?
あんな出来損ないの世界の方が良いなんて、腑に落ちないと言うか素直に認め辛いな……。
夕日を見て物思いに耽っていると、隣に誰かが座る。
「やっほ」
栗色の髪をした少女――千歳理亜だった。
パジャマを着ており、俺と同じく頭に包帯を巻いているが元気そうだった。
「もう怪我は大丈夫なのか?」
「おかげさまで!軽い脳震盪だけだったよ」
理亜が俺の頭部に目を向ける。
「その怪我、私を助けてくれたんだよね?ごめんね」
申し訳なさそうに謝ってくる。俺も彼女と同じく頭に包帯を巻いている。小学生の少女と理亜を受け止めたときに、俺は一番下にいたので強く体を地面に打ち付けることになった。
まあ、二人とも体重は軽い方だったので、大怪我には繋がらなかったが。
「別にいいさ、俺も後遺症とかないし。そっちも軽い怪我だけで良かった」
「……そっか、ありがとうね」
「できれば無傷で助けられたら良かったんだけどな」
「そんなことないよ。あの高さから落ちてたら大怪我してただろうし」
理亜は笑っているが、俺は納得できなかった。
あの時飛んで来たビニール袋と着地時の瓶のゴミさえなければ、もう少しどうにかなったのだ。
くそ、ゴミを捨てた奴らが憎い!
きっと捨てた連中はゴミ箱に捨てるのが面倒くさいとかの理由で、事故に繋がるとか考えていなかったんだろうな。
ついでに自分の運の無さを呪いたくなる。何であんな逆ミラクルを喰らったんだ。
お祓いでも受けた方がいいかもしれないな……。
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