求婚


「あの渦は元の世界に繋がっているはずだ!」

「あれが…?」


 急いで理亜の手を引いて急いで光の渦に行こうとすると、姫と同じ顔した中肉中背で茶色の短髪にそばかすをした騎士、グランドピアノ、こけし――この世界の異形の住人たちが駆け寄って来る。


「お待ちください勇者様!」

「この国に残ってください!」

「どうか王におなりください!」


 人外たちが引き留めようと立ち塞がってきた。


「王になんかなるか!俺たちは家に帰るんだ!そこをどいてくれ!」


 悪意や殺意はないが、俺たちを地獄に引きずり込もうとする妖怪にしか見えない。


「くそっ!理亜、ちょっと我慢してくれ!」

「え?きゃっ!」


本調子でない理亜の背中と膝に腕を回して抱き上げる。


「ひ、日月くん!?この体勢は、え、えっと…!」


 理亜が恥ずかしがっていた。

 俗に言うお姫様抱っこだ。


 俺も普段ならいきなりこんなことしないが、今は気にしている余裕はない。

 あの光の渦がいつまであるか分からないから。


 しかし、いつの間にか高座からアデート姫が降りて来ていたのか、俺の腕を掴まれた。


 驚いて振り返ると、俺に熱っぽい視線を向けていた。


「一目見た時からあなたが好きでした!」


 生まれて初めて異性に告白された……。


 全く嬉しくない!

 いや、そもそも異性なのか…?


「ごめんなさい!無理です!」

「そんな!私の全てを捧げますから!」

「いりません!」


 手を振り払おうとするが、負傷した理亜を抱きかかえているので上手く振り払えない。


「ちょ、離せ!」

「お願いです!私と結婚してください!」

「無理だって言ってんだろうが!諦めろ!」

「酷い!」


 俺の拒絶に姫(?)が泣きそうな顔になる。


 しかし、その顔を見ても特に罪悪感とかは湧かなかった。


「勇者よ!いくら英雄と言えども無礼であろう!」


 ブニング王が非難してくるが、俺の意思を無視して結婚させようとするそっちも非常識だと思う。


「魔法使い様!」


 そうこうしている内に今度は人体模型が近づいてきて理亜を呼ぶ。


 今度は何だと思っていると、とんでもないことを言い出した。


「先程の戦闘で、私は貴女の美しく勇ましい姿に感動しました。是非とも私の妻になってください!」

「ええ!?」


 理亜が面食らっていた。

 まさかの人体模型からの求婚である。


 理科室の置物の分際で何言ってやがる!?

 ぶった切るぞこの野郎!


「あの人体模型様が!?」

「ハーティクル王国で最も美しい『氷の美男子』と呼ばれたお方が!」

「今まで女性に見向きもしなかったのに!」


 周囲がざわついているがちょっと待って欲しい。


 美形の基準は時代や住んでいる場所が違うと色々と変わってくるし、個人の趣味だってある。


 だが、人体模型に興奮するのは少数派だと思うし、模型の内臓に興奮する特殊な人でもないと受け付けないだろう。


 そもそも人体模型が氷の美男子ってなんだよ!?

 冷凍保存された解剖体の間違いでは?


「私はこの国の貴族で資産もあります。貴女には苦労はさせないと誓いますので、是非とも婚姻を結んでいただきたい!」

「え、遠慮します!」


 理亜も人体模型に求婚されて困っていた。まあ、当たり前の反応だろう。いくら金持ちで地位があっても動く人体模型と結婚するとか誰だって無理だと思う。

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