魔王(1)
「『ファイアーアロー』!」
反対側に回った理亜が死角から魔法を放ち、魔王に直撃して爆発が起こった。
爆煙が辺りに漂う。
しかし、確かに魔王に直撃したと思ったが、煙が晴れた場所から平然とした魔王が現れる。
怪我をした様子はなく、無傷だった。
「うそ!?」
「余は魔導神だぞ。あなどるな。その程度の魔法では傷一つ付けられぬわ」
おいおい魔法が直撃しても無傷って……!
滅茶苦茶強くないかこの魔王!?
「そこっ!」
エリアスが素早く魔王に近づき、鋭くなった爪を振り下ろす。
俺はエリアスの動きに合わせ反対側から剣を振り抜く。
「はあっ!」
「ふんっ!」
しかし、魔王は両手に氷の短剣を素早く作り出し、俺たちの攻撃を受け止めた。
氷なんて強度のなさそうなものだが、砕けることなく鉄の剣すら防いでいた。
「まだまだ!」
エリアスはもう片方の手でサブマシンを魔王に向けて乱射する。
だが、魔王は上体を後ろへ倒して弾丸を避ける。
こんな至近距離で放たれたマシンガンを避けるなんて、どんな反射神経してんだよ!?
隙を突いたと思ったが、魔法だけでなく身体能力も高いのか簡単に回避される。
そして銃弾を躱すと同時に俺とエリアスに返す刀で氷の短剣を投げつけてくる。
不安定な体勢で投げつけてきたのに、短剣は俺たちの首へと吸い込まれるように飛んできた。
「ぐっ!?」
俺は慌てて盾で防ぐ。短剣がぶつかった衝撃で腕が痺れる。
ちなみにエリアスは口を大きく開き、飛んできた短剣を牙で受け止めて嚙み砕いていた。
……いやまあ、もう何も言うまい。
翻るように大きく後ろに飛んだ魔王は両手を上へと掲げる。
黒く重苦しい魔力が集中していく。
魔王の頭上に俺でも分かるくらいの濃密な力が集中していた。
まさか、とんでもない魔法を放とうとしている!?
「させるか!」
本能で危険だと感じて魔法を止めようと駆け出すが、魔王の周囲に氷の短剣が幾つも発生する。
「止められるなら止めてみるがいい!」
「な!?」
そして、浮かんでいた氷の短剣が一斉に俺たちに飛んでくる。
魔法の同時使用!?何だその反則技!?
かなりの速度で何十もの氷が押し掛けてくる。
俺たちが氷の短剣を捌いている間に準備が終わってしまったのか魔王が笑う。
「これで終わりだ。余が世界を支配するのを、あの世から見ているがいい!」
魔王の頭上にあった黒い塊を中心に大爆発が起こった。
視界が黒く塗りつぶされ、その直後、途轍もない衝撃波が襲ってくる。
広間もろとも吹き飛ばしそうな威力で、爆風に吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。
「が!?」
衝撃で意識が飛びそうになった。
身体がバラバラになったような錯覚に陥る。
全身を打ち付けた痛みに耐え、力を振り絞り床に剣を突き刺してなんとか立ち上がる。
目を開けると柱は吹き飛ばされ、壁や天井までもが半壊していた。
「く、くそっ……」
暴風が収まり周囲を見ると、グリドやエリアスも離れた場所で倒れていた。
理亜も吹き飛ばされたのか崩壊した城の柱の前で気を失っている。
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