決戦

 魔王は見下した様な不遜な目で俺たちを見ていた。


「運良く『キレム』を倒した様だが、余はそうはいかんぞ。貴様らはここで終わりだ。余が引導を渡してやろう」


 魔王が威圧してくるが、ちょっと待って欲しい。


「キレム…?誰だ?そんなやつ知らないが?」

「さっき貴様が切った獣人の名だ」


 魔王が憮然とした態度で言う。


「あの獣人、そんな名前だったんだ……」


 瞬殺したから名前を聞いていなかったな。

 このゲームを作った俺も名前を忘れていた。


 魔王が話を続ける。


「だが、ここまで辿り着いたことは称賛してやろう。フレイアル、ラフネ、ヘクター、あやつらまで倒せたのは予想以上だった」


 ラフネとヘクターは分かるが、聞いたこともない奴の名前が混じっていた。


「フレイアル…?誰だ?そんなやつ知らないが?」

「ヒヅキ、そいつは火竜の名前だ」


 今度はグリドに訂正された。


「あの火竜、そんな名前だったんだ……」

「名乗ろうとする前に、一方的に攻撃して倒したからな」


 グリドが若干呆れていた。


 グリドたちと会話していた時も火竜と呼んでいたから、名前を気にしたことがなかったな。


「……名乗りすら聞かずに切り捨てるなど、貴様本当に勇者なのか?」


 魔王が訝し気に俺を見る。


「見敵必殺の何が悪い?戦争をしているのに余裕ぶっている方がおかしいんだよ」


「……蛮族みたいな思考をした勇者だな」


「おい待て!世界を滅ぼそうとしている魔王に礼儀をとやかく言われる筋合いはないぞ!」


 自分のことを棚上げして非難してくる魔王に食って掛かる。


 非常に心外である。

 人にものを言える立場か!?


「まあ、よい。貴様らは余の手で直々に葬ってやろう。光栄に思え」


 魔王の両手に炎の塊が浮かぶ。


「余の魔法をどこまで受けれるか試してやろう!」


 魔王が火球を放つ。俺たちはそれを避けるが、着弾した場所から大きな火柱が上がった。


「なっ!?」


 触れれば炭化してしまいそうなほどの威力に驚いてしまう。


「直撃したら不味そうだな」


 ラスボスの別名は魔導神であり、その名の通り魔法を中心に戦う。

 魔法の扱いに長けているのが良く分かる破壊力だった。


 そして気になるのが、先程魔法を放つときに魔王は魔法の名前を言わなかったことだ。


 俺たちは魔法の名前を言わなければ発動すらしないのに、魔王は魔法が使えている。


 その事実から分かる通り二つ名は伊達では無いようで、魔法もまともに喰らえば大怪我を負いそうな威力だ。


 間髪入れずに、魔王の手に雷が発生する。


「『ワイドシールド』!」


 とっさに俺は皆の前に出て魔法で障壁を貼って雷の魔法を防ぐが、受け止めきれずに後ろに吹き飛ばされた。


「ぐっ!強い!?」

「その程度で余を止められると思うなよ!」


 幸いにも障壁を貫通することはなかったが、大きくヒビが入り二発目は受けれそうにない。


 後方に吹き飛ばされ、受け身を取るために地面を転がる。


 追撃のためか魔王が手のひらを向けてくるが、グリドが横から斧で切り掛かかった。


 しかし、魔王は顔を向くことすらせずに、まるで見えているかのように余裕の表情で斬撃を躱す。


「ぬるい」

「何!?」


 虫でも払うかのような軽い仕草で雷を纏わせた腕を振るうと、掠ったグリドが吹き飛ばされる。


 特別力を入れている様子もないのに、怪力のグリドを軽く往なしていた。

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