大活躍

 王国の騎士が魔物たちを――魔物?……こいつらも本当に魔物で良いんだよな?

 ……暫定魔物たちを食い止めながら声を上げる。


「さあ、勇者様!我々が抑えている間に『名前が設定されていません』を使って魔王城の結界を破るのです!」


 ……………………使う?


「これどうやって使うんだ?」

「ご存知ないのですか!?」

「知ってるわけないだろ!?」


 感触以外何も分からないのに、使い方とか知っているわけがない。透明なので見た目から使い方を推測することもできないし。


「我々も使い方を知らないのですが!?」


 騎士が困惑しているが、俺も困惑していた。

 気まずい空気が流れる。


「つ、使い方、ならワシがっ…!」


 ロルハ司教が息も絶え絶えながらこちらに走ってくる。

 ご老体に無理をさせているみたいで申し訳ない。


「ま、魔王城に向かって掲げるのですじゃっ…!」


 だが、貰ったアドバイスが簡潔過ぎて分からない。


「向けるってどっち向ければいいの!?前とか後ろとかないの!?使うどうなんの!?俺たちまで巻き込まれたりしない!?」


「掲げるだけで大丈夫ですぞ!」


 どうやら使い方は複雑ではないらしい。


 俺が『名前が設定されていません』を掲げると魔王城に貼られていた結界にひびが入った。そのひびを中心に全体に亀裂が入り、ガラスが砕け散った様な大きな音を立てて結界が消えていく。


 結界がなくなると魔王城がゆっくりと地面に降下していく。


 魔王城の異変に気が付いた魔物たちが泡を食った様に叫ぶ。


「何だ!?貴様何をした!?」

「……何をしたんだろう?」

「ふざけているのか!?」

「いや、大真面目だが?」


 俺は一体何をしたんだろう?


 良く分からない物体を掲げただけである。


 何もしていないのに勝手に壊れた。


 混乱する魔物たちをよそに、障壁を失い地面に落ちてくる魔王城。


 緩やかな速度で落ちたが、質量があったためか振動がここまで来る。


 エリアスが装甲車をドリフトさせながらやって来た。


「乗ってください!魔王城に乗り込みますよ!」


 魔王城にそのまま車で突撃するらしい。俺たちも装甲車に乗り込む。


「勇者たちを止めろ!」

「魔王様の元に行かせるな!」


 進路上に大きなハンマーを持った髭の長い赤い服の老人――サンタクロースたちが立ち塞がろうとしていた。


「道を開けてください!」


 エリアスがスピードを落とさないどころか、むしろアクセルを踏み込んでいるのを見ると彼らも魔物なのだろう。


 子供の夢を壊す邪悪な産物だ……。


 サンタクロースたちがハンマーを振りかぶって装甲車を止めようとすると、エリアスがボタンを押して前方にハイビームを照射する。


 軍用だからかライトの光量が強く、武器を構えたサンタクロースたちがライトに照らされて怯む。


「め、目が!」

「こ、姑息な手を!ぐあっ!?」


 その隙にエリアスがぶつかる直前に装甲車を一回転させ、車体の側面でサンタクロースたちを弾き飛ばした。


 凄いドラテクだなこのシスター!?装甲車での戦いに慣れている!


「このまま魔王城に突撃します!シートベルトをしっかり締めて掴まってください!神のご加護よ!『サンクチュアリ』!」


 エリアスが車体の前方に魔法で防壁らしきものを張る。


「――この人ちゃんと魔法使えたんだ!?」


 今まで魔物の技を使って戦っている姿しか見たことないから驚いた……。


 続いてエリアスがフロントガラスの防弾装甲が降ろし、速度を上げて魔王城の正面扉に向かう。


 軍事用装甲車の正しい使い方である。まさか勇者が魔王を倒す物語で、装甲車が大活躍するとは思いもしなかったな。


「いきます!」


 魔王城の正面扉を装甲車でぶち当たると、車体に凄まじい衝撃が伝わる。


「うわっ!?」

「きゃあ!?」


 轟音が響き、魔王城の大扉が吹き飛ばされた。


 思わず理亜と声を上げてしまったが、頑丈な装甲車にエリアスの魔法防壁、そして勇者の加護のおかげか怪我をすることなく無事に大扉を押し開いた。


 魔王城にいたであろう魔物は王都に攻め込んでいたのか、幸いにも侵入した俺たちに周囲から押し寄せて来るなどということはなかった。

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