召喚
当人たちだけが盛り上がっている決闘の光景を前に、理亜と二人で呆然としていると、王都の城壁の上で弓を構えて魔物を迎撃していた兵士が叫ぶ。
「魔王軍の召喚魔法を確認!大型の召喚獣が来るぞ!」
どうやら敵が更に攻勢を強めてきたらしい。
王都の外側に紫色に妖しく輝く、途轍もなく大きな魔法陣が見える。
弾ける様な火花と共に、その魔法陣から巨大な何かが現れた。
大きな足を地面に降ろせば、地響きがここまで届く。
魔法陣から現れたのは三十メートルはあろう全身が緑青色の巨大な女性だった。ローブを纏い、頭にとげとげしい冠を被っている。火が点いた松明の様なものを掲げ、もう片方の腕には分厚い金属の板を抱えている。
――いや、待て。あれって……。
「ねぇ、どう見てもアレ『自由の女神』なんだけど……」
理亜が言ったように、どこからどう見てもアメリカにある『自由の女神』である。
………………召喚獣?
「こちらも王都防衛用最終兵器を召喚します!」
ローブに杖を持った理亜に似た格好をした、王国の魔法使いたちが城壁の上に集まり、大きな魔法陣をいくつも作り出していた。魔王軍に対抗して王国軍も何かするらしい。
魔法陣から手足が胴体部分と同化し、顔がやたら縦に長い巨大で重そうな石像が複数体現れる。自由の女神程ではないが、出て来た石像もかなり大きい。
……こっちも非常に見覚えがある。
「『モアイ像』じゃねーか!」
召喚獣と最終兵器が『自由の女神』と『モアイ像』ってどんなチョイスだよ!
他にもっと適任のファンタジー生物はいただろ!?
いや、重量があって強そうではあるけどさ!
自由の女神が近づいてきたモアイ像の頬を松明でぶん殴り、一体のモアイ像が錐揉みしながらふっ飛ばされる。
しかし、他のモアイ像たちがその隙に自由の女神に距離を詰め、頭を振りかぶって頭突きを繰り出していた。
空気が揺れるのが分かる程の凄まじい衝撃音が響き、土埃が舞い上がる。
迫力のある戦いだが――、
「大丈夫かこれ!?」
色々な意味で危ない戦いだった。あっちこっちから苦情がきそうな殴り合いをしている。文化遺産は殴り合うために生み出された訳じゃないんだぞ!
「勇者どもを倒せば終わりだ!」
「我ら王国騎士団の意地を見せよ!」
「総員突撃!」
「迎え撃て!」
グランドピアノとベッドがぶつかり合い、くるみ割り人形とこけしとニワトリが宙を舞う。
シーサーとマーライオンが噛みつき、その横でダルマとコマが高速で回転している。
「何なんだ………」
見た目と中身が滅茶苦茶な騎士と魔物。
肉弾戦をする文化遺産。
飛び交う土産物。
北門周辺の戦場が混沌と化していく。
「何なんだこれは!何がどうなっているんだ!?」
誰――と言うか、何が味方で何が敵なんだ!?
みんな何と戦っているんだ!?
敵味方の判別がつかないため、助けにも入れない。
下手に介入すると王国軍の味方を切ってしまいそうだ。
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