魔王城

 物体Xを手に途方に暮れていると、大きな鐘の音が部屋の外から聞こえてきた。


「何だ?」


 王都中に響きそうなほどの音が四方八方から響く。


 時刻を知らせるような一定の間隔で鳴らすものではなく、短い間に何度も乱暴に叩きつけるような警鐘だった。


 何事かと思っていると部屋に法衣を着た男性が駆け込んで来る。

 慌てて来たのか、衣服が乱れており、表情から随分と焦っているのが分かった。


「大変です!魔王軍が王都の近くに現れました!」

「何じゃと!?」


 入ってきた男性の言葉にロルハ司教が驚く。


 もしかして魔王が攻め込んで来たのか?


 急いで大神殿の外に出ると、逃げ惑う人々で王都がパニックになっていた。


 王都の北側の上空に目を向けると、黒く禍々しい大きな城が浮かんでいた。


「あれは魔王城!?魔王めが神器の復活に感付いて攻めてきおったか!」


 司教が忌々しそうにしている。


 空に漂う魔王城は淡く輝く球体状のものに包まれている。あれが魔王城の結界だろうか?


 遠目であるためハッキリとは分からなかったが、恐らく魔物であろうものたちが次々と城から降下してきている。


「私は方舟を取ってきます!」


 エリアスは裏手に止めてある装甲車に向かった。


「頼みます!俺たちは先に魔王城に行きます!」

「北門で合流しましょう!」


 既に王都の北門付近で戦闘が発生しているらしく、魔法のようなものが飛び交っているのが見える。


 援護のために俺と理亜とグリドは走って向かう。


 道中では慌てふためく住人たちを兵士たちが誘導し、避難させているのが見える。

 北門に近づくにつれ、争う音が激しくなってきた。


 王城の騎士や兵士たちが魔王軍との決戦のために駆けつけてくれたのか、魔物たちと戦っていた。


「『サイダー』め!ここは通さん!」

「『コーラ』如きに止められると思っているのか!」


 しかし、辿り着いた北門では何故かペットボトルの飲み物たちがぶつかり合っていた。


 人と同じくらいの大きさになっているが、それはまごうことなき清涼飲料水だった。


「……サイダー?コーラ?」


 意味が分からない光景に思わず立ち止まってしまうと、フルプレートの鎧を着た騎士がこちらに駆け寄ってくる。


「覚悟!!」

「はあ!?」


 騎士がいきなり切り掛かってきた。


 慌てて剣を抜いて迎え撃とうとすると、反対側から腰巻をつけただけの豚鼻の魔物――『オーク』がやって来て俺を挟撃しようとする。


「勇者様をやらせはせん!貴様の相手はこの私だ!」


 しかし、何故かそのオークは騎士と俺の間に割って入り、振り下ろされた剣を棍棒で受け止めた。


「邪魔をするな!」

「勇者様!ご無事ですか!」

「――――…あ、そっちが味方なんだ」


 理解するのに時間が掛った。どうやらオークが味方の王国軍で、切り掛かってきたフルプレートの鎧の騎士が敵の魔物だったらしい。


 紛らわしいな!見た目と中身が逆だろ!?キャラデータどうなってんだ!


 内心で憤っていると、馬が駆けるような音が聞こえて来る。


 視線を向けると今度は俺たちの方に武器を持った二足歩行の鹿が突撃してく――……鹿?


「ここは王国騎士団一の槍使い、『ニホンジカ』にお任せください!魔王城まで道を切り開きます!」


 突撃してきたんじゃなく、助太刀に駆けつけて来たらしい。


 というか二足歩行の鹿ってなに!?過去の俺は何を考えてこの鹿を王国の騎士に設定したんだ!?


 その鹿は蹄しかない前足で器用に槍を挟み、まるで踊るかのように振り回す。


「無益な殺生はしたくない。大人しく下がっているが良い!」


 遠心力をつけて勢いをつけた穂先が魔物に当たり、薙ぎ倒されていく。


 予想以上に強いなこの鹿!?


 こんなに強いなら魔王軍の幹部の討伐にも同行してくれていたら――いやこれ以上動物はいらないか……。


 ペンギンで間に合っている。

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